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夜も束の間

終電を逃した僕は、朝5時迄やっている喫茶店に入った。
その喫茶店はとても静かで、とても東京の歓楽街の一角にあるとは思えなかった。

まずは、そこに入る前の問題点からご説明したい。
始発電車が4時46分。それまで時間を潰さなければならかなかったのだが、現在の時刻は1時55分。携帯の充電は10%、社用携帯は4%。

ちくしょう、これじゃあ何にもできないじゃないか。

そこでまず、コンビニで本を買うことにした。
手始めにマップでファミリーマートを探して歩いてみたが、一向に見つからない(このために1kmは歩いたんじゃないか)。
だから、次はローソンへ。ローソンには内容的に終わっている週刊誌しか置いていない(これじゃあ、暇が潰せないじゃないか)。
絶望気味に外へ出ると、道路を挟んですぐ向かい側にナチュラルローソンがあるではないか。
とはいえ、同じローソンじゃあ、きっと本なんて置いていないだろう、と思いながら店へ入るとなんとPOPEYEが置いてある。POPEYEならきっとこの空白の時間を埋めてくれる、そう思い、それを手に取って私は喫茶店へと向かったのだった。

道の真ん中で好意的に触れ合う男女や、酒を傍らに地べたに座って夜を超そうと試みる人、毛布で暖を取る人。夜の東京は概して混沌と闇と切なさが入り混じっている。

喫茶店に入ると、終電を逃した人たちで溢れかえっているのかと思いきや、意外に空いていた。
メイドの恰好をしたウエイトレスのお姉さんが注文を取りに来てくれるから、アイスコーヒーを頼んだ。
喫茶店では、POPEYEを1字ずつ丁寧に読み込んだ。

アイスコーヒーが実に美味い。深夜だし、砂糖とミルクでぐちゃぐちゃにしようと思っていたけど、味を損ねたくなくてできない。

しかし、コーヒーをお替りしてから、その最後がなくなりかけたとき、シロップとミルクを全投入した。
時刻は午前3時。コーヒーを長持ちさせるには甘ったるくて不味い方がいい。
喫茶店内には、30代半ばの男女が加わり、楽しそうに話している。

「決まった?いくよ?せーの、〇〇〇」

何やら連想ゲームのようなことをしているらしい。
とても楽しそうに話している。青春なんて歳のことじゃないんだ。
不味くしようとしたコーヒーを少し啜る。
ちくしょう、全然味が乱れずに美味いコーヒーになっちまってる。


さすがにもうコーヒーも、氷が解けて薄くなり、ただの液体になってしまった。今月号のPOPEYEは「本をめぐる冒険」がテーマ。その中でも、アメリカ文学の系譜を紐解くセクションに没入してしまった。
大学のときには、嫌々読んでいたようなアメリカ文学(僕はアメリカ文学ゼミで、マーク・トウェインの『ハックルベリ―・フィンの冒険』やトニ・モリスンの『ビラヴド』などを読んでいた)がこんなに恋しくなるなんてなぁ。
仕事、いや労働をするようになってすごく感じる。しっかりとものを考えられる時間とか、本を読んで新しい世界を知ったり、新しい考えに触れて内省する時間というのはとても貴重なんだな、と。
ましてや、本を読んで分析して、研究する仕事はなんて素晴らしいんだろう!
大学教授は人生の喜び(思索に耽る十分な時間を仕事として享受できる)を堪能できる。
勿論、大変なこともあるだろう。ただ、どんな仕事にも大変なことは付き物だ。
教授の仕事は「生活のために仕方なくやる」労働とは明確に区別される性質の仕事であり、活動だと思う。

だから、夢の一つに大学教授を加えたいと思う。
働いてお金を貯めて、大学院へ行く。そして、学歴主義・受験的勉強とは全く異なる人生のための学びを学生に提供できたなら、どんなにか素敵だろうか。


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