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エビデンスのある療育ーDR準備編

はじめに

エビデンスのある療育を紹介する本シリーズ、今回はDifferential Reinforcement(分化強化)です。問題行動を減らすための方法として広く知られている方法であり、また正の強化を使用して問題行動を減少させることができるため、よく使われる方法でもあります。準備編では、4つの分化強化に関してそれぞれ紹介します。

分化強化とは

分化強化は、ある行動を強化し、同時にほかの行動の強化を差し控える方法です。大きく分けて、非両立行動分化強化(DRI)、代替行動分化強化(DRA)、他行動分化強化(DRO)、低反応率分化強化(DRL)の4つのタイプがあります。

非両立行動分化強化(DRI)

目的:問題行動が同時に発生しない行動を強化することで、問題行動を減らす。
定義:物理的に問題行動が起きない行動に従事している際に強化子を提供する。
例:廊下を歩いているときに強化する

代替行動分化強化(DRA)

目的:代替行動を強化することで、問題行動を減らす。
定義:問題行動に変わって望ましい代替行動をした場合に強化子を提供する。
例:先生の質問に答える際に手を上げることができた時強化する。

他行動分化強化(DRO)

目的:問題行動の発生インターバルを拡張することで、問題行動が発生しないようにする。
定義:問題行動をしていない時間に強化子を提供する。
例:自分の頭を自分で叩かないでいられる場合5分毎に、強化する。

低反応率分化強化(DRL)

目的:許容範囲まで、問題行動の発生頻度を減少させる。
定義:事前に定めた基準を下回る、または基準ぴったりの頻度で問題行動が発生していたときに強化する。
例:学校の蛇口で遊び、廊下を水浸しにする頻度が5回以下

DRによって達成できること

分化強化は主に、学習や会話など本人にとって有益な活動への参加を妨げている不適切な行動を減少させるために使用されます。

・癇癪、自傷行為の減少
・他害行為の減少
・脱走行為の減少
・不適切な接触、過度なスキンシップの減少
・不適切な言動の減少
・おうむ返しの減少
・違反行動の減少
・課題逃避の減少
・拒食の減少
・常同行動の減少

科学的に効果があると認められた領域

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DR準備ーFBAの実施

分化強化の実施に先立ってまず行うのは、対象になる問題行動の定義や機能の把握をFBAを通じて行うことです。FBAに関してはこちらの記事に詳しいやり方を記載してあるためどんな内容だったか不安な場合にはご確認ください。

また、FBAを通じて行動を定義し、データを収集していく上で、問題行動がどのような形で現れているのか、どの程度の頻度か、どの程度の激しさ、強さなのか、どんなシチュエーションや場面で発生しているのか、どのくらいの時間問題行動が継続するのか、といった側面を事前に正確に理解しておくことが必要です。

DR準備ー4つのうちどれを使用するか

FBAを実施して、行動の定義や機能、またベースラインデータの収集が完了した後で、DRI、DRA、DRO、DRLいずれの方略を使用するのか、決めます。どんなときにどれを使用すればいいのかを簡単に表にまとめるとこのような形になります。

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FBAで分析した結果に基づいて、どれを使用するのか決めます。

DRIを使用する場合

DRIを使用する際には、絶対に同時に成立しない行動を選択し定義する必要があります。ある問題行動がある場合には、その反対の行動が同時に成立しない行動となります。

同時成立不可能な行動の例

問題行動→同時成立不可能な行動

離席→着席
叫ぶ→小声で話す
走る→歩く
不適切な言動→適切な言動

DRAを使用する場合

DRIを使用する場合には、代替行動を選択し定義しておく必要があります。代替行動としての要件と例は下記のような形になります。

代替行動を選択する際の考慮事項

・問題行動と代替行動は共に同じ機能を有する
・代替行動は問題行動と比較して、同じかそれ以下の労力や複雑さである
・代替行動は問題行動の場合と同じスケジュールで強化されうる
・代替行動は、問題行動時と同じタイプ、質、量の強化子によって強化される
・代替行動はすでに獲得済みの行動レパートリーが使えない場合には追加で学習が必要になる

機能に基づいた代替行動の例

問題行動:大声で話す
行動の機能:注意の獲得
代替行動:手を上げる

問題行動:叫び声を上げる
行動の機能:課題の回避
代替行動:休憩カードを指差す

DR準備ー問題行動のデータ収集

問題行動の種類に合わせて、現状把握のためにデータ収集を行います。分化強化の際に主に使用される計測方法としては下記の3つが多く使用されます。データ収集の種類や、計測の仕方に関しては、こちらの記事や、こちらにも記載してあります。

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データ収集に必要な期間としては、最低でも4日ほどで、収集した結果から、データの傾向が把握できる分だけのデータ量が必要です。

DR準備ー強化子の特定

代替行動を強化したり、問題行動を減少したりしていく上で使用する強化子を特定します。

DRO、DRLを使用する場合には、少なくとも現状の問題行動を維持している強化子と同じ強さの強化子である必要があります。これは仮に現状の問題行動を維持している強化子よりも弱い強化子では、問題行動を使用しないことへの動機づけが十分にできないためです。必ず同等かそれ以上に強力な強化子を使用する必要があります。

DRI、DRAを使用する場合には、現状の問題行動を維持している強化子と同じタイプ、質の強化子が必要です。

強化子を選ぶ際には、単一刺激を提示して、その反応を観察する方法、2つのアイテムを順番に提示して、好きな方を選択してもらい比較していく方法、複数のアイテムを並べて順番に選んで行ってもらう方法などがあります。いずれかの方法を使用してある強化子が強いのか弱いのか把握することが可能です。

DR準備ー強化スケジュールの作成

使用する強化子を特定したら、どのようなスケジュールで強化をしていくか計画します。問題行動をしなかったときや、代替行動をしたときに随時強化していく方法と、間欠的に強化していく方法があります。

間欠強化のパターン

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DROの場合

DROの場合には固定の間隔強化が使用されることが多いです。ベースラインデータからIRT(Interresponsee time、行動の間隔)を求めて、どの程度の頻度で強化していけばいいか決めます。

たかしのケース
問題行動:友達を殴る
データ収集時間:8:30−9:30
データ収集期間:11/1-11/5(5日)
総発生回数:25回
総観察時間:5時間

平均して1時間当たり5回、他害行為をしている計算になりまた、同様に、12分に1回は他害行為をしていると計算することができる。そのためこのケースでは現状に限りなく近い、11分間他害行為をしなかったときに、強化をすることから始め徐々に12分、13分などど間隔を広げていく。

DRLの場合

DRLの場合には、頻度の減少に応じて強化していきます。一番最初の強化スケジュールはベースラインデータに基づいて以下の2パターンのうちいずれかが使用されます。

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DRI、DRAの場合

DRI、DRAの場合には最初はまず継続して即時に強化します。DRIの場合には、問題行動が同時に成立しない行動が発生するときに、DRAの場合には代替行動が発生したときに必ず強化します。また強化の際には児童がどのような代替行動をすることができたのか説明しながら強化することが有効です(10分間も着席してました!Ipad使えるよ)

代替行動や、適切な行動ができるようになってきた段階に合わせて、間欠強化を使用したりしながら強化を少なくしていきます。

DR準備ー必要なもの

セッションに使うもの、また強化子などはあらかじめ用意しておきます。チームで支援にあたる場合には、あの先生の教室ではあるけれど、別な場面の時にはないといったことが起きかねないので、しっかりと確認しておくことが必要です。

まとめ

以上、分化強化の準備編でした。強化の内容が解れば理解しやすいものだったのではないかと思います。ベースラインデータの収集や、強化スケジュールの部分は正確に数字で見ていく必要があるところなので、しっかりとやり方、見方を確認しておくことが重要です。それでは次回は実践編です。

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