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勉強の時間  自分を知る試み22

ロシアで起きていること

今ウクライナを侵略しているロシアの行動を見ると、プーチンという頭のおかしい独裁者が身勝手な妄想に駆られていると考えがちです。

しかし、そこにソ連崩壊以後の権力の空白と混乱、壊滅状態に陥った経済と人々の暮らし、その解決策として権力を与えられたプーチン、強権的なやり方で経済を立て直したことなど、様々な経緯があることを見落としてはいけないでしょう。

自分を科学的・理性的・合理的だから正しいと思い込み、それと相反する考え方や行動をする人たちを悪人や狂人と決めつけるとき、その科学的・理性的・合理的な考え方をする人たちは、自分たちの都合のいい枠組みで視界を閉ざしているのです。

そして、欧米先進国から悪人、狂人と見られているプーチンと、それに従うロシア人たちも、視界を閉ざして自分たちの価値観に引きこもり、自分たちを正しい、あるいは欧米諸国の脅威にさらされている被害者と見ています。

彼らは今のロシアを、ロシア帝国時代やソ連時代の広大で強かったロシアに比べて、不当に領土を削られ弱体化してしまった状態にあると見ています。

欧米先進国から見ると、プーチンは周辺諸国に侵略戦争を仕掛ける凶悪な独裁者ですが、彼を支持するロシア人にとっては、失った国土を回復し、再び強いロシアを取り戻そうとしている英雄なのです。

欧米や日本には、「プーチンが言論や政治活動の自由を奪って、反政府的な報道を禁止しているから、多くのロシア人は真実を知らされていない。真実を知ればプーチンが凶悪な独裁者で侵略者だと気づくだろう」といった期待を抱いている人たちがいます。

たしかにプーチンの弾圧や情報操作は半プーチン派の抑え込みに役立っているかも知れません。

しかし、同時に多くのロシア人が欧米先進国とは違う価値観を持っていて、強かった時代のロシアを取り戻そうとするプーチンを支持していることも事実です。

この事実に目を塞いでいると、自分たちは科学的・理性的・合理的だと思い込んでいながら、自分たちに都合のいい枠組みで視界を狭めてしまうことになります。


独裁者と英雄


そもそも元KGBのスパイだったプーチンは、なぜ、どのようにしてそうした独裁者になることができたんでしょうか?

ソ連崩壊後、欧米の専門家たちが新生ロシアに自由主義・資本主義経済を導入しようとしましたが、ソ連時代に染み付いたロシア人の考え方や慣習を理解しようとせず、あまりにも強引に先進国の仕組みを押し付けたため、通貨は暴落し、財政は破綻し、物価が1年で何百倍も上がるハイパーインフレが起きました。

第一次世界大戦に負けたドイツを襲ったのと似たような混乱です。

プーチンはヒトラーのように強権を振るってあっという間に経済を立て直しました。それは先進的な経済システムによってではなく、アラブ諸国のように石油やガスなどの資源を西側に売る体制づくりによって達成されたものです。

それでもナチス時代のドイツ人のように、多くのロシア人がプーチンの指導力を評価し、熱狂的に支持するようになりました。

ソ連崩壊後、ロシア人の多くはロシアが西側諸国に敗北し、ソ連時代に支配していた多くの国を失い、貧しい二流国に転落したという心の傷や劣等感を抱えていましたが、プーチンは彼らのそうしたネガティブな感情を癒してくれる存在になったということかもしれません。


ナチスとロシアの心理


ナチスドイツを支持あるいは容認したドイツ人にも、第一次世界大戦で欧米先進国に敗北した心の傷があったといいます。それを克服しようとするとき、人は「自分たちは悪くない。悪いのは裏切り者だ。おれたち被害者なんだ」といった思い込みに誘導されます。

ナチスドイツの場合その悪者がユダヤ人だったわけですが、ロシアの場合、ソ連崩壊後ロシアを裏切って独立した旧ソ連邦の国々や旧ワルシャワ条約機構加盟国ということになるのかもしれません。

ロシアの隣国であり、多くのロシア人が東部に暮らしているウクライナはプーチンにしてみれば、強いロシアを取り戻すために再び領土化すべき地域ということになるのでしょう。

そうした考え方を狂気と見なすのは簡単ですが、プーチンの狂気に気づいたロシア国民が離反して、プーチンは失脚する可能性があると考えるのは楽観的すぎるかもしれません。

ロシア人の多くがプーチンを支持しているのは、ただ情報統制で真実を知らされていないからというだけではないでしょう。彼らは西側先進国の自由主義・資本主義がかつてロシアをどんなふうに荒廃させたか知っていて、反感を覚えているのです。


異なる思い込みの衝突


欧米先進国やロシアや中国を客観的に眺めてみると、たしかにロシア・中国の全体主義・教権主義には問題がありますが、それに反対し批判する欧米先進国も別に正義の味方ではありません。先進国がリードする自由主義は、強い方が得をするゲームです。後進国が経済的に強い先進国に対抗するには、資源や強権など、先進国があまり露骨に使えない手段を活用するしかありません。

「戦争をやめろ」というのは簡単ですが、そもそも自由主義・資本主義経済も武器を使わないだけで、戦いであることに変わりはありません。

戦いは自分を閉ざして、一方的に自分を正しいと思い、相手を間違っていると思う者・勢力によって行われます。戦いは対立から生まれますが、客観的に外から眺めると、戦いはある意味戦う両者の共演・共同作業でもあります。


先進国vsそれ以外


今回のロシアの侵略では、ロシアが間違っていて、NATO側、欧米側が正しいという考え方が日本でも共有されています。

欧米は「国際社会」の側に立っていて、ロシアは自分の身勝手な考え方に閉じこもっているとか、国際社会の非難や経済制裁によって孤立していると主張していますが、実は欧米も自分たちを閉ざし、孤立しています。

人口14億人の中国と、同じくらいの人口を抱えるインドは、欧米の囲い込みを拒否していますし、欧米が押し付けてきたゲームによって損失を被った他の国々にも、欧米に同調しないところが数十あります。

国連人権理事会のロシアの資格停止決議案でも、賛成93に対して、反対が24ありましたし、棄権が58ありました。棄権した国々は軍事的・経済的にロシアに依存していて、ロシアを恐れているだけだと、欧米・先進国の人たちは考えるでしょう。

その通りかもしれません。

しかし、ロシアに依存したり、支配されたりしている国々が多いとしたら、それは欧米先進国の「自由」な経済活動が、それらの国々の利益を損ない、苦しめてきたからではないかと考えることもできます。それに気づいていない、あるいは意図的に目をふさいでいるとしたら、それは欧米諸国がそれだけ自分たちを閉ざして、不都合なものを見ないようにしているということです。

ロシアにウクライナを侵略する権利はないし、ロシア軍がウクライナで行っている残虐行為は、ロシアが主張するようなウクライナによるフェイクニュースではなく、事実だと思いますが、そこだけを見てロシアを狂っていると考えたり、自分たちを正義だと考えたりするのは、やはり間違っています。

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