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【試合評】なぜその球を... その配球たったの0.21%ですから!~4/10●楽天2-3日本ハム

※本稿は全文note公開中。最後までお楽しみいただけます。

本戦勝利を遠ざけた石井監督の采配

この試合の勝利だけを追求するなら、石井監督の采配は勝利から遠ざかるものだった。

2点を追いかけた5回の無死満塁が如実に象徴している。この場面、全権監督は炭谷の代打で和田恋を送り出した。

前日にホームランを放った歴戦選手よりも、今季17打席無安打と1本出ていない不振の2軍級を起用したことになるわけだ。本戦の勝利だけを目指すなら、首をかしげざるを得ないタクトだった。

似たような場面は終盤にも目撃された。7回に西川の2点二塁打でゲームを振り出しに戻して2-2で迎えた9回裏、マウンドに登ったのは、今季初登板の津留崎だった。

3/27○E6-5Mのように本戦も翌日ゲームのない日曜日。そのため守護神が9回10回と回をまたぐのかな?とも思われたが、石井監督が送り出したのは、昨年わずか1登板に終わった大卒3年目だった。

目指すは143試合での勝利

ということを考えると、この試合、現役時代に日米通算182勝をあげた指揮官は、目先よりも大局観でシーズン全体での勝利を見すえていたことになる。

先日もオリックスで発生したようにコロナの大量離脱は終息の気配がない。不測の事態に備えるためにも、チーム全体の底上げは必要不可欠。だからこその経験を積ませる起用法になったと思われる。

その決断を後押ししたのは、札幌より1時間早くゲームが始まり、札幌と比べて試合時間が42分も短かった所沢の戦況もあったのかもしれない。

この日、開幕から快進撃をみせた若鷹軍団が負けている/負けた状況だった。ペナントレースは始まったばかり。まだゲーム差を気にする時期ではないとはいえ、この試合もし落としても、ライバルとの差は変わらない。このことも脳裏の片隅にあったのかもしれない。

試合展開

楽天=1番・西川(左)、2番・山﨑剛(遊)、3番・浅村(指)、4番・島内(右)、5番・鈴木大(三)、6番・渡邉佳(二)、7番・マルモレホス(一)、8番・辰己(中)、9番・炭谷(捕)、先発・瀧中(右投)

日本ハム=1番・浅間(右)、2番・松本剛(左)、3番・近藤(中)、4番・清宮(一)、5番・アルカンタラ(二)、6番・野村(三)、7番・ヌニエス(指)、8番・宇佐見(捕)、9番・上野(遊)、先発・上沢(右投)

両軍のスタメン

痛恨の配球ミス、痛恨の失投

延長10回裏の1死2塁、3番・近藤に松井裕が打たれた中越えのサヨナラ二塁打。

すでにTwitterに書いたように、7回からマスクをかぶった今季初出場の堀内による配球ミスだ。

ストレート、フォークが外れて2-0。ボール先行になったものの、スライダー、ストレートを外角低めに決め、いずれも見逃しストライクで2-2。カウントを持ち直すことに成功。このとき、解説の建山義紀さんは「今のところ打てるボールはきてませんね」と指摘していたのだ。

それなのに、最後の5球目が一番甘く入った。

堀内のミットは外角寄り。にもかかわらず、守護神が投じたカーブは内角に入ってしまった。この失投を引っ張られてしまう。

あの打撃をみていると、外野前進守備の頭上を越える飛球撃ちを狙っていたことを再確認することができる。まさにおあつらえむきの123キロになったわけだ。

たったの0.21%

あの場面でカーブはないだろう。

例えば、本戦と同じような1点も許されない得点圏、1点リードまたは同点の得点圏で松井裕が、滅多に投げないカーブを使用した例は、昨年いったい何球あったのか?

調べてみると、わずかに1球だった。

昨年4/10ソフトバンク戦。8-8の同点で迎えた9回2死2,1塁、中村晃への初球で使用した。外角に制球良く117キロを決めて見逃しストライクを獲得した。

ふつう、打者は初球にカーブを狙ってこない。緩い球を打ち損じて凡退したらもったいない。後悔の念が強くなるからだ。余談だが、その打者心理を逆手にとり、初球からカーブを多投し、前半戦の躍進につなげたのが2017年のイーグルスだった。

そのなか、中村晃はとくに初球は見てくる待球姿勢のバッターである。昨年の楽天戦でLefty Sniperが初球スイングしてきた割合はわずかに18.4%だった。

1点も許されない場面だけど、打者がほぼほぼ振ってこないと分かっている安全な場面で使用された1球だった。

次に、松井裕が守護神に就いた2015年以降のデータを確認してみたい。

救援起用されたときの、1点リードまたは同点の得点圏、つまり1点も許されない状況だ。このとき彼は何球を投げ、そのなかにカーブは何球あったのか、さらに追い込んだ後のカーブの数はどうだったか。これを表にまとめてみた。

下記の結果になった。(本戦のデータは対象外)

2015年以降 救援で1点リードまたは同点の得点圏 松井裕樹カーブ使用状況

2015年以降、当該場面で956球を投げ込んだ松井裕。そのうちカーブはわずかに8球、たったの0.84%だった。さらに言えば、追い込んだ後のカーブは2球! 0.21%だった。

ということを考えると、延長10回1死2塁、近藤に対して2-2からのカーブは、配球に相当のゆるぎない根拠がなければ出せないサインと言える。

はたして1軍公式戦で松井裕と2年6ヵ月ぶりのバッテリーを組んだホリケンの胸中に、確固たる根拠はあったかどうか? ガチガチのダイヤモンド級の論拠を持っていたのか?

松井裕と近藤の41打席に及ぶ通算対戦成績は打率.206で松井裕に軍配が上がる。とくに過去3年は14打数1安打と圧倒。だから勝負にいくことは間違いではない。

とはいえ、できれば外角配球を徹底し、空いている1塁に歩かせてもよいくらいの心持ちで勝負して欲しかった。

また、球種はカーブは論外。ストレート、スライダーで攻めるべきだった。

昔、当noteで再三指摘していた『近藤は松井裕のストレートが大の苦手』説、みなさん覚えているでしょうか?

通算で、近藤は松井裕のストレート71球にスイングしにいくも、その33.8%に当たる24球で空振りするほどだった。71球バットを振ってヒットになったのは、わずかに3本である。

という過去の記録を踏まえるならば、真っ直ぐを外角狙って投げ込みたかった。仮に内角に抜けたとしても球威で詰まらせ、前進守備を敷く外野の頭上を越されることはなかったと思う。

残念だが、ホリケンにはこれを教科書にしてもらって、また頑張ってもらいたいと願う。【終】

・・・というようなデータをまじえた試合評やコラムを『Shibakawaの楽天イーグルス観戦記2022』で綴っています。

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