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エビデンスのある療育ーPII準備編

はじめに

エビデンスのある療育を紹介していく本シリーズ今回は、Parent Implemented Intervention(PII)です。PIIは、これまでのいろいろなセッティングが必要な療育とは少し異なり、家庭での活動や、普段の日常生活の中に織り込んでいくことができる介入方法の1つです。また、実際に介入する主体がご家族の方になるため、セラピスト主体で介入する方法と比較して、より実生活に馴染んだ介入になりますが、同時にしっかりとした連携が必要になります。

PIIによって達成できること

PIIは家庭や日常生活の中にある些細な行動も、児童にとっての学びに変えることができる介入方法です。また児童にとって嬉しいだけでなく、ご家族の方にとっても、より正確にお子さんの行動を理解することができるようになったり、ストレスが低減したりといった効果が見込めます。

・セラピストのコーチングによって家庭や日常生活の中で保護者の方がEBPsを実践できるようになる。
・ソーシャルコミュニケーションスキルの向上
・活動への参加などの「開始」
・共同注意
・言語能力の向上
・家庭や日常生活における問題行動の減少
・遊びに関する能力の向上
・保護者の方のリテラシーの向上、自己効力感の向上
・親子間のやり取りの向上
・就学準備

日常生活の中で、不安やストレスの原因になる「どうして、、、」という思考を、正しい知識や理解をもとに「なるほどね」「こうすればいいのか」としていくことは非常に重要ですが、一方で「正しいのだ」という思い込みは事実を見えにくくしてしまうことがあるため、セラピストとご家族の互いに補うような関係性が大切になってきます。

科学的に効果があると確認された領域

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PII準備ー状況把握

PIIはご家族を中心に設計される介入方法であるため、児童、家族それぞれの持つ強みや役割、またどのような部分はセラピストのサポートが必要なのか、事前に把握しておくことが必要です。これらの情報を把握していく方法として、児童と保護者が一緒に遊んでいる様子を観察する方法、児童一人の遊びを観察する方法、保護者へのインタビューなどがあります。

児童と保護者の遊びの観察

セッティング:お家、施設
所要時間:10分程度
必要なもの:児童がいつも使うおもちゃや物
概要:保護者と児童がいつも一緒にやるようなアクティビティや遊びを、二人で取り組んでいる様子を観察する。
観察ポイント:
・どのような遊び・活動を普段しているのか?
・どの遊びや活動が楽しそうか?またあまり楽しくなさそうであるか?
・遊びの最中に児童が保護者に注意関心を持っているタイミングはどのような時か?また注意関心がないのはどのような時か?
・保護者はどのような方法で児童の注意を引き付けているか?または引きつけようとしているか?

児童の遊びの観察

セッティング:お家、施設
所要時間:児童に合わせて
必要なもの:児童が使用するおもちゃ・物
概要:児童が遊ぶ様子を観察することで強みや弱みがどの分野にあるか掴む
観察ポイント:
・どのおもちゃで一番長く遊んでいたか?
・どのおもちゃで遊ぶのが一番楽しそうであったか?
・どの部分で一番上手に遊んでいたか?
・児童が得意な遊びは何か?
・どの遊びがあまり上手くいっていなかったか?
・上手くいかない原因やストレスになっている箇所はどこにあるか?

保護者へのインタビュー

セッティング:自由
所要時間:自由
必要な物:メモとる物
概要:保護者の児童の見立てをインタビューを通じてヒアリングする
インタビュートピック:
・お子さんはどのようなことをするのが得意ですか?
・これまでに、あまり得意じゃない苦労している様子が見られた活動はありますか?
・保護者の方と一緒に行う遊びで、お子さんが一番好きなものはなんですか?
・お子さんにどんなスキル、能力を獲得して欲しいと考えていますか?
・お子さんに向上して欲しいと思う具体的な行動はありますか?
・PIIを通じてどのような目標を達成したいですか?

上記のような方法を通じて、ご家族と児童の強みや弱み、サポートが必要そうな箇所が特定できたら、その内容に関してセラピストとご家族で両者の見解に関して話し合いを行います。セラピストの見立てと保護者の方の見立て自身の考える支援が必要な箇所が必ずしも一致するとは限らないため、お互いの意見を開示して互いの意見を理解していく必要があるためです。

PII準備ー活用するルーティンの特定

状況把握の中でどのような目標に対してアプローチするか決めた後に行うのは、いつ、どんなシチュエーションを学習機会として活用することができるか特定することです。このシチュエーションは、PIIに合わせて新しく普段の活動を増やすのではなく、すでに日頃行っている活動から選択することが重要です。

PIIを実践できる活動の例

・ご飯の時間
・お風呂の時間
・着替えの時間
・お買い物の時間
・公園やお散歩など外に遊びにいく時間
・屋内での遊びの時間

その他ー組み込める活動例を把握するツール
Asset-Based Context (ABC) Matrix (Wilson & Mott, 2006) - http://fipp.org/static/media/uploads/casetools/casetools_vol2_no4.pdf
Interest-Based Everyday Activity Checklists (Swanson, Raab, Roper, & Dunst, 2006) - http://fipp.org/static/media/uploads/casetools/casetools_vol2_no5.pdf
Routines-Based Interview (McWilliam & Clingenpeel, 2003)

PII準備ーEBPの選択

どんな目標で、どのような日常のルーティンを活用するか決めたら、実際にご家族が実践していく上で使用するEBPを選択します。EBPの選択に関しては、こちらの記事により詳しく書いているので、参照ください。

EBP選択のステップ

・行動を定義する
・ベースラインを測定する(PII実施の前の状態の測定)
・観察可能でかつ定量的なゴール設定(行動の前後関係、標的行動、達成基準等を含む)

EBP選択のケース例

・問題行動が普段のルーティンでも発生している場合→FBAABI
・おもちゃで遊ばない場合でかつそれが困りごとである場合→プロンプト
・おもちゃ等の使い方が不適切で、かつ適切な遊び方をして欲しい場合→モデリング、視覚支援
・社会的ルーティンで上手くいかないことがあり、かつそれが困りごとである場合→ソーシャルナラティブ

PII準備ー選択したEBPに関するコンセンサス

どのようなEBPを使うか選択した後で、セラピストからご家族にEBPに関する詳細な説明・解説を行います。なぜそのEBPが今回の介入において有効か、またどのような活動が必要になるのか、実施していく上での注意点などを共有し、使用するEBPに関して理解と合意を形成します。

実際に説明していく際には、自身でハンドアウトを作成するもよし、実際にこれまでセラピストが実施した該当EBPの動画を共有するもよし、どのような形でも情報共有することができますが、ここでの理解が今後の介入の質に関わることになるのでなるべくわかりやすく、噛み砕いて丁寧に説明します。

また説明と同時に重要なのは、ご家族の疑問や懸念もここであらかじめ解消しておくことです。一方的に説明して終わりにするのではなく、質問の時間等を設けてこれらを解消します。またこのタイミングだけでなくPII実施中に生じる疑問も随時相談できるような雰囲気を作っていくとより互いに安心して取り組んでいくことができます。

PII準備ー強化子の選択

どのようなEBPを使用しても多くの場合、強化が組み込まれているため、あらかじめ使用するEBPに応じて強化子を特定しておく必要があります。強化子の選択、強化に関して詳しくはこちらの記事に書いてあります。

PIIで使いやすい強化子の例

・社会的賞賛→拍手、すごいねなどの声かけ、ハグ等
・社会的遊び→手遊び、くすぐり、等
・お気に入りのもの・おもちゃ→恐竜の人形、Ipad等
・おやつ

PII準備ー実行計画の作成

これまで、セラピストとご家族で今日どうして決めてきた事柄を、わかりやすく簡潔にまとめます。セラピストがいない場合でも見て確認できるような形で作成しておくと非常に便利です。

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PII準備ーデータ収集シート

実際にPIIを実施していく中で、ご家族の方もセラピストもデータ収集を行なっていく必要があります。選択したEBPに合わせたデータ収集シートを作成し、あらかじめ共有しておきます。またデータ収集シートを保護者の方が持っていることで、どんなときにPIIを実践するのかリマインダー役割もになってくれるためその点でも便利です。

データ収集シート作成の注意点

・実際に主にデータ収集をすることになるご家族に合わせて作成する
・シンプル簡単で早く記入できる形にする
・自然に、日常生活の中で実施できる
・簡単に分析できる

PII準備ー必要な物の用意

使用するEBPに合わせて、必要となる物、例えば視覚支援の場合には切り替えに使用するボードやイラストなどをあらかじめ準備しておく必要があります。これもセラピストとご家族で共同して作成すると効率的です。また同時に、普段からあるものを使用する場合、例えば強化子としてスナックを使用する場合などには、PIIを実施する日常生活の活動の時に、その場で本当にスナックを使用できるか確認しておくことです。お風呂の時間に、スナックを使用するというような無理な設計になっていないか、最終チェックをします。

まとめ

以上PII準備編でした。誰がどんな環境下で支援を行うのかという点は他の、EBPと若干異なり、ご家族が日常生活の中でという形になりますが、それ以外の点はEBPと大きく異なりません。プロが行うかっちりとした介入ではありませんが効果は実証されているので安心して使用できます。次回は実践編です。

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