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迎賓館 エラール ピアノ演奏会~ショパンの愛したピアノ~ 竹田理琴乃

赤坂の迎賓館に置かれているエラールを、昨年大きな話題になった第18回ショパン国際ピアノコンクールに出場されたピアニストさんたちが週替わりで演奏されるという。エラールといえばショパンが愛したピアノメーカーであり、今回のプログラムはオール・ショパン。迎賓館という特別な場所と、皇室の方々が愛用してきた楽器で、ショパンの音色を体験できる贅沢で貴重な演奏会でした。

この記事はクラシック音楽初心者が、勉強がてらコンサートの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いコンサートレポートです。


プログラム ~ショパン~

エチュード 変ホ長調 Op.10-11
マズルカ 嬰ト短調 Op.33-1
ワルツ 変イ長調 Op.42
バラード第2番 ヘ長調 Op.38
アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22
<アンコール>エチュード ハ長調 Op.25-11「木枯らし」

公演日:2022年2月3日 (木)迎賓館 赤坂離宮 羽衣の間

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迎賓館のウェブサイトはこちら

演奏者のプロフィールと演奏曲はこちら (2月3日 竹田 理琴乃/2月10日 京増 修史/2月17日 五十嵐 薫子/2月25日 岩井 亜咲)


迎賓館のエラール

迎賓館、ででん!

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まずは何もいわずに威風堂々たる建物を見ていただきました(笑)当日は希望によって演奏会前に建物内やお庭を見学することができたので、撮影が許されていた外観の写真をいくつか。筆者は初めて訪れたのですが、ヨーロッパ旅行に来たような錯覚が。お庭でアフタヌーンティーをしていらっしゃる方などもいて、まだまだ海外旅行に行けない中、迎賓館にお出かけして海外気分を味わうのも良いかもしれませんね。(アフタヌーンティーの予約サイトを見つけました!)

羽衣の間

ピアノが置かれているのは、上の写真にある迎賓館本館の羽衣の間と呼ばれる、舞踏会や音楽会、また雨天時のイベントで賓客をお迎えするために使われるという”音楽のための”と言えるお部屋。その場所をそのまま使ってのピアノ演奏会ということで、時空を超えて歴史的なシーンに入り込んだような非日常体験でした。

写真と説明文だけでなく、動画や360°回転するストリートビューなど、インタラクティブに室内を見学できるこちらのGoogleアートプロジェクトが素晴らしいので、ぜひお部屋の見どころをご覧ください!オーケストラボックスと呼ばれるバルコニー、壁のレリーフやシャンデリアのモチーフとして使われている楽器たちなど、音楽ファンの心躍るポイントも紹介されています。

こちらのピアノは1906年製(明治39年)。1909年(明治42年)に迎賓館が東宮御所として建設された際に購入されたものだそうです。昭和天皇が東宮御所(後の迎賓館)にお住まいだった約5年間には、香淳皇后がこのピアノを楽しまれていたといいます。その後ピアノは皇居に移され皇室の方々が演奏されていたようですが、東宮御所が迎賓館としてリニューアルされた1974年(昭和49年)にこちらに戻ってきたのだそうです。

ここでの演奏会はまさしくサロンコンサート。ショパンは大きなコンサートホールより小規模な演奏会を好んだと言われていますし、この場所・この楽器でショパンの作品を、さらにはショパンコンクールに出場されたピアニストさんが弾くピアノの演奏会という、これ以上ないほど完璧な演出ですね!


竹田理琴乃さん

勉強不足で、筆者が竹田理琴乃さんを初めて拝見したのは、つい半年前のショパン国際ピアノコンクール(以降コンクール)。ポーランド・ワルシャワからYouTubeの生配信で観覧することができたため、そのライブ感や、緊張感、世界中のファンの熱気などを感じて、高揚感を味わいながらコンテスタントを応援するという、素晴らしい体験でした。アーカイブがあると知りながらも夜中までオンタイムで追いかけたことも良い思い出ですが、竹田さんの出場は予備予選:7/20 モーニング・セッション(日本時間 20:30)、1次予選:10/4 モーニング・セッション(日本時間 21:00)ということで、幸運にも余裕でオンタイムで見られる時間だったのですよね。むしろゴールデンタイム。

竹田さんはポーランド国立ショパン音楽大学を首席で卒業され、京都市立芸術大学大学院も首席で修了。The 10th ’Youngsters Interpret Chopin’ Competition in Konin  (ポーランド) 第1位をはじめ、様々なコンクールに入賞されている素晴らしい経歴をお持ちの方。ショパンコンクールの出場も昨年が2度目であり、2015年に出場時も予備予選を通過され本選に進んでいらしゃいます。ショパン大学首席って・・・。そんな竹田さんのオール・ショパン・プログラム、もう期待しかないです。

「今日はこの演奏会をわくわくしながら金沢から来ました」とおっしゃっていた竹田さん。金沢のご出身だったのですね!

竹田さんのコンクールでの演奏曲と動画を備忘録として書いておきます。

予備予選 YouTube

ノクターン 変ホ長調 Op.55-2
エチュード イ短調 Op.25-11 「木枯らし」
エチュード 変ホ長調 Op.10-11
マズルカ 嬰ト短調 Op.33-1
マズルカ ニ長調 Op.33-3
バラード第2番 ヘ長調 Op.38

一次予選 YouTube

ノクターン 第16番 変ホ長調 Op.55-2
エチュード 嬰ハ短調 Op.10-4
エチュード イ短調 Op.25-4
バラード 第2番 ヘ長調 Op.38

コンクールを運営しているショパン・インスティテュートのウェブサイト。予備予選はひとつの動画で、1次予選は演奏曲ごとに分かれている動画集です。個人的な好みですが、ステージ登場の際の演奏者紹介アナウンスから見ることができる動画だと、コンクールの雰囲気が存分に味わえておすすめです。


ピアノ演奏会

今回の演奏会の座席数は確か75席。チケットは抽選制になっており、筆者が最後に竹田さんの回を見たときには、400人近くの応募がありました。さらに当日は受付で”くじ引きです”と言われて番号を渡されたのですが、筆者はどんな迎賓館オリジナルグッズが当たるのかなど、のんきなことを想像していたら、演奏会の座席の整理券でした。その整理券に書いてあったのは「5番」。よりによってどれだけ強運なのか。ものすごい目の前で竹田さんを拝見させていただけることになってしまいました。にわかファンがそんな貴重な枠に当選してしまい、落選してしまった竹田さん・音楽・歴史のコアなファンの方々に申し訳ない気持ちでいっぱい・・・(と言いながら遠慮が感じられない席の押さえ方←5番目に好きな席を選べるスタイルの自由席)。

竹田さんはローズゴールドの質感の良いドレスにティアラのように華やかなネックレスで登場され、上品な衣装が竹田さんによく似合っていらっしゃいました。こちら後日の竹田さんのツイート。素敵なドレスですよね。


このエラールのピアノは現代の通常のピアノより2つ低い音の鍵盤が多い90鍵であることをトークの中で紹介してくださいました。その2音は人間の耳では聴き分けが難しいと言われているそうで、実際にその2つの音を出してくださり聴き比べすることができました。残念ながらこの鍵盤を使った作品はほとんどないのだそうで、この日の演奏でも使われませんでした。ちなみにペダルが2本しかないところも気づいたのですが、4本あるファツィオリもどこかで見た記憶があります。これはメーカーによるのか、または時代によるのか気になりますし、何より1本多かったり少なかったり、それぞれのペダルの役割に興味津々です。


エチュード 変ホ長調 Op.10-11

演奏会の始まりはコンクール予備予選でも演奏されたエチュードから。夢中になって観覧したコンクールのあの時あの場所で演奏されたピアニストさんがあのときの曲を弾いていると思うと、ジーンと込み上げるものがありました。しかもこの幸福感ある作品を、ピアノやショパンへの愛を感じるような竹田さんの演奏で聴くのがとても心地よく、今回はコンクールとは違う環境や観客のことを考えられているからか、より一層幸せで温かい音がしたように思います。

筆者はエラールのピアノの音を生で聴くのは初めてでしたが、想像していたものよりずっと現代のピアノの音に近いものだとわかりました。美しい装飾がしてあり、そのエレガントな見た目からもチェンバロに近い、もっとメタリックな音が出るのだと想像していました。少し甲高いような(?)音は残りつつ、とても深く響く音も出るとは予想外で、豊かな音色が素敵な楽器でした。羽衣の間という環境は響きや音色にどのくらい影響したのでしょうね。ちなみに展示の時とは椅子が変えられていることに気がつきましたが、貴重な調度品の保存のためか、それとも竹田さんが演奏しやすいがそれだったのか、どうだったのでしょうね。

動画は予備予選のYouTubeから、竹田さんのOp.10-11部分。



マズルカ 嬰ト短調 Op.33-1(Op.33-3)

プログラムに記載はありませんでしたが、続けてOp.33-3も演奏された記憶なのは筆者の妄想だったか(笑)と自信がなくなってきて、カッコ書きにしております・・・。

予備予選の演奏順と同じ流れで、もう感動でした。たしかこの日もコンクールの時と同じように、演奏前に集中力を高めているような、ショパンと交流しているような時間を長く取っていらっしゃいました。演奏についての知識は浅いのですが、竹田さんのピアノの強弱などがお気に入りです。

トークの際、緊張されているようにお見受けした竹田さんですが、弾き始めると堂々とされていて、一気にプロの顔に切り替えていらっしゃいました。そのチャーミングなキャラクターと、凛とした演奏姿のギャップが良いですね!

こちらの音源も予備予選から。



ワルツ 変イ長調 Op.42

ワルツは2次予選の課題曲のひとつでしたね。竹田さんが2次予選に進んでいたらこの曲を演奏していらっしゃったかもしれないと想像して感慨深く拝聴していました。

とても楽しそうに幸せそうに演奏していらっしゃったような竹田さん。心に響いてこの日いちばんのお気に入りでした。ちなみにこの日の観客がおそらく音楽ファンだけではなかったということか、拍手のタイミングが一瞬遅くそわそわすることがあったのですが、もはやこの曲の終わりはどのタイミングで拍手しようなど考える余裕はなかったですね。感動しました。

動画は同コンクールで優勝されたブルース・リウさんの2次予選から。



バラード第2番 ヘ長調 Op.38

予備予選・1次予選の両方で演奏された曲ですね。環境などあるとは思いますが、筆者は1次予選のこの竹田さんの演奏はとても心に響くものだったので、あの感動を思い出しつつ目の前で聴くことができて、とても幸せでした。竹田さんの演奏は迫りくるような情熱がありながらも猛々しくなることなく、豊かな感情表現をされている印象で引き込まれます。

コンクールでは予備予選でも1次予選でも最後に演奏されていました。どんな選曲意図だったのかも伺ってみたいですね!

YouTube動画は1次予選から。


アンダンテスピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22

こちらは2次予選で選曲したコンテスタントが多かった作品ですね。もしも竹田さんが・・・と、以下同文です(笑)気高くも愛に溢れているような演奏は、迎賓館の華やかさと調和して素晴らしいものでした。

動画は、いま日本でショパンコンクールといったらこの方なしでは語れないという存在になった反田恭平さん。


<アンコール>エチュード ハ長調 Op.25-11「木枯らし」

まさかアンコールを演奏くださると期待しておらず、嬉しい驚きでした。しかも予備予選の演奏曲。この日の演奏ではどこかポーランドの民族音楽的要素が感じられたような気がする味わい深いもので、予備予選の時よりは少し寒さが和らいだ印象でした。

予備予選ではテクニカルな問題で配信動画が飛び飛びになるというハプニングがありましたね・・・。YouTubeもショパン・インスティテュートのオフィシャルサイトの方でも最初の部分が切れていたり前後の曲と混ざっていたりしていますが、YouTubeを貼っておきます。ショパン・インスティテュートのウェブサイトの方だと竹田さんの出番だけに切りだされているので聴きやすいかもしれませんね。そちらのリンクも貼っておきます。


最後に

今回はなんとも幸運に恵まれた機会で、とても充実した幸せなひとときでしたが、迎賓館ではなくともまた竹田さんの演奏を聴く機会があったらぜひ伺いたいですね。

ちなみに当日、参観者用の入り口のセキュリティを通るとき、「ピアノの演奏会に来ました」と言うと「演奏される方ですか?」と返ってくるという、つい笑ってしまった事件がありました(そんな間違い嬉しすぎる)。むしろピアノ弾いていいんですか?と答えたかったですが、おっと、そういえば筆者はピアノ弾けないんでしたっけ。


出典

迎賓館パンフレット(当日、参観時にいただいたもの)
”第18回ショパン国際ピアノコンクール予備予選の配信リンクと通過者まとめ” ONTOMO
”第18回ショパン国際ピアノコンクール第1ステージの配信リンク・通過者まとめ” ONTOMO
"ショパンコンクール本大会進出者インタビュー(9)~竹田理琴乃さん" ピティナ広報部


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