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軽井沢大賀ホールCLASSICS 2023 阪田知樹 ピアノ・リサイタル

阪田知樹さんは6年前の軽井沢春の音楽祭ぶりの大賀ホールでのコンサートとのことでしたが、筆者も通りがかったことがあるだけで一度伺ってみたかった憧れのホール。そんな場所で推しの阪田さんの公演、しかもそのプログラム(ショパンの「24の前奏曲」全曲演奏!)に惹かれて初めて「阪田さん遠征」して参りました、軽井沢。
3連休ということもあり、夏休みの思い出に避暑地・軽井沢で推しのコンサートとは、なんて素敵なのでしょう。その感動を残してみようと思います。

この記事はクラシック音楽初心者が、勉強がてらコンサートの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いコンサートレポートです。

※類似プログラムのコンサートが予定されていますので、ネタバレご注意ください。


プログラム


ベリオ:水のクラヴィーア(1965)
ショパン:24の前奏曲 Op.28
リスト:巡礼の年第2年「イタリア」S.161/R.10より
    第4曲「ペトラルカのソネット第47番」
    第5曲「ペトラルカのソネット第104番」
    第6曲「ペトラルカのソネット第123番」
    第7曲「ダンテを読んで - ソナタ風幻想曲」
〈アンコール〉ラフマニノフ:楽興の時 第2番
〈アンコール〉ガーシュウィン/ワイルド:魅惑のリズム
〈アンコール〉ラフマニノフ/阪田知樹:ここは素晴らしい処

公演日:2023年8月12日 (土)軽井沢 大賀ホール


プログラム

ベリオ:水のクラヴィーア(1965)

1965年に発表されたこの作品は「6つのアンコール」の中の1曲。現代曲でプログラムスタートとはおもしろいですね!筆者が初めて聴く作曲家だったので少し調べてみました。

現代イタリアを代表する作曲家ルチアーノ・ベリオ(1925-2003)は十二音技法、電子音楽、偶然性の音楽等、20世紀のあらゆる書法を試みた巨匠である。

当日のプログラムノート

特に電子音楽が有名で、研究所を設立したり、ジュリアード音楽院では教鞭を執るなどの活躍で高松宮殿下記念世界文化賞も受賞されています。研究仲間である音楽家の中にはジョン・ケージ(1912-1992)などもいて、20世紀の先導的音楽家であったようです。

このしっとりとした哀愁のあるメロディ、シンプルで静かな音は、阪田さんの演奏を聴くまでは「水=涙」というイメージがあり、さらに妄想が進んで「人間が水=自然に返った=死の悲しみ」などと想起してしまったのですが、この日の演奏はもっとずっと凛としたものがありました。1音1音の美しさに集中できるこの作品で阪田さんのクリスタルサウンドを味わい、これから続くコンサートの期待が高まりました。

動画はオフィシャルではないのでいつか消えてしまうかもしれませんが、角野隼斗さんとツアーをされたことでも有名なフランチェスコ・トリスターノさんの演奏。アルバム情報


ショパン:24の前奏曲 Op.28

ひとことで言うならば、凄かった。音の美しさ、ドラマ、抒情性…ショパンの世界に惹き込まれ、あらゆる感情を感じるこの作品を一緒に旅して感動で鳥肌が立ちました。

太田胃散のイメージが強すぎる7番もしっかりショパンの世界が見えましたし、「雨だれ」もとてもリアルで、病に倒れたときの弱さ・不安だけでなく体の重みすら感じるものでした。個人的に好きな4番も涙で息苦しくなるような感覚がありましたし、憤りや焦り、苛立ち、幸せの表現も素晴らしかったです(筆者の理解が合っていれば)。

そして最後の24番、つい注目してしまう最後のドーンという最強のフォルテ。いくつか演奏方法を目にしてきましたが、親指で弾くように弾き、一瞬で手を離してペダルの余韻で響かせていた阪田さんの技術がとても印象に残りました。(だいたいしばらく鍵盤に手が残っているイメージが強いので)

最後の1音の見比べシリーズをしてみました。
おそらく標準的な人差し指や中指で弾くタイプ(例:ユリアンナ・アヴデーエワさん)

拳で弾くタイプ(例:チョ・ソンジンさん)

隣の鍵盤をおさえて弾くタイプ(例:小林愛実さん)


リスト:巡礼の年第2年「イタリア」S.161/R.10より


第4曲「ペトラルカのソネット第47番」

後半は「世界一のリスト」と絶賛された阪田さんのリスト。阪田さんの超絶技巧と、歌心と、天使が弾いているかのようなクリスタルサウンドを満喫できるリストの作品は、生演奏で聴けるといつも大満足。阪田さんはまだ20代ということを忘れるほど貫禄のリストです!

動画は阪田さんが優勝された2016年リスト国際ピアノコンクールのセミファイナル。

第5曲「ペトラルカのソネット第104番」

第6曲「ペトラルカのソネット第123番」
最後の1音が衝撃でした。ショパンで最強のフォルテを聴いたと思ったら、反対にこれまで聴いたことのない最弱音。この動画より進化していて、鳴っているのかわからないくらいの、鳥の羽か何かでさわっと撫でただけなのか、というようなかすかな音。とても難しいのでしょうね。(動画では34:55くらいから)

第7曲「ダンテを読んで - ソナタ風幻想曲」
技巧的で迫力のある悪魔的な作品ですが、こんなに多くの音符を深い音で出しても濁らず透き通った音なのですよね。阪田さんの演奏を聴いている実感が沸く作品のひとつです。
時々メフィスト・ワルツのようなフレーズが感じられ、阪田さんの演奏でメフィスト・ワルツも聴いてみたいという思いが離れませんでした。


〈アンコール〉ラフマニノフ:楽興の時 第2番

お盆休み期間中ということで、阪田さんのコンサートにしては空席がちらほらあった会場ですが(泣く泣く諦めた方も多いのでしょうね)客席の拍手は熱かったですね!いつまでも途絶えない拍手に応えてアンコールは3曲でした。

この日の情熱的な作品の流れで、とても自然で良い選曲ですよね。

〈アンコール〉ガーシュウィン/ワイルド:魅惑のリズム

筆者が会場の誰よりも盛り上がってしまったと言ってしまいたいJAZZYな1曲。 ポピュラーからジャズ経由でクラシック沼にハマった筆者としては、クラシックピアノの最前線の方が弾くジャズには大興奮してしまうのですが、ガーシュウィンなのでこれはクラシック音楽という不思議。
阪田さんの演奏はわりとテンポが速くどこか技巧的でスタイリッシュ。キレのあるリズム感と美しい音で、本格的なクラシックの方が演奏するジャズのクオリティの高さには脱帽です。めちゃくちゃかっこいい!(平たい表現)誰得ランキングですが、筆者の中で阪田さんのアンコールでハートを射抜かれた曲の3本の指に入ります。

動画はジャズの巨匠、トニー・ベネットとダイアナ・クラール版を。ちなみにダイアナ・クラールはカナダ出身のジャズピアニスト・歌手で、旦那さんは「ノッティング・ヒルの恋人」のテーマ「She」などで有名なエルヴィス・コステロです(阪田さんこの映画お好きとおっしゃっていたような)。

ピアノソロ版も載せておきますね。サムネイル、リスね、リス…ファリスネィティンッリズム…(違うでしょうね)

〈アンコール〉ラフマニノフ/阪田知樹:ここは素晴らしい処

最後に締めたのは阪田さんの編曲作品。今回も阪田さんの多彩な魅力がぎゅっと詰まった素敵なコンサートでした。


最後に

今回とても良い席でお手元を近くで拝見できたのですが、阪田さんの手の動きの美しさに余計に心が動かされてしまいましたし、ほとんど聴き取れない弱音も堪能でき、弦の響きの残りの音も味わい深く、素晴らしい体験でした。

ショパンの24の前奏曲はこの後、全国のコンサートでも演奏される予定とのことですので、お近くの方、コレ間違いないです!おすすめです!

24の前奏曲が演奏される阪田さんのコンサート予定(2023/8/12時点)


2023年11月15日(水)長野市芸術館リサイタルホール 詳細(「雨だれ」のみかも)
2023年12月15日(金)兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール 詳細
2024年01月07日(日) 横浜みなとみらいホール 詳細
2024年2月29日(木)三井住友海上しらかわホール 詳細

出典

「ルチアーノ・ベリオ」 高松宮殿下記念世界文化賞
「ベリオ」 ピティナ・ピアノ曲辞典


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