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傷つける人 と 親しみを持つ人

 相手を傷つけることが得意な人がいます。しかし当の本人は相手を傷つけているなどと思いません。「どんなことが人の地雷になるか分からないから、結局自分の言いたいことを言うのが良い」と考える人もいます。何か起こったことに対して「私はこう思うの」と意見を言うことこそ、相手とコミュニケーションを取れていることになっていると捉える人もいます。「私らしさが出ている」と思う人もいます。

 たとえば転職しようか悩んでいる人がいるとします。相手を傷つけることが得意な人は、相手が転職するということにおいて、あれこれ意見を言います。「私は今の世の中は不安定だから、絶対今の会社にいるべきだと思う。」と話す人もいます。「転職を考える前に、将来どうなりたいかとか、5年、10年、15年単位で考えてみて、それに近づけるように今の環境で努力したら良いんじゃないかな」という人もいます。このような言葉に転職しようか悩んでいる人は閉口します。余計に不安に感じたりどうしようもできないのかなと失望感にさいなまれたりします。

 対して親しみを持って接することが得意な人がいます。親しみを持っている人です。自分の意見を言うか言わないかは場の流れを読みます。相手の背景などを理解した上で接するのです。親しみを持っている人というのは、相手から「これ、美味しいね」と言われたら「美味しいね」と言い合えるような人です。その場を共有します。共感しています。相手が自分とは異なる経験を話すと、「なるほどね」「そうなんだね」と相槌を打つのです。親しみを持てる人は「自分の言いたいことを言うのが良い」とは考えません。自分の発言が相手を深刻に悩ませるかもしれない可能性を知っているためです。親しみを持てる人は「意見を言うことが自分らしさを出すこと」だとは思っていません。そもそも自分らしさを出そうと意気込んだりはしません。相手に認められたり、受け入れられたりすることを求めていないのです。

 たとえば転職しようか悩んでいる人がいるとします。親しみを持っている人は、相手が転職するということにおいて、まず話を聞きます。傾聴します。無理に相手の話を聞こうとしているわけではありません。「どうして転職しようか考えたのか」という点に関心を持っています。事実を捉えようとするのです。勝手にきっと人間関係が拗れたからだとか給与が低いからとか予想しません。仮に少しはそれが脳裏によぎったとしても、それは自分の勝手な感想であって、それを相手に押し付けたりしません。自分の思い込みでその人を判断するということがないのです。自分の思ったことと相手への捉え方を切り分けるのです。

 この状態は「人に対して無頓着」な状態です。相手に関心があるものの、状態に執着がないのです。転職するにいたって、転職してもしなくても良いのです。きっと相手ならうまくいくだろうと楽観的に捉えています。仮に転職がうまくいかなくて相手が親しみを持っている人に連絡すると「それは大変だったね」「おつかれさま、ゆっくり休んで」と声をかけます。相手はその変わらないあり方に安心します。そうしてまた缶あげて行動して行くのです。転職を再びしようとしたり、今の会社でもう一回頑張ってみたりと、人によって様々な選択をするのです。

 親しみを持っている人は、まず相手の話を聞きます。相手がひとしきり経緯や気持ちを話すと、親しみを持てる人に「どう思う?」と聞きます。すると親しみを持っている人は「うーん、いいんじゃない?」と割と曖昧なこたえ方をします。転職に悩んでいる人ほどこの答えを嫌います。不安を抱えている人は白黒つけて欲しいと思うのです。どっちがいいか判断して欲しいと思うのです。

 しかし親しみを持っている人はどんなに聞かれても曖昧なままです。これは「曖昧にしかこたえようがない」ということがあります。「自分の思うにやってみるのが良いと思うよ。」とこたえるのです。自分ではどうしようもできないことが世の中にはあることを理解しています。時にはうまくいかないこともあると捉えているのです。親しみを持っている人も意見を言うことはあります。「そういえば自分はそんな時こうしたな」という話です。相手の思考や行動に対してアレコレ話すのではなく、自分の話をします。

 これはひとつのテクニックとも捉えられるかもしれませんが、親しみを持っている人はテクニックと思ってやっていません。何か相手と会話をした時に、相手の思考や行動に意味づけをしないというテクニックです。仮にこのルールに基づいて相手を傷つけることが得意な人が動いたとしても、相手は居心地の悪さを感じます。なぜならエゴがあるためです。人と会話した時に自分の話だけをしようと徹する人にはエゴがあります。あり方が極端なのです。そうして話した相手は回避的だなという印象を受けます。私を傷つけると思っているのかなと捉えます。心のキャッチボールができていないといった形で悩むのです。

 親しみを持っている人は場に応じてかける言葉や行動が変わります。相手の状態を見てかける言葉を決めているのです。その言葉は何かの方向性を持っているわけではありません。「相手に対して無頓着」です。エゴがないのです。今は金銭的に困っているから今の会社に居続けた方がいるべきだなどと考えないのです。そうして表現がどうしても曖昧になる傾向が強くなるのです。こうして変わらない親しみを受けて、相手は話しているうちに安心するのです。自分でもう一回考えようと思ったり、まぁきっと何とかなるかと再び歩んでいけるのです。

 

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