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バッハ・コレギウム・ジャパン「聖夜のメサイア」

クリスマスイブに開催された「サントリーホール クリスマスコンサート 2021 バッハ・コレギウム・ジャパン『聖夜のメサイア』」。筆者は合唱付きオーケストラを鑑賞すること、古楽器の演奏を聴くこと、さらにはオラトリオを聴くという体験はこれまで数回しかなく、まだまだその作法や見どころなど理解が浅いのですが、クリスマス・イヴにオラトリオを聴くとは素晴らしい経験になるであろう期待と、バリトン・大西宇宙おおにしたかおきさん目当てで楽しみにしていた公演だったのでした。クリスマスツリーも七面鳥もない筆者の自宅も、とてもリッチな雰囲気を味わうことができた夜になりました。

公演はサントリーホールと、ライブ配信のハイブリッドで開催され、筆者は配信で鑑賞しました。

この記事はクラシック音楽初心者が、勉強がてらコンサートの余韻を味わう目的で残す、備忘録に近いコンサートレポートです。この記事は大西さん推しに偏り気味であることをあらかじめお知らせいたします(笑)


プログラム

ヘンデル:オラトリオ『メサイア』HWV 56
<アンコール>トラディショナル(鈴木優人 編曲):「いけるものすべて」

<出演>
指揮:鈴木雅明
ソプラノ:森麻季
アルト(メゾ・ソプラノ):湯川亜也子
テノール:西村悟
バス(バリトン):大西宇宙
合唱・管弦楽:バッハ・コレギウム・ジャパン

公演日:2021年12月24日 (金)サントリーホール
  配信:2021年12月24日 ~ 2021年12月30日


バッハ・コレギウム・ジャパンと鈴木雅明さん

筆者にとってバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)といえば、The Three Conductorsで拝見している首席指揮者の鈴木優人さん(鈴木優人さんの公演についての記事はこちら)。鈴木雅明さんは優人さんのお父様でBCJ音楽監督であり、創設以来バッハ演奏の第一人者として著名な方。指揮だけでなくチェンバロ・オルガン奏者でもあります。前回の記事で少し紹介した「おうちでバッハ〜BCJ特別ライブ配信~」では、優人さんとチェンバロを連弾されていたのも微笑ましく記憶に残っています。また優人さんとご一緒に出演されたテレビのドキュメンタリー番組もありましたね。クラシック界では雅明さんが先にありきなのでしょうけれど、クラシック音楽を本格的に聴き始めたのがこの2~3年である筆者は、若手の音楽家から聴き始め、彼らのSNSのつながりで他の音楽家を知っていくことが多く、失礼なことに巨匠こそ存じていなかったりします。

BCJの公演としては前述の記事でも少し触れていますが、オペラ「リナルド」のダイジェストや(無料のものですみません)「おうちでバッハ」(無料のものですみません)で拝見しました。BCJの公演はバロック音楽を中心に演奏され、バロック時代の古楽器を拝見できるおもしろさがあります。

この日のステージには赤い幕のような装飾やクリスマスツリーが置かれ、よく見ると楽器の奏者さん・合唱団のみなさんの衣装も赤いコサージュ・髪飾り・ネクタイ・ポケットチーフなど、どこかにクリスマスを演出するアイテムを付けていらして華やか。中には盛大に(笑)クリスマス柄のネクタイの方もいらっしゃって、楽しませていただきました。


ヘンデル:オラトリオ『メサイア』HWV 56

クラシック音楽初心者の筆者としては、まず「オラトリオ」とは何なのかというところからです。少し調べてみました。

「オラトリオ」とは宗教的な題材をもとに、独唱・合唱・管弦楽から構成される宗教音楽の一種。

「メサイア」とはヘブライ語の「メシア(救世主)」の英語読み。聖書から歌詞を取ってイエス・キリストの生涯を「救世主」としての面を強調しながら描いた大規模な声楽曲。教会での礼拝のためのものではなく、劇場で演奏されることを目的として書かれた。独唱曲・重唱曲・合唱曲など全53曲が交互に配置され、「予言とキリストの誕生」「受難と贖罪」「復活と永遠の生命」の3部に分けて構成。第2部最終曲の「ハレルヤ」は独立してよく演奏される。「ハレルヤ」とはヘブライ語で「神を褒め称えよ」という意味とのことです。

オーケストラは筆者がイメージするものよりずっと小編成で、これがバロック音楽なのか、BCJなのか、または今回のプログラムによるものなのでしょうか。バロック楽器はそれぞれ呼び名も違うかもしれませんが、バイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、オーボエ(のような大きなリコーダーのような管楽器)、ファゴット、トランペット(のようなトロンボーンのような管楽器)、鍵盤2種、ティンパニの全部で20人ほど。ステージの真ん中には前述のコンサートで拝見したチェロの上村文乃さんがいらっしゃって、キレのある凛々しい演奏が素敵でした。今回もガット弦なのでしょうか。

この日も弦楽器は弓がバロックのもので幅広で先の形が違ったり、コントラバスは弦が5本に見えたのは筆者の錯覚でしょうか。管楽器は気づくとステージから消えており(笑)同じひとつの作品の中でも登場と退場を繰り返しているようでした。筆者がこれまで見てきた限りの知識ですが、現代のオーケストラでは出番がなくてもステージに立ち続けるという作法とは違うことがわかります。そしてこの日のチェンバロも装飾が美しい。その弦とメタルの間のような音が一気に荘厳な雰囲気を作りだすところが筆者のお気に入りです。もうひとつの鍵盤楽器は何というのでしょう。筆者の宿題です。鍵盤楽器はチェロなど他の楽器のの後ろ側に位置していて、筆者になじみのあるピアノ協奏曲とはだいぶ違い、粛々と演奏されるものでした。

鈴木雅明さんの指揮は初めて拝見しましたが、想像よりエネルギッシュで表情豊か。とても楽しそうに指揮をされる印象でした。個人的に、どの楽器に指示を出しているのかがわかりやすく、初心者が見ても楽しめる指揮だと感じました。(真実はいかに)


ソリスト

ソロパートはテノールの西村さんからスタート。ソリストさんたちはそれぞれのパートになるとステージ脇の椅子からおひとりづつ登場されました。

大西さんは声色だけでなく顔の表情でとても豊かにストーリーを表現されるところをいつも興味深く拝見しています。この日もその世界観の演出が素晴らしく、初心者である筆者もわかりやすく伝わってくるようでした。この日は歌い終わった後や、椅子に座って他の方のパートを聴いていらっしゃるときはどこか幸せそうな表情をされているのが印象的で、この公演を楽しんでいらっしゃるのだろうと思うと、幸せのおすそ分けをいただいた気分でした。大西さんは今年9月に原田慶太楼さん指揮の東京交響楽団「海の交響曲」で初めて生のコンサートで拝見して以来。そのときは後ろ姿を眺める席だったため、念願の正面からのアングル!(その時の記事)しかも今回の配信は顔の表情が良くわかる素晴らしいカメラワーク。

未だに言語学習に苦労している筆者としては大西さんの発音、特に語尾である最後の歌詞に切り方にも感銘を受けるのですよね。どの言語だとしてもその言語独特の音を出されていて、その言語をよく研究されているのだとプロフェッショナリズムを感じます。

ちなみに筆者は大西さんが公演ごとに「バリトン」になったり「バス」になったりすることが不思議だったのですが、Twitterでご本人が解説してくださったことがあり、嬉しさのあまりそのツイートを引用して備忘録に残させていただきます。

古典やバロックの時代はバス、バリトンなどあまり区別がなく、その中でも曲や役によって「高め」「低め」がありましたが、ここまでの時代は全て「バス」と表記されていました。(現代ではバリトンと考えられることが多い伯爵やドン・ジョヴァンニなども)ロマン派時代はバリトンと書かれることが増え、第九の場合もスコアに「バリトン」と明記されていますが、初演の歌手がザラストロなどをバス歌手だったこともあり、また海外ではバスやバス・バリトンが歌うことも多いので、表記は各演奏団体に委ねられます。

今回は歌詞の字幕が表示されたため、ひとつひとつのセリフが理解できる嬉しさがありました。さらには2ヶ国語であり、この作品が英語で進んでいることに気づきます。古い単語・表現が使われていて時代を感じるものですが、引用された聖書は早くから英訳されていたのだと歴史を考えると興味深い瞬間でもありました。少し調べてみると、この作品はイタリアで始まったオペラがヘンデルが活躍した当時、経済の中心となっていたロンドンに渡ったことが英語の作品となった背景にあるそうです。イタリア・オペラはその外国語の意味がわからないという理由で、ロンドンでの人気は長続きしなかった。そこでイタリアでオペラを学んだヘンデルは英語の歌詞をつけたオラトリオを作曲。オラトリオはイタリア語になじめなかった中産階級からも広範な人気を得られ、当時から高い人気を誇ったのだそうです。

ソリストさんのパートで気づくのですが、その楽譜の厚さ!筆者は公演中に見かける楽譜としてはピアニストが使っていらっしゃるものを想起しますが、今回みなさんがお持ちなのは1学期分の大学の教科書のような大きさです(しかも海外の笑)。大西さんのように何冊もお持ちになって海外と行ったり来たりされる方は大変なことでしょうね!1曲で2時間の長さがある壮大な作品だからでしょうか。ソリストさんたちやチェンバロ奏者さんの使い込んである楽譜がとても味があります。

ソプラノの森さんはコロナ前の日本初・BBC Promsで生で拝見したことがあります。オーラがあるような華のある方ですね。湯川さんは初めて拝見しましたが、人々に見捨てられる場面では本当に涙を浮かべられているように見えて引き込まれました。

アンコールは伴奏のない合唱のみの作品。字幕は出ませんでしたが”ハレルヤ”というフレーズが聴こえました。”ハレルヤ”は現在でも世界中でクリスマスに歌われるもの。比較的、筆者になじみのあるゴスペル、そのアカペラで歌われるものを想起させ、ここに歴史の始まりがあるのかと想像していました。クラシック音楽は“聴く世界史”ですね。


特に印象に残ったパート

演奏の話に戻り、良い意味での驚きがあったのは、まず12.ピファ(シンフォニア・パストラーレ)。あるはずのないバグパイプのような音がして、オーケストラを二度見、三度見。どの楽器が出した音なのか探してみましたがファゴット(らしき楽器)でしょうか。あんな音が出るのですね、感動です!

そして39.合唱。ソリストさん全員が登場されて壮大に盛り上がっていく終盤、一番最後のパートです。予習も何もすることなく公演を聴いた筆者ですが、これがあの有名なハレルヤ♪ですか!クラシック音楽にはそういった、聴いたことがあるけど作品名がわからない曲がたくさんあり、ひとつひとつ発見していくのも楽しみだったりします。


最後に

公演の最後に筆者が感動したのが、演奏者みなさん揃って後ろ側の席にお辞儀をされたこのシーン。指揮者やソリストだけでなく、合唱団と演奏者全員だったので良い驚きであり、感動するものでした。まだ数回しか合唱付きのオーケストラのコンサートを観たことがなく筆者が失念しているかもしれませんが、こういうものだったでしょうか。BCJだからなのでしょうか。とても真摯で温かくて好印象です。

出典

「マンガで教養 はじめてのクラシック」飯尾洋一 監修 朝日新聞出版

「クラシック名曲全史 ビジネスに効く世界の教養」松田亜有子 著 ダイヤモンド社


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