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エビデンスのある療育ーPMII準備編

はじめに

エビデンスのある療育を紹介していく本シリーズ今回は、PMII(Peer-Mediated Instruction and Intervention)です。PMIIはいくつかバリエーションがありますが、いずれも対象児の同級生と協力して進めていく療育の方法になります。

インクルーシブ的な文脈においても集団生活の中で、それぞれの子供たちがどのように相互的な関わり合いを築いていくことができるか、デザインする上で役立ちます。

PMIIの概要

PMIIは対象児の同級生に対して、対象児とどのようにポジティブかつ有意義な方法で関わっていくことができるのかシステマチックに教えていきます。PMIIには下記の5つのタイプのものがあります。

・同級生によるモデリング

【定義】
対象児が学習している行動やスキルを、同級生がお手本として行動するように同級生に教える。
【対象行動・スキル】
・助けや補助を周囲の人間に求める
・活動に参加する
・指示に応じる
・挨拶
【対象年齢】
0歳~12歳

・同級生によるイニシエーション

【定義】
相互的な関わり合いの開始(例:会話の開始、活動への誘いetc)を同級生から対象児に対してより自然な環境下で行うように、同級生に教える。
【対象行動・スキル】
・誘いへの対応
・対話の成立
・交代・順番の理解
【対象年齢】
0歳~12歳

・共同学習

【定義】
対象行動や、スキルを、同級生と対象児に同時に教える。
【対象行動・スキル】
・会話の開始
・視点取得
・拒絶・拒否の理解
【対象年齢】
0~12歳

・コミュニティへの参加

【定義】
指導時間外にある、同級生同士の集まりへの参加
【対象行動・スキル】
・同級生コミュニティへの参加
・ソーシャルネットワークの拡大
【対象年齢】
9歳(小学校高学年)~18歳(高校生)

・サポート

【定義】
同級生による、インクルーシブな環境下での社会的、学習的なサポート
【対象行動・スキル】
・アカデミックスキル
・ソーシャルスキル
【対象年齢】
9歳(小学校高学年)~18歳(高校生)

PMIIによって達成できる目標

PMIIを使用することによって以下のような目標を達成することが可能です。

・同級生に、対象児とどのようにコミュニケーションをとることができるか教えていく
・同級生と対象児の間でのコミュニケーション頻度の向上
・同級生から対象児に対して社会的な相互的やり取り(会話、遊びなど)の開始が増加
・社会的な相互的やり取りの質の向上(挨拶を交わすだけから、対話への変化等)
・大人からの支援の最小化
・対象児の教室での活動への参加の増加
・ポジティブで有意義な関わり合いの増加

集団生活の中では、個別指導の時と異なり、非常に多くの刺激に晒されることになります。また個別指導の際は、指示やすべきことがシンプルで明確であったものが集団生活の中ではより複雑になることもあるでしょう。自閉症スペクトラムを持つ児童生徒にとってはこなしていくことがすごくしんどいシチュエーションも多々あります。PMIIはそのような中であっても対象児の学習機会を最大化しまたより複雑な実生活上の環境に慣れていく上で非常に有用です。

また一方で自閉症を持たない生徒にとっても、メリットがたくさんあります。新しいコミュニケーション方法を学ぶということはそれだけ、新しい交友関係を築くことになり、また同じ人間に見えても、自身を含めそれぞれ異なっているということを学ぶ機会になるかもしれません。

科学的に効果があると認められた領域

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PMII準備ーシチュエーションの特定

PMIIは学校生活の中で、至る箇所で活用できますが自然に発生するようなシチュエーションを活用するとより有効です。そのため、まずは普段の生活のなかで「いつ」同級生と対象児の間でコミュニケーションが発生しているのか探っていきます。

シチュエーション例

・小グループ学習(国語、理科など)
・給食
・体育、音楽の授業
・休み時間の図書室
・昼休憩、中休み
・移動教室

いくつかのシチュエーションを観察して、どれを活用していくか決めます。決める上で、どのシチュエーションが一番相互的にコミュニケーションが発生しているのか?、どの時間帯がPMIIをするのにふさわしいか?(朝疲れていない時か?、帰り際か?等)、どのシチュエーションなら相互的コミュニケーションが可能か?(もし観察してコミュニケーションがなかった場合)を考慮して決めます。

PMII準備ー同級生に協力をお願いする

活用するシチュエーションが選択できたら、次に実際に協力してもらう児童を選択し協力をお願いします。PMIIを有効に実践するためにどのような児童に協力をお願いすべきかは、下記の項目を参考に決定します。

チェックリスト

・PMIIで目標としている行動やスキルの学習を補助していくにあたって、十分なソーシャルスキル、言語スキル、遊びスキルを持っているか?
・対象児とポジティブな関わり合いをしたことがあるか?
・大人の指示を遵守することができるか?
・年齢相応に十分な時間活動に従事できるか?(例:0〜8歳の場合15分、9歳以降の場合30分〜45分など)
・基本的に出席しているか?
・対象児と同じまたは似たスケジュールで学校生活を送っているか?(例:時間割が同じ、または似ている)?
・協力のお願いに快く対応してくれるか?
・同級生の教師や保護者の了解が取れるか?

上記概要でのせた、サポートやコミュニティへの参加型のPMIIを実践する際には、4〜6名程度の同級生の協力が必要です。またコミュニティへの参加にあたっては学校外の時間においてスケジュールを一致させることが可能か考慮する必要があります。

またPMIIを実践し対象行動や対象スキルを獲得するまでに必要な期間(3〜4ヶ月)に渡って参加協力可能かも考慮する必要があります。

PMII準備ートレーニングセッション

上記のチェックリストを踏まえ協力してくれる同級生が決定した後で、実際に同級生達に対象児の目標やどのようなサポートが必要か説明、練習していきます。これは実際に協力してもらう児童の年齢や対象児の目標とする行動・スキルによって様々な内容になりますが、下記のセッションは必ず必要です。説明や練習をするにあたっては、静かで小さな個室などを利用できることが望ましいです。

第一セッション:それぞれの違いについて理解

まず第一回のセッションにおいては対象児について具体的な説明に直接入らず、それぞれの人々の違いについて学習します。下記の事柄について年齢相応のレベルに基づいてディスカッションします。

・ここにいるみんなの外見上同じところは何か?
・ここにいるみんなの外見上違うところは何か?
・あなたは何が好きか?また嫌いか?
・あなたがすごく得意なことは何か?
・あなたがすごく苦手なことは何か?
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高学年の場合追加で必要かもしれない項目
・PMIIによる介入の目標
・なぜ同級生による協力が必要不可欠なのか?
・同級生に求めること

*注意事項

得意不得意や苦手を説明するにあたって、対象児の診断名やその症状、特徴に関して説明することがどうしても必要な場合があるかもしれません。が基本的に診断名や個別支援計画に記載されるような情報、機密情報でありまた個人情報です。保護者の方、および対象児の了解なしに共有してはいけません。そのため基本的には違いを説明するにあたって好きか嫌いか得意か不得意かという情報のレベルに留めておくほうが望ましいです。

第二セッション:対象行動・スキルに関する説明

このセッションでは、実際にこのPMIIで目標とする対象行動やスキルに関して具体的に説明していきます。また例えば今回の目標とするスキルが4往復以上の対話であった場合などにおいては、対象児の年齢が幼稚園、小学校、中学校かで行動の具体的な内容が異なる点に留意する必要があります。それぞれの前提を考慮しながら説明します。

PMII準備ースクリプトの作成

PMIIを実践していく上で、同級生からのプロンプトやモデリングが必要になります。そのため事前にどのようなプロンプトやモデリングが必要か記述しておきます。

どのような声かけから対話を開始するのか?、またシチュエーションに即した対話内容はどのようなものがあるのか共同して記述していきます。

PMII準備ーロールプレイ練習

スクリプトが完成した後で実際にロールプレイ形式で、シチュエーションを再現します。まずは指導者側がお手本を見せた後で、続いて児童にロールプレイを実践してもらいます。また指導者側はこの活動をしている際に、児童に対してフィードバックと強化を行い活動への参加を促進していきます。

PMII準備ー実行計画とモニタリング計画

協力してもらう児童のスケジュールと、対象児のスケジュールをつきあわせPMIIが実践できるシチューションを改めて全て特定します。また今回のPMIIの実践において実践中に記録することが可能な場合には記録用シートやノートを提供し、反応等に関して記録してもらいます。これらの記録は週次のミーティングで使用し実際の支援を調整したりする上で判断材料としていきます。

まとめ

以上PMII準備編でした。具体的に何を目的として実践するかによって内容が異なってきますが、コミュニケーションが発生するシチュエーションを特定し、協力児童を決定し、協力児童向けにセッションを行い、実践していくという流れは変わりません。インクルーシブという文脈でも活用可能かと思います。

それでは次回実践編でまたお会いしましょう!

リファレンス

https://afirm.fpg.unc.edu/node/2

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