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エビデンスのある療育ーRIR準備編

はじめに

エビデンスのある療育を紹介していく本シリーズ、今回はRIR(Response Interruption Redirection)です。RIRは問題行動を減少させる介入方法の一つで、問題行動の発生を中断させ適切な行動をその場で教えていく方法になります。

RIRとは?

RIRを無理やり日本語に訳すと、反応の中断とリダイレクトと言う形になるかと思いますが、文字通り何かしら問題行動が発生した後に、その行動を中止させ適切な行動ができるように補助する介入方法です。問題行動の減少と適切行動の向上を同時に達成します。

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達成できる目標としては、常同行動、自傷行為、問題行動を減少させるとともに、適切な発声、課題従事行動、遊びのスキルを向上させることができます。

ある行動が、児童の学習機会を損なってしまっているような場合、例えばグループディスカッションの時に、ずっと映画のセリフを繰り返して言うことしかしない、といったケースの際に、より学習機会を生かせるようにするための介入として使用されることが多いです。

科学的に効果があると認められた領域

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RIR準備ーFBAを実施する

まずはじめにFBA(Functional Behavior Assessment)を実施して対象になる問題行動の機能を特定します。詳細は上記リンク先に書いてありますが、まずは問題行動を観察可能な形で定義して、その後、直接的な観察を通じて問題行動の前後に何が起きているか確認し、問題行動の機能を特定します。

問題行動の定義例

✖︎良くない定義:たかしはおもちゃを片付ける時間になると、暴れる

○良い定義:たかしはおもちゃを片付ける時間になると、自身の頭をグーにした手で1回以上殴る

問題行動の定義がすんだら、支援に参加するチームメンバーで直接行動を観察しABC分析を行います。

一通りの行動観察が済み、行動の機能に関して確からしい仮説がえられたら、データテーブルとしてまとめておきます。ここで簡単に整理しておくことで、RIRを使用する際にどのように中断し、またどのような適切行動を向上するのか判断することができます。

データテーブルの例

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問題行動と言う、なんだかかなり強い語句になってしまいますが、注意したいのは、問題である理由が、本人に不利益が生じていたり、身の危険があったりと具体的な不都合が生じていることにあることです。「常識的に考えて、、、」といった理由のみで、ある行動が問題であると言い切ってしまうのは非常に危険です。FBA実施の段階でそれが本当に問題行動なのか?誰にとっての不都合なのか?変化した結果利益になるのは誰か?等をしっかりと確認しましょう。

RIR準備ー方略を決める

RIRが非常に有効なのは、常同行動の類です。誰かからの注意の獲得や回避といった機能ではなく自己刺激によって維持されている行動に対して非常に有効に機能します

RIRにおいては、常同行動のいくつかの種類に合わせて有効になる中断、リダイレクトの方法があります。いずれか一つのみと言う形に拘らず、児童に合わせていくつか選択肢を持っておくことが療育を進めていく上で有効です。

RIR方略テーブル

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RIR準備ー代替行動を選ぶ

問題行動を中断し、リダイレクトした後で行う代替行動をあらかじめ決めておきます。

動作に関する常同行動のケース

たかしは休み時間の際に、おもちゃを手に掴んで自分の目の前におもちゃを近づけて、また逆に目の前から遠ざけるようにして、繰り返し振り子のようにして遊びます。
先生は、RIRを使用しておもちゃの動きを手で止めて、彼の手を膝に置くように言いました。
たかしの手が膝に置かれた後で、先生はパズル遊び(代替行動)へのプロンプトを行い、たかしはパズルで遊び始めました。

音声に関する常同行動のケース

たかしは、グループワークが始まると「いー、いー」と言う発声を繰り返し続けます。先生は、RIRを使用して、たかしの名前を呼び注意を獲得した後で、「マーベルヒーローで誰が好き?」と尋ねました。
たかしが「アイアンマン」と答えた後で、先生はたかしが「よろしく」とグループメンバーに言える(代替行動)ように音声プロンプトを提示し、またワークに参加(代替行動)できるようにプロンプトを提示しました。

自傷行為に関するケース

たかしは、ランチの時間食堂に移動するときに、自分の手を噛み始めます。先生はRIRを使用して、彼の手に触れて噛むのをやめさせ、弁当箱を手渡しました。
たかしが弁当箱を手に持った後で、クラスのみんなが食堂に向かう列に入る(代替行動)ようプロンプトを提示しました。

不適切行動に関するケース

たかしは、英語の時間に椅子に座ると叫び始めます。先生はRIRを使用し、たかしに「やめて」と伝えて叫ぶのをやめさえ、「立ってみましょう」と口頭で指示しました。
たかしが起立した後で、机で課題をする(代替行動)ようにプロンプトを提示しました。

RIR準備ー強化子の特定

RIRでも将来的に代替行動の発生頻度や確率が向上するように、強化を使用します。そのため代替行動ができたときに使用する強化子をあらかじめ選択しておきます。

強化の例

たかしは、本を黙読する時間に、素数を口に出してひたすら列挙します。(問題行動)先生はたかしが電車が大好きであることをヒントにRIRと組み合わせて、たかしが素数を列挙し始めたときに「東京から仙台にいくときに一番早い新幹線の名前は?」と聞くことで素数の列挙をやめさせ(RIRによる中断)、本を黙読できるようにプロンプトを提示しました。(リダイレクト)あらかじめ定められ基準を満たす形で本を黙読するというタスクが完了した際に、たかしは休憩することができ、また電車のフィギアで遊ぶことができました。(強化)

RIR準備ーチームトレーニング

RIRの対象になる行動は、自己刺激を機能とするため場所や時間に限定されにくく、様々なシチュエーションで発生する可能性があります。このとき普段セラピーを担当している支援者だけしかRIRを実践できないとなると、担当者がいない状況ではRIRが実施できず継続的な学習が困難になり効果が出にくくなってしまいます。

そのため、あらかじめデータを収集し、どのような場所で起きうるのかリストアップされているデータテーブルに基づいて、どのシチュエーションの時には誰が介入できるのか特定し、それぞれの介入者が同じようにRIRを実施できるようトレーニングしておくことが必要です。

データテーブルを共有しながら、先生であったり保護者の方であったり、またセラピストであったりが同じやり方で実践できるようにトレーニングします。

まとめ

以上RIR準備編でした。RIRは問題行動の機能が自己刺激である時に最も効果を発揮する方法です。中断する方略では声をかけたりするものがあることを紹介しましたが、これが例えば行動の機能が注目を得ることであった場合には上手に機能しません。そのため、何よりも行動の機能をしっかりと仮説立てること、また実践の中で本当に自己刺激かどうか確かめていくことが必要になります。

それでは次回は実践編です。

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