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エビデンスのある療育ーPII実践編

はじめに

この記事は前回の続きです。まだ読まれていない方はそちらを先に読まれることをお勧めいたします。さて、前回はPIIを実践するまでにどのような準備が必要なのか紹介させていただきました。

今回はPII実践編ということで、計画したPIIを実践していくフローを紹介させていただきます。

PII実践ー環境調整

計画したPIIを実践する際に、まずやることは選択したEBPを実践するタイミングの環境調整をしておくということです。日常生活の中に組み込むことを前提とした介入であるものの、より実践しやすくする上でこのステップは外せません。

児童の注意が削がれてしまうような要素、例えば「片付け」をEBPを使用するタイミングとして活用している場合には、片付けする部屋にテレビがあり、つけっぱなしであると注意が片付けよりもテレビの方に向いてしまうかもしれません。このように注意を削いでしまう可能性のあるものでかつあらかじめ、除去できるようなものは事前に対処しておくとよりEBPを実践しやすくなります。

また、特定のおもちゃで遊べるようになること、など必要とする物が明確な場合にはその物が、EBPを使用するシチュエーションの時に、児童の目につく場所に置いてあることが前提になるでしょう。

PII実践ーコーチング

PIIはご家族が主体となって介入していく方法ですがセラピストによるコーチングも効果的にPIIを実践していく上で必要不可欠です。コーチングの手法自体は様々な物があり、これと言ってPIIに最適なモデルがあるわけではないですが、大きく分けて5つの要素が組み合わさった物が使用されています。

コーチング5つの要素

・共同計画
・観察/お手本
・行動/実践
・内省/振り返り
・フェードバック

またここでいうコーチングは、セラピストから見て保護者の方の至らない点指摘し正すという監督者的なものではなく、ご家族の設定した目標を達成するため必要なことを共同して進める伴走者のようなものです。

すでに共同計画に関しては、先の準備編で一緒に行うことやステップを紹介させていただきましたので、残りの項目に関して順番に紹介します。

観察/お手本
計画段階では使用するEBPに関してどのようなものなのか、理解していただけるように説明するところまでやりました。ここで、理解が深まった後で一旦セラピストによるお手本を挟みます。実際に日常生活の様々なシチュエーションでセラピストによる実践を保護者の方に観察していただき、どのようにやるのかその具体的イメージを持っていただきます。また実践中や実践した後で、ご家族の方からの質問を通じてより理解を深めます。このプロセスで特に重要なのは、疑問や懸念に対して直接回答をするのではなく、考え方や思考のプロセスを共同して作っていくということです。

そのため、例えば「対象の活動に注意を向けない時はどうすればいいか?」という質問に対しては、「お子さんの注意が向くものってどんな物がありますか?」などと、問題解決につながる思考をリードするような質問や問いかけをしていくことが必要になります。ここで答えを提示してしまうことは非常に簡単で手っ取り早く感じられるかもしれませんが、PIIに置いては介入の主体はご家族であり、またこのような「〜時は?」という疑問は無数に発生します。この疑問に一つ一つ回答していくことは非常に大変です。そのためご自身で思考し解決できるようにしていく方がご家族にとってもメリットが大きいため、このコーチングプロセスは非常に重要です。

行動/実践
実際にご家族の方が、介入していく過程でお手本を見て内容も理解しているけれどもやっぱりうまくいかないようケースが生じる場合があります。このような場合には、ご家族の方のモチベーションも下がってしまい、また目標達成もより困難になってしまいがちです。このような場合には、ご家族の方の介入の様子を現場で見せていただきその場で、アドバイスやフィードバックを提供したり、また一つのシチュエーションだけでなく様々なシチュエーションで練習するように勧めたり、自身の介入の様子を撮影して、見れるようにしたり、モチベーションアップと具体的なスキルアップのために様々な工夫ができます。

しっかりと理解しまた真面目に取り組んでいる限りは、必ず変化や進捗があるはずなので、セラピストはそれらの点に注目しつつ、具体的なアドバイスを含めながらモチベートしていくことが必要です。

内省/振り返り
このプロセスは、成人の学習において非常に効果的なプロセスです。セラピストからの質問を通じてPII実践の過程において実際に起きたことはなんなのかその時意図していたことと事実に乖離はあるかそれはなぜかという点を振り返ります。

質問リストの例

・この介入に関してどう思いますか?
・どのような課題が生じましたか?
・どんな時にEBPが効いているなと感じましたか?
・工夫を加えた点はありますか?どのような工夫でしょうか?
・このEBPはどのくらい実践しやすいですか?

また質問だけでなく、録画したPIIの様子を見ながら振り返ることはさらに効果的です。動画を見ながら、ある時点の自身の行動を振り返ることは実際に何が起きていたのか、自身の頭で思い出すよりもより正確に事実を認識することができます。これらの振り返りを通じて、ご家族の方自身がPIIの状況に関して理解を深めていただくと同時にセラピストはどの部分に困難を感じているのか、またそれは「そう思っているだけで実際は非常によくできている」のか実際にうまくいっていないのかなどと正確に状況を把握していくことができます。

フィードバック
適切にフィードバックを提供していくことは、ご家族の方のスキル向上や標準化において非常に効果的です。フィードバックを提供する上では、必ずしっかりと実態を観察すること、また簡潔かつ具体的にアドバイスをすること、ポジティブなフィードバックを心がけ、また修正を指摘する際には、単純にダメなどという表現は使用せず、しっかりとスキルのどの点が至らないのかまたどのように改善する必要があるのか丁寧に説明する必要があります。人格や性格などを否定するような発言はフィードバックではなく決してしてはいけません。

フィードバック例

・PIIの実践やスキルの習得にものすごく焦ってしまっている場合
「非常に効率的にEBPを実践していることは素晴らしいことですが、ちょっとだけペースを落としてみてもいいかもしれません。そうするとお子さんはもっとあなたに注意を向けやすくなります。お子さんの標的行動がすぐ起きることを急かしそうになった時は、一度心の中で5秒間数えてみるようにしてみませんか?」

・PIIの実践をためらっているまたは、自分に自信がないような場合
「〇〇さんと、△△ちゃんが一緒に遊んでいる時は、△△ちゃんすっごく楽しそうですね。PIIもこの遊びの中でできそうじゃありませんか?」

・感情をさらけ出したりすることが恥ずかしいと感じている場合
「もう少し〇〇さんが、感情をさらけ出したり、大袈裟に嬉しい様子や楽しい様子を見せると、お子さんもつられてより積極的にアクティビティに参加してくれるはずです。すごーい!!天才!、たのしー!!なんて大の大人が言うのは変な感じがするのはわかりますが、そうやってお子さんに合わせて一緒に遊ぶ時は、非常にいい反応をしてくれることが多いのです。」

・実践が非常に難しすぎてうまくできていないと感じている場合
「この目標やEBPは大前提として、実践がすごく難しいものです。ですが〇〇さん前回と比べてココが格段に良くなってますよ、プロでも難しいのにさすがですね。」

・過剰に厳しく実践しているまたは、過剰に期待している場合
「本当に是が非でもこのスキルをお子さんに獲得してほしいこと、それがどれだけ重要なことか理解してます。このスキルをお子さんが学んでいく上では、行動が起きるまでに後5秒ほど待つことが、学習の手助けになります。その方法を一旦試してみませんか?」

・児童が、全く参加してくれない場合
「どうやら〇〇ちゃんにとっては、もっと大事なことがたくさんあるみたいです。〇〇ちゃんについて、もっとたくさん知らなければなりませんね。PIIに参加してくれる仕掛けに何が必要かもう一度一緒に分析しましょう」

以上がコーチングのそれぞれの要素になります。重要なのはそれぞれが別個のものではなく全ての要素が関連し合っていると言うことです。お手本を見せる際に実践中にフィードバックすることもあれば時間を設けてビデオを振り返る際に一緒に行うこともあります。またどの要素もそれぞれ必要不可欠です。

PII実践ートラブルシューティング

コーチングの箇所でも疑問の解消や問題解決のサポートが出てきましたが、より具体的にPII実践において生じる障壁とその解消、また解消した後どうなっているのかの判断をするフローがあります。

ここでもセラピストから一方的に問題解決を提供するのではなく共同して同じフローの中で考えていくことが必要になります。

ステップ1ー課題や困難を特定する

セラピストによる観察
保護者と児童はそれぞれの対象となる活動に従事しているか?
児童は活動それ自体を楽しんでいるか?
児童は強化子を適切に与えられているか

セラピストによる質問
どの部分はうまくいっていると考えていますか?
どの部分はうまくいっていないと考えていますか?
我々(セラピスト)による修正や調整が機能しそうですか?

ステップ2ー解決策の模索・ディスカッション

セラピストによる質問
どうすれば問題は解決しそうですか?
お子さんは積極的に参加するよう十分に動機付けされていると思いますか?
どんな仕組みや工夫がより強い動機付けになりそうですか?
お子さんは飽きたり疲れているような様子ですか?

ステップ3ーフォローアップ

セラピストによる観察
保護者と児童は修正した後活動に参加しているか
児童はより楽しそうに活動に従事しているか
児童は強化子により反応しているか

セラピストによる質問
修正してみてうまくいっているように感じますか?
PIIの実践がこれまでよりも楽しいですか?
再度、より詳細な分析と修正が必要だと感じていますか?

PII実践ーコーチングのカスタマイズ

PIIを継続して実践していく中で、使用するEBPが変わったりしてもコーチングサイクルは基本的に継続して実施していきます。また継続して実施していく中で、どのパートが特に反応がよくまた信頼関係が深まったことでよりフィードバックしやすい雰囲気が形成されるなど状況が変化することに応じてより最適な形のコーチングのカスタマイズをする必要があります。

重要なのはコーチングは目標達成の確率を高める手段でありコーチングすること自体が目的ではないと言う点です。もっと良いコーチングをしようと改善していくことはとても大事なことですが自身のコーチングスキル以上に、ご家族や児童のニーズを満たすことが重要です。

コーチング改善セルフチェックリスト

・保護者はPIIを楽しめているか?
・児童はPIIを楽しめているか?
・もっとフィードバックを増やすべきか?または減らすべきか?
・自分の答えを押し付けづ、保護者の方が自身で振り返り理解を深める時間を設けられているか?
・保護者の方の問題解決思考や問題特定スキルを向上するサポートができているか?
・保護者の方がPIIを行うのに十分な時間を提供できているか?
・保護者の方はPIIを気持ちよく実践できているか?
・ポジティブなフィードバックに加えて必要な指摘も適切に提供できているか?

PII実践ーモニタリング

選択したEBPのデータ収集形式に合わせて、標的行動やスキルの進捗を確認することが必要です。これも保護者の方と共同して行います。データを見ながら、うまくいったこといかなかったことなど、コーチングサイクルに含まれている要素を絡めて実施することも有効です。

PII実践ースキルメンテナンス

継続してPIIを実践していく中で、すでに達成したスキルに関してメンテナンストライアルを行うことも重要です。過去に達成したスキルをある状況下で再度実施してみることで学習したスキルが一過性のものではなく維持されていることが確認できます。またすでに習得したスキルであってもこの時にも強化子を提供します。

まとめ

以上がPII実践のご紹介になります。なかなか最初からうまくいくことは稀なので、セラピストが伴走者としてどのように関わっていくことができるかが非常に重要です。「楽しめているか?」と言うキーワードが多く出てきたように、 Enjoymentの思想が根底にあり、苦しく厳しい訓練を家でも行うというものではありません。PIIで普段の生活がより楽しくなれば素敵だなと思います。

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