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地方SIerはリーン・スタートアップの夢を見るか?

みなさん、はじめまして。EAC STARTUPSの天海です。福島県の片隅に位置するSIベンダーで、Intorepreneur Manager(社内起業マネージャー)という特殊なロールを預かっています。

突然ですが、皆さんは「社内スタートアップ」という組織について、どのようなイメージを持っているでしょうか?

「スタートアップ」という存在がキャリアの選択肢として一般化した現代において、社内起業という選択はなんとも中途半端な存在に見えるかもしれません。場合によっては、「私たちは先進的な取り組みをしています」という、広告塔としての役割だけを求める組織も存在するでしょう。そもそも特殊な形態故に、情報に乏しいことも事実です。

私たちが運営する「EAC STARTUPS」は、CEO直轄の社内スタートアップ組織です。私たちの母体組織である「東日本計算センター」の社員数は、2022年時点で300名程度。この規模の組織としては稀な取り組みといえるでしょう。

何故、私たちのような中小SIベンダーが社内スタートアップに取り組んでいるのか? 今回は、そんな意思決定の裏側について紹介してみます。

私たちの直面する課題

はじめに、私たちが直面する社会課題についてお話しましょう。

「システムインテグレーション(SI)」という業態は労働集約的な特性が強く、「働ける人の数」が売上に直結するスキームです。賛否両論ある業態ではありますが、国内のIT業においてSIが果たしてきた役割は大きく、多数の企業がその存在に依存してきたことは間違いありません。

一方、この業態には近い将来に直面するであろうクリティカルな問題が存在します。そう、少子高齢化です。

以前、SNS上で「就業者数に対する生産年齢人口は、既に約九割となっている」という厚労省資料が話題になったことがありました。聞き覚えのある方もいるのではないでしょうか。

厚生労働省資料「労働力人口・就業者数の推移」より。「15-64歳人口」が生産年齢人口に該当する。 - https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/01-01-03-03.html

労働力人口が年々減少する中で、「人手」を売上に置換するビジネスは困難が予想されます。これはSI・ SESに限らず、国内の人口増に頼ってきた他の伝統的企業群も例外ではありません。

一方、一般的な組織形態によってこの問題と向き合うことができるかと言われれば、これもまた難しい。企業組織の主役であるプロフィットセンターは常に数字的なプレッシャーと向き合う存在です。既存ビジネスと全く常識が異なる事業のグランドデザインを描き切るプロセスは、まったく不可能とは言わないまでも高いハードルが存在し、当社の各部門でも試行錯誤が続いています。

私たちのアプローチは?

このような社会課題に対抗する手段として私たちが採用した戦略が、「既存体制では困難な挑戦を扱う組織」ーーつまり、スタートアップの立ち上げでした。

数年前、ガートナー社が「バイモーダルIT」というコンセプトを提唱したことがありました。コスト効率を重視して「守り」を担う流儀(モード1)と、機敏なアプローチで積極的な「攻め」を担う流儀(モード2)を切り分け、柔軟に使い分けていくという発想です。私たちの取り組みは、ちょうど「攻めの組織(モード2)」に該当すると言えるでしょう。

バイモーダルの発想を取り入れ、組織内にイノベーション部門を設けた企業は少なくありません。私たちの取り組みに他社と異なる点があるとすれば、組織の立ち上げに際して「我流の起業論ではなく先駆者に学ぶこと」を優先した点にあります。

部外者から見たスタートアップの世界は一見無秩序ですが、その手法・発想には先駆者達が培ってきた様々な体系が存在します。既に古典ではありますが、タイトルにも掲げている「リーン・スタートアップ」は代表的な例と言えるでしょう。

重厚長大なマーケティングや製品開発のロードマップではなく、最低限の価値を持つ製品(MVP)を素早く構築し、顧客のリアクションを通じて迅速に方針を転換するーー既にスタートアップの世界では古典的な方法論ですが、伝統的な日本企業においては2022年現在においてもセンセーショナルな取り組みといえます。

EAC STARTUPSでは、まず徹底してスタートアップの流儀を吸収することに専念しました。スタートアップの発想法は、その多くが非直観的です。「成功するスタートアップのアイディアは、一見するとバカげてみえる(サム・アルトマン)」という金言はあまりにも有名ですが、伝統的な企業がこの価値観を組織の核心に据えることは容易ではありません。

私たちにとって幸運だったのは、弊社CEOである鷺をはじめとして、スタートアップの手法論にシンパシーを感じる役員が存在した点です。(これもまた、地方SIとしては稀なケースです)

2022年10月現在、EAC STARTUPSの月次定例会(Governance MTG)には6名の役員が参加し、攻守を兼ね備えたバイモーダルな組織のあり方を模索しています。私たちの組織では、リーン・スタートアップをはじめとする基本的な方法論に加え、国内外の事例紹介やFoundXの馬田氏による起業論やアイディア作りなど、スタートアップの原理・原則に精通するための取り組みを続けてきました。経営レイヤー自身がスタートアップの手法論を意思決定の中核に据えている点は、間違いなく既存の社内スタートアップと比較しても稀有な事例と言えるでしょう。

今、私たちが取り組んでいるターゲットは?

これまでのEAC STARTUPSでは、主要オペレーションを担うメンバーを最小規模(3名)に抑え、ステルスプロダクトの開発に注力してきました。これは、「大多数のスタートアップは性急なスケールアップによって破綻する」という原則を踏まえ、最もビジネスの成否を分けるとされる「CPF(Customer Problem Fit = 顧客問題の存在検証)」 にフォーカスすることを意図したものです。私たちの組織では他部門支援などを担ってきた事情もありますが、この種の組織としては異例の長期間を利用し、多種多様なアイディアを試してきました。

現在、私たちのステルスプロダクトはCPFのフェーズをクリアし、「PSF(Problem Solution Fit = 問題に対する解決策の検証)」に遷移しようとしています。この状況変化を踏まえ、私たちはプロダクトの0to1をリードする、新しいコアエンジニアの採用と組織拡大を決定しました。

私たちが希求するのは、社会変化に対して現状維持を望まず、立ち向かえる場を求める人々です。現職では自らが望む挑戦が困難と感じる方は、以下のリンクからご気軽に面談を応募ください!

この記事の執筆者 :
天海 洋陸(あまがい ひろたか)
EAC STARTUPS所属のIntorepreneur Manager(社内起業マネージャー)。
社内スタートアップ部門のマネジメントに携わりながら、社内のアジャイル文化促進を目指して活動中。保有資格に A-CSM℠(Advanced-Certified Scrum Master), RSM™ (Registered Scrum Master ※旧LSM), CAL-E/O(Certified Agile Leadership Essentials/Organizations) 等。
※記述内容は2022年10月時点の情報となります。