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衝撃のツーランスクイズ。その直前と、直後と、もう少しあとのこと。

衝撃的だった。準々決勝。金足農業 vs 近江。

本当に、良い試合だった。感動した。観てて良かった。

両チーム、とにかくピッチャーが良い。金足農業の吉田投手は、評判の好投手。糸を引くストレート。三振の取れるストレート。球速も速いが、何よりスピンが凄く効いている。戦前からそう聞いているから、自然と金足農業目線で見てしまう。近江が2対1でリードすると、「負けてるやん」と。

しかし途中から近江が継投に出て、林投手という、左の、線の細い2年生ピッチャーが出てきた。華奢といってもいい。背番号、18。
1点リードしていても、吉田投手との投げ合いはキツいだろうな、と見ていた。

しかし、この林投手がいい。
右バッターの膝元のボールゾーンに切れ込むスライダーにも、外一杯から、さらに外に逃げるチェンジアップにも、クルクルと金足打線のバットが回る。振りたくないが、止められない。そんな感じか。変化球主体だが、それがかえって、130km台の真っ直ぐを速く感じさせる。

投球フォームに面影があるので、途中から、オウミのノウミだ、なんて言っていた。

いつしか、近江目線で見ていた。

林投手、しかし最終回にコントロールを乱した。ノーアウト満塁。1点リード。ヒット1本で逆転、サヨナラ負けの場面だ。しかし選手たちはそうは思っていない。一つひとつ、アウトを取ろう。それだけだ。

ここであの、衝撃のツーランスクイズ。

良い場所に転がされた。

バントを捕球したサードも、林投手も、キャッチャーも、2対2からの仕切り直しだ、と気持ちを切り替えつつ、丁寧にプレーしたように見えた。まずはアウト1つだ、と。

このツーランスクイズを、「あっけない終わり方だ」なんて評する人がいたとしたら、大きな間違いだ。

全く、あっけなくなんてない。どころか、もの凄い余韻が、残るというか、押し寄せて来る試合だった。
金足農業の戦術は素晴らしかった。2塁ランナーの激走も、プレッシャーをはねのけてスクイズを決めた選手も素晴らしかった。

でも、負ける悔しさを知っている人ならわかると思う。負けたくない気持ちを、どうやって今の自分達のプレーに反映させるか。どうやったら負けないか。そのことに集中していた近江の選手たちに、ツーランスクイズというワンプレーで終わってしまう、という心の準備はできていなかったろう。あまりにモラトリアムのない終わり方、といえばそうかもしれない。
やられてから、相当の時間差を置いて、負けた、やられたという感覚が押し寄せる。あの感じ。

同じ野球をやっていた者として。

負けた悔しさを知っている者として。

近江高校の名前は心に深く刻まれた。
本当に、凄い試合だった。

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