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津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』

この記事は、日本俳句教育研究会のJUGEMブログ(2022.12.10 Saturday)に掲載された内容を転載しています。by 事務局長・八塚秀美
参照元:http://info.e-nhkk.net/

津村さんのデビュー作で、第21回太宰治賞を受賞し、昨年、佐久間由衣✖奈緒✖吉野竜平監督で映画化された作品です。静かながらも強いメッセージ性を感じる映画で、原作本を読みたくなり手に取りました。

主人公は、大学卒業を間近に控え、児童福祉職への就職も決まり、手持ちぶさたな日々を送るホリガイ(堀貝佐世)です。身長175㎝、22歳、処女、人付き合いも不器用で、言動も変わっている彼女の日常の中に、ネグレクト・自殺・リストカット・レイプなどの、近しい人間の尊厳を踏みにじられる現実が、交差していく物語でした。彼女が児童福祉司の資格を取った理由も、「テレビの特番で見かけた行方不明の男の子を探すため」という説明しにくいもので、人には理解されにくいホリガイなのですが、終始一貫彼女は、「どうしてとんでいって君の傍にいることができないのか」と、決して巻き戻すことのできない時間に怒りを抱え、寄り添い、自分自身までが傷つく存在であり続けます。話し下手で、失態の多いホリガイだからこそ、きれい事でないリアリティをもって迫ってきました。

侵害され、傷つけられてしまった者の傷はなかったことにはできません。そんな人たちにとって「君は永遠にそいつらより若い」なんて言葉は、一見、慰めにもならない無責任きわまりないものでしかないように思えます。しかし、傷つけた者(強者)よりも弱者の未来の方が長いという確かな現実は、傷つけられて痛みを抱えている者への確かな救いであり、エールの言葉になっていると感じました。

また、登場人物達の誰かのための小さな行動が、思わぬ繋がりを持ちながら、少しずつ別の動きへと影響していく物語からは、孤独や生きづらさを感じる毎日であっても、すぐ傍に必ず誰かはいるから……(大きな救いは与えられずとも拠り所はあるよ……)というメッセージを受け取ったような気がしました。