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デジタル化時代の自動車学校業界の戦略的アジェンダ

先日、運転教育研究会様からお声がかかり、自動車学校業界のデジタル化をテーマとした講演をさせていただきました。

ここで話した内容は、自動車学校業界の経営者に有益なだと思いましたので、Noteでもポイントを共有させて頂こうと思います。

ここ数年、いたるところで「DX」という文字を見かけるようになったことからもわかるようにデジタル化への関心がとても高まってます。「デジタル化を急がなければ取り残される」という危機感をもつ経営者も多いことでしょう。しかし、急いては事を仕損じるというように、闇雲に取組んでいくというのも決して得策ではありません。特に、自動車学校業界は情報システムの導入が他業種と比べて大きく遅れているということもあり、自身の立ち位置を把握しながら問題解決をしていかなければなりません。

上記のような観点から、まずは、ビジネスにおけるIT導入の歴史の振り返りから話を始めます。

業務にコンピューターが活用されるようになったのは1970年代くらいのことで、その頃はメインフレームやオフコンといわれる業務専用の高価なコンピューターによって、会計や給与計算などの処理が行われるようになりました。それから時が進み1990年代に入るとUNIXやWindows等のオープンシステムによるダウンサイジングが進み、コンピューターを活用する中小企業も増えてきました。この時代の中小規模のオープンシステムは、基本的に全てのコンピューターが自社の敷地内など同一ロケーションに設置され、ユーザーはVisual Basic等で開発されたアプリケーションを使い、データベースとしてMS Access、Oracle、SQL Server等を用いるクライアントサーバーシステムといわれるものが中心でした。

この時代のクライアントサーバーシステムは、ユーザーインターフェースとなるWindows PC上のアプリケーションにビジネスロジックが実装されていて、スキャナーやプリンター等多くの外部デバイスとの連携もやりやすく、多種多様なデバイスと連携した業務の効率化が図られました。自動車学校業界に導入されている教習システムは、基本的にはこの時代のアーキテクチャのシステムになります。

2000年代にはいると、多くの企業でWebテクノロジーの導入が進みます。MVCモデル等の多階層アーキテクチャといわれる構造で構築されるこの時代のシステムは、ユーザーインターフェースとビジネスロジックとそれらを橋渡ししてコントロールするプログラムが分離して構築されています。そのため、ユーザーインターフェースとビジネスロジックを異なるロケーションに配置することが容易になりました。実際にこの時代にはユーザーインターフェースはただのブラウザを利用して、ビジネスロジックは離れたロケーションに存在するアプリケーション、というシステムが多く開発されました。こういった構造のアプリケーションが開発できるようになることで、ASP(Application Service Provider)といわれる、インターネットを経由してビジネスアプリケーションを利用するサービス等が登場しました。更に、通信回線やハードウェア性能の向上、仮想化技術などによりクラウドの時代へと発展していきます。しかし、このアーキテクチャにもデメリットがあります。自社内のデバイスと離れた場所にビジネスロジックが存在していると、デバイスとの連携はレスポンスが大きく下がり使いにくいシステムになりがちでした。しかし、そういったデメリットを補って余りある変革へとつながっていったのが、Web時代のテクノロジーです。

現在、DXといわれる変革が起きているのは、Webの時代に発達した技術の広がりが背景にあると考えます。第4次産業革命などとも言われたAIやビッグデータ等は、多階層アーキテクチャによりビジネスロジックとユーザーインターフェースのロケーションが分離できる仕組みがあることで、活用の敷居が下がり、多くのアプリケーションでの活用が広がりました。そして、それらをうまく活用したイノベーションも起きています。

歴史を振り返ると、自動車学校業界の問題がどこにあるかの示唆が得られます。我々の業界でDXという言葉やAIやビッグデータが歯の浮くような言葉にしか聞こえないのは、そういった最新のテクノロジーを活用することが困難な状況にあることが一因だと思います。活用しても効果が出るイメージがなかなか浮かびません。最新技術の活用が難しいのは、自動車学校業界の基幹業務システムが90年代のクライアントサーバーシステムから先に進んでいないことが大きく影響しています。しかし、現在の自動車学校業界の場合、基幹業務が古いアーキテクチャであることが最も合理的である理由もあります。その理由こそがこの業界の情報システムが取組むべき最も重要なテーマだと筆者は考えています。

なぜ、90年代のアーキテクチャが合理的なのでしょうか。前述したとおり、クライアントサーバーシステムだと、ユーザーと同一ロケーションでビジネスロジックが駆動するため様々な外部デバイスと連携したビジネスロジックの構築が容易になります。自動車学校業界では、紙が前程となっている業務が多く、コンピューターと紙を繋ぐデバイスがなければ、情報システムの活用ができなくなってしまいます。結果として、クライアントサーバーシステムのアーキテクチャから離れることが難しく、新しいテクノロジーとの連動ができないために導入メリットが生まれにくくなってしまいます。自動車学校がデジタル化の時代に追いつくためには、この点を変革する必要があります。言い換えると、デジタル化の視点で自動車学校業界が今最も注力しなければならないアジェンダは「業務の完全ペーパーレス化」であると私は考えます。

大町自動車学校が日本で最初に教習原簿のデジタル化を実現した狙いはここにあります。自動車学校の業務の完全ペーパーレス化を実現するには、ど真ん中にある紙を廃することが最も効果的な変革へのアクセルだと考えて教習原簿のデジタル化を急ぎました。

これから、先進的な自動車学校は次々にデジタル教習原簿の導入に取組まれると思います。弊社に続いて実現された自動車学校様には、プレスリリースも合わせて行っていただきたいと思います。そうすることによって、ペーパーレス化を目指そうという機運はますます高まるのではないでしょうか。

さて、そうやって多くの自動車学校が教習原簿をデジタル化できたとしても、他の様々な紙を廃止することも容易なことではありません。自動車学校業界は法律や行政に縛られる部分が多いためです。

そこで、弊社の戦略としては、そういった自身の意思決定だけでは変えることができない部分は後回しにして、自動車学校でも導入可能はWeb時代のテクノロジーを部分的にでも基幹業務に取り入れることを優先しようと考えています。そういった事例を多く作り、同様に同業他社でも様々な事例が登場することで、ペーパーレス化が進まないことによる問題が浮き彫りになると思います。そういったムーブメントを背景に法律や行政を変革する機運が高まっていけば、ペーパーレスが進むのではないかと考えています。

最後にDXとは何かを考えてこの記事を絞めたいと思います。DXとはただのデジタルによる効率化のことではなく、デジタルを活用してこれまでにない価値あるユーザー体験を提供することだと私は考えています。テクノロジーを活用した誰もがやらなかったアイデアについて、トライアンドエラーを繰り返しチャレンジし、これまでにないモデルを作っていく作業、それが結果としてデジタルによるイノベーションに繋がると考えます。そういったチャレンジに繋がる情報システムを構築するためにも、完全ペーパーレス化を実現し、2000年代以降のテクノロジー導入を進める環境を作ることが、現在の自動車学校にとって最も重要です。こういった考えに共感して頂ける自動車学校の経営者が増え、完全ペーパレス化にチャレンジする学校が増えて欲しいと思います。


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