反田恭平 ピアノ・リサイタル2022 東京公演:オペラシティ/サントリーホール
昨年のショパン国際ピアノコンクールでの快挙で世界中の注目を集めた反田恭平さん(以降コンクール)。それ以前から「いま最もチケットが取れないピアニスト」と紹介されていた反田さんですが、コンクール後はさらに激化したことでしょうね。チケットは発売初日に完売どころか、毎回秒殺で消えていきます。幸運なことにその貴重な東京2公演の抽選に当たった筆者は、ネッシーを見つけたような気持ちで鑑賞してまいりました。
この記事はクラシック音楽初心者が、勉強がてらコンサートの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いコンサートレポートです。今回は2公演まとめてひとつの記事に、手短にまとめてみました。
オペラシティ<Bプログラム>
公演日:2022年7月20日 (水)オペラシティ コンサートホール
プログラム
【変更前】
ショパン:マズルカ風ロンド ヘ長調 Op.5
ショパン:3つのマズルカ 作品 Op.56
ショパン:バラード第2番 ヘ長調 Op.38
ショパン:ラルゴ 「神よ、ポーランドをお守りください」変ホ長調 Op.posth
ショパン:ポロネーズ第6番 変イ長調 「英雄」 Op.53
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第20番 イ長調 D.959
【変更後】
ショパン:マズルカ風ロンド ヘ長調 Op.5
ショパン:バラード第2番 ヘ長調 Op.38
ショパン:3つのマズルカ Op.56
ショパン:ラルゴ 「神よ、ポーランドをお守りください」変ホ長調 Op.posth
ショパン:ポロネーズ第6番 変イ長調 「英雄」 Op.53
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D. 959
<アンコール>ショパン:前奏曲 第25番 嬰ハ短調 Op.45
<アンコール>ブラームス:6つのピアノ小品 Op.118よりNo.1, 2, 6
プログラムはほぼオール・ショパン。筆者にとって昨年のコンクールを生配信で応援したことは衝撃的な感動体験だったため、その大きな感動を与えてくださったピアニストのひとりである反田さんのショパンには特別な思い入れがあります。コンクールで演奏した作品たちは、時空を超えて私たちをあの日あの時のワルシャワ・フィルハーモニーホールに連れて行ってくれるかのようで、もう一度あの高揚感と感動を追体験できる素晴らしい時間でした。
当日は「バラード第2番」と「3つのマズルカ」の演奏順が変更になるというプログラムのマイナーチェンジがありました。その変更の意図は存じていないのですが、ポーランドの民族色が強い「3つのマズルカ」から「ラルゴ」、「英雄ポロネーズ」という流れが、ポーランドの音楽を研究し尽くした反田さんにポーランドの案内をしていただいているような気になり、とても良かったです。ラルゴ~英雄ポロネーズという流れはコンクールの3次予選と同じ。戦争に巻き込まれたポーランドへの祈り、その後の復活への期待、それが今日のコロナ禍に見舞われた世界とそこからの復活への祈りにつながるというメッセージを込めたのだという。コンクール後に解説されたそのストーリーが印象深く、この日も同じ思いが込められているのではと想像して涙腺が緩みました。
また、この日のピアノはコンクールで実際に使われたシゲル・カワイなのだという。コンクールではスタインウェイを選んでいらっしゃった反田さんですが、今回の全国ツアーでところどころ一緒に旅をされているようです。ホールや座席位置、その日の調律、反田さんの弾き方・・・いろいろな要因はあるのでしょうけれど、筆者にとってこのシゲル・カワイは反田さんの軽やかで透き通った繊細だけどキレがある音がとても生き生きと引き出されて、最高の相性であるかのように聴こえました。ピアノのことはよくわからないのですが、小鳥がさえずるような反田さんの美しい音を表現できるのはこのピアノしかない、と思ってしまったほど素晴らしい音でした。
アンコールは翌日のAプログラムに組み込まれている2曲。必ずしも2公演ともいらっしゃるとは限らない観客のためにおすそわけしてくださった、反田さんのサービス精神からなのでしょうか。
サントリーホール<Aプログラム>
公演日:2022年7月21日 (木)サントリーホール
プログラム
【変更前】
J.S.バッハ=ブゾーニ:シャコンヌ ニ短調
ブラームス=ブゾーニ:11のコラール前奏曲より第8曲「一輪のバラが咲いて」 Op.122-8 ト長調
ブラームス:6つのピアノ小品 Op.118
ショパン:前奏曲 嬰ハ短調 Op.45
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 Op.58
【変更後】
ショパン:前奏曲 第25番 嬰ハ短調 Op.45
ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 Op.35「葬送」
ブラームス=ブゾーニ:11のコラール前奏曲より第8曲「一輪のバラが咲いて」 Op.122-8 ト長調
ブラームス:6つのピアノ小品 Op.118
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D. 959
<アンコール>グリーグ:トロルドハウゲンの婚礼の日
<アンコール>ブラームス:6つのピアノ小品 Op.118よりNo.2, 6
この日のプログラムはショパンを前半に移動しただけでなく、ソナタが第3番から第2番に。後半に前日のBプログラムで演奏されたシューベルトのソナタが入り、バッハが消えるという大きな変更がありました。アンコールを踏まえると、ABそれぞれのプログラムがとても近いものになり、ドイツ色が濃くなりました。
プログラムノートには反田さんのドイツ系プログラムに対する思い入れが書かれていました。「一輪のバラが咲いて」はショパンの「ラルゴ」と同様な感情を抱かせてくれる作品で、以前から弾きたかったものなのだそう。コンクール中のインタビュー番組「ショパントーク」で「ラルゴ」は教会音楽のように聴こえるものだとおっしゃっていましたね(筆者のnote記事はこちら)。また、反田さんとコンクールを併走したパレチニ先生の言葉も引用されています:
「ブラームスはあなたにとって、ショパンと同じほどに大切な作曲家になるだろう」50年前、A.ルービンシュタインに言われたことを今日君に感じたからそのまま私も伝えたい。君のブラームスは特別だ。
ブラームスやシューベルトなどドイツものでは、反田さんの祈るような弱音が素晴らしく引き込まれました。コンクールでのショパンの「ラルゴ」は反田さんが隠れた名曲を発掘したことも大きな話題になりましたが、胸が締め付けられるようなショパンの深く強い祈りを感じさせる演奏も印象的でした。この日のプログラムはそういった反田さんの一面が強調されたように思えて、全体的に何か大きく深く優しい祈りのようなものが心の深くに届いてきました。これがパレチニ先生お墨付きのブラームスかと圧倒されました。
アンコールはブラームス「6つのピアノ小品」から2番と6番を再び。筆者は前日にも聴いていたため何度目なのかわからなくなっていましたが(笑)メインプログラムの曲をもう一度弾くとはあまりないことですよね。反田さんにとって思い入れのある作品、もしくは私たち観客への何かのメッセージなのでしょうか。
ショパンコンクールの動画と演奏曲リスト
サントリーホール公演の日は反田さんのエッセイ本の発売日(オペラシティでは先行発売)だったのですが、コンクールの裏話が多く盛り込まれているようです。筆者はまだほとんど読めていないのですが、いつでもコンクールの感動を味わうべく、演奏曲リストと動画をまとめておきます。
予備予選
筆者の個人的好みにより、頭出しは登場シーンからです(笑)
ノクターン 第17番 ロ長調 Op.62-1 (03:25:53)
エチュード 第8番 へ長調 Op.10-8 (03:33:57)
エチュード 第5番 ホ短調 Op.25-5 (03:36:20)
3つのマズルカ 第33番 ロ長調 Op.56-1 (03:40:07)
3つのマズルカ 第34番 ハ長調 Op.56-2 (03:44:14)
バラード 第2番 ヘ長調 Op.38 (03:46:20)
1次予選
ノクターン 第17番 ロ長調 Op.62-1 (0:17)
エチュード 第1番 ハ長調 Op.10-1 (8:32)
エチュード 第10番 ロ短調 Op.25-10 (10:44)
スケルツォ 第2番 変ロ短調 Op.31 (15:28)
2次予選
ワルツ 第4番 ヘ長調 Op.34-3「猫のワルツ」 (0:17)
マズルカ風ロンド ヘ長調 Op.5 (2:54)
バラード 第2番 ヘ長調 Op.38 (12:40)
アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 変ホ長調 Op.22 (20:33)
3次予選
3つのマズルカ 第33番 ロ長調 Op.56-1 (0:21)
3つのマズルカ 第34番 ハ長調 Op.56-2 (4:41)
3つのマズルカ 第35番 ハ短調 Op.56-3 (6:33)
ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 Op.35 「葬送」(12:52)
ラルゴ 「神よ、ポーランドをお守りください」変ホ長調 Op.posth (39:26)
ポロネーズ 第6番 変イ長調 「英雄」 Op.53 (41:52)
ファイナル
ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調 Op.11
最後に
いくつかリンク集を。
オフィシャルウェブサイトに便利なものがありました。アンコール曲が当日すぐにアップされるページです。便利ですね!
反田恭平 ピアノ・リサイタル 2022 アンコール曲 (随時更新)
次に、オペラシティにも登場したシゲル・カワイ(サントリーホールはスタインウェイでした)。
最後に、筆者の反田さん関連のnote記事はこちら。ちなみに約2年間で執筆したもののうち、アクセス数が桁違いでぶっちぎり1位なのが反田さんの記事なのです。反田さんとショパンコンクールの注目ぶりがわかりますし、同時に想像以上にたくさんの方に見ていただいて恐れおののいておりますが、お時間あったらぜひ!
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