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【月雲の皇子①】私の1番好きな物語を語ります。

青天に花吹雪が舞う。
この週末はまさにお花見日和だ。
にも関わらず、今年は桜の木の下にシートを広げられないのが残念でならない。

こんなご時世なので、SNSではどうやら桜の写真を見ながら自宅で飲み食いする「エア花見」というものがにわかに流行っているらしい。
でも、それってすごく味気ないのでは?
どうせデバイス上で花見をするなら、“桜”をテーマにした映画や演劇のDVDでも観ながら酒を飲んだ方が遥かに趣深い。

桜の季節がきたら書こうとずっと心に決めてきた作品がある。
私がこれまで味わった数々の作品の中で、最も美しいシナリオ構成と演出が共存した物語、宝塚歌劇団のオリジナル作品『月雲の皇子』だ。

宝塚全然興味なくても騙されたと思って観てほしい・・・!
『キングダム』みたいな歴史ロマンが好き
『ダレン・シャン』とか『東京グール』みたいな少年友情葛藤ものが好き
・荻原規子の勾玉三部作にはまった
という方に強くお薦めする作品です。

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舞台は古代の日本。
大和朝廷が反抗勢力を制圧し、統一国家を築こうとしていた戦乱の時代。
そんな時代を物語る古事記や日本書記に「衣通姫伝説」という物語が残されている。

時の第一皇子が妹皇女と情を通じた咎で流刑となった。
妹皇女は兄の後を追い、流刑先の伊予で共に自ら命を絶った。

そんな「衣通姫伝説」を2幕・2時間半にふくらませた大作万葉ロマンが、この「月雲の皇子」という訳だ。

国家統一という夢のもと、あらゆる思惑が交錯する大和朝廷、
家族を殺され土地を追われ大和への憎しみと怒りに燃える土蜘蛛、
2つの勢力がいがみ合う中、仲の良かった3兄弟は運命に翻弄されていく・・・

この設定だけでもこの作品のシナリオへの期待値は上がると思うが、上記はあくまで「月雲の皇子」の表テーマ。

この物語には裏テーマが存在する。
「物語の中で『物語とは何たるか』を物語る」という裏テーマが!

先ほど述べた「衣通姫伝説」だが、実は古事記版と日本書紀版とで物語が若干違う・・・。
同じ歴史的事実に基づくはずなのに、どうして違う物語になるのだろう。
そんな「記録や物語というものには書き手の意思が反映されている」という普遍的問題が『月雲の皇子』という作品の底部には終始流れている。

言葉とは何なのか、文字とは何なのか、歌とは何なのか、記録とは何なのか、物語とは何なのか・・・

それがこの作品の裏テーマだ。

古文の世界の伝説を膨らませ、個々の人物の思惑までしっかり描き、さらに人類の普遍的課題を裏テーマに設定する。
こんな天才的なシナリオ、どんな大御所の作品かと思いきや、
実はこの作品、宝塚歌劇団座付き演出家上田久美子先生の処女作なのだ!!

(え、上田久美子って誰?という方のために解説します↓)

上田先生は宝塚歌劇団の座付き演出家。京都大学文学部卒業後、制作会社でのOL生活を経て2006年に入団。大劇場デビュー作『星逢一夜』で読売演劇賞優秀演出家賞を受賞し、今や宝塚の超売れっ子演出家だ。(そして、私の人生の後にも先にもないほど心から憧れる人物。)
だが、当時は演劇経験ゼロの脱サラ演出助手が初めて筆をとるという状況で、正直誰一人としてこの演出家に期待するものは誰もいなかった。

更に言うと、いわゆる階段降りで有名な宝塚大劇場公演ではなく、バウホールという外箱の小劇場公演。
主演を務めた珠城りょうは今や月組トップスターだが、当時は若手の登竜門である外箱での初主演だった。

無名の演出家 ×    オリジナル脚本 ×    若手中心のカンパニー ×    小劇場

不安要素しかないし、当然一般認知が底辺レベルの作品だったにもかかわらず、公演後瞬く間に話題になり、新作主義の宝塚には異例の再演にまで至った。

処女作で再演という上田久美子の伝説の作品。
それが私のイチオシ「月雲の皇子」である。

***

愛が深すぎて前段でゆうに1000字を超えてしまった(笑)

作品詳細については以下、別記事にて存分に語らせて頂いております。

❶宝塚史上最もボロボロになる主役/少年漫画と少女漫画の塩梅(表テーマ)

❷「物語の中で『物語とは何たるか』を物語る」という試み(裏テーマ)

❸言葉で語らない、引き算の美学/言葉の外側の世界とつながる(演出)

また、決して宝塚の回し者でも、Amazonの回し者でもございませんが
Amazonプライムでも660円で見れちゃうのでご紹介しておきます。

「いやいや、いきなり課金は厳しいって!」という方。
見たらネタバレになっちゃいますが、ニコニコ動画にこの作品の素晴らしいMAD動画がありまして、私で再生回数の3割稼いでいるのでは?というくらい見ています(笑)
何度見ても飽きない素晴らしい編集です!(拍手)





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