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梨状筋症候群の鍼灸×リハビリ

この記事は梨状筋症候群に対して、鍼灸(神経パルス)とリハビリを掛け合わせた施術法を説明した記事です。

1.はじめに


梨状筋症候群とは末梢神経障害を引き起こす疾患です。
梨状筋症候群では、主に坐骨神経が絞扼されます。

(1)坐骨神経の特徴


坐骨神経はL4~S3脊髄神経から形成され、骨盤内を下り、通常は大坐骨孔と梨状筋下孔を通り、その後は大転子と坐骨結節の間を通り下肢に至ります。

ただし、一般的な解剖図の通りに梨状筋下孔を通るのは80%程で、残りは

・総腓骨神経が梨状筋を貫き、脛骨神経が梨状筋下孔を通る
・総腓骨神経が梨状筋上孔、脛骨神経が梨状筋下孔を通る
・枝分かれせず、梨状筋を貫く
・総腓骨神経が梨状筋上孔、脛骨神経が梨状筋を貫く
・梨状筋が2つに分かれ、その間を通る

といったパターンがあると報告されています。
このうち、梨状筋を貫くパターンは梨状筋の伸長だけでなく、
持続的な収縮でも坐骨神経を圧迫するリスクがあります。

(2)梨状筋の特徴

形は三角形になっており、起始は仙骨前面S2~4の仙骨孔間、
停止は大転子内側です。
立位時、梨状筋は股関節の内旋、内転によって伸長します。
したがって、骨盤前傾位の場合は、股関節が内旋するので
梨状筋が坐骨神経を圧迫するリスクがある
という事になります。
また、梨状筋は股関節屈曲60°から作用が逆転し、徐々に内旋作用に股関節90°屈曲で完全に内旋作用に逆転します。
すなわち、股関節90°の肢位では外旋により伸長されます。

また、梨状筋はL5、S1、S2神経によって支配されます。
仙腸関節に障害が起き、痛みや炎症が起きている場合は
L5、S1、S2神経を通じて梨状筋に反射性攣縮が起きる場合があります。
同様に、L5/S1椎間関節障害が起きている場合も
L5神経を通じて梨状筋に反射性攣縮が起きる場合があります。


引用元:Anatomy of the Human
Bodyhttps://www.bartleby.com/lit-hub/anatomy-of-the-human-body/6e-the-sacral-and-coccygeal-nerves

(3)梨状筋症候群の特徴


梨状筋症候群は、坐骨神経が梨状筋下孔を通る際に
梨状筋とその他の股関節外旋筋群に圧迫されて起こります。
腰痛と坐骨神経痛をもつ患者の0.3~6%が梨状筋症候群の可能性があるという報告もあります。(1)
その為、臨床で遭遇することも珍しくない疾患です。

病因は
・殿部の外傷
・過剰なトレーニングによる梨状筋肥大
・タクシー運転手や、デスクワーカーなどの長時間座位
・ズボンの後ろポケットに財布を入れたまま長時間座位
・解剖学的異常
・持続的な梨状筋の伸張、及び収縮

などがあります。

2.問診


末梢神経障害を呈する他の疾患との鑑別が必要です。
問診にて

・殿部痛の有無
・股関節の運動によって症状の再現の有無
・長時間座位での症状再現の有無

などを聴取しましょう。

3.身体診察

(1)徒手検査


徒手検査に関しては感覚検査、筋力検査、神経根症の理学検査に加え下記の検査を行うことで、梨状筋症候群の可能性を絞り込んでいきます。
梨状筋症候群の検査は聞き馴染みのないものも多いと思いますので、
簡単な説明も記載しておきます。
画像が見たい方はお手数ですが、検索してみてください。

・Freiberg(フライバーグ) t.
仰臥位で股関節90度屈曲+内転動作を行い、梨状筋を伸長させる。
坐骨神経走行上に症状が再現されれば陽性。

・Pace(ペース)t.
座位で股関節内旋位から患者に股関節を外旋させるように指示、
術者は膝外側に手を置き抵抗を加える。
坐骨神経走行上に症状が再現、もしくは筋力低下が認められれば陽性。

・FAIR t.
側臥位で股関節90度屈曲+最大内転位から股関節内旋を加えていき、梨状筋を収縮させる。
坐骨神経走行上に症状が再現されれば陽性。

以上が梨状筋症候群の鑑別を行う検査です。梨状筋症候群が疑わしい場合は、すべて行う事を勧めます。

また、前述したとおり、梨状筋症候群とL5/S1椎間関節障害、
仙腸関節障害は関係が深いので、それらの鑑別も行います。

・Kemp(ケンプ) t.
患者は立位、体幹の伸展+側屈+回旋を行い、腰部に痛みが出れば
腰椎椎間関節障害の疑いがあります。

・Newton(ニュートン) t.(変法)
患者は腹臥位、術者は検査側の仙腸関節に両手を重ねて置き、圧迫します。
仙腸関節に痛みが出現すれば陽性。

・Gaenslen(ゲンスレン) t.
患者は背臥位、検査側の膝を屈曲、反対側の下肢をベッドから垂らします。
術者は垂らした下肢を下方向に押していきます。
仙腸関節に痛みが出現すれば陽性。

・Patrick(パトリック) t.
患者は背臥位、術者が検査側の下肢を4の字に組ませ、
検査側の膝内側を把持し下方へ押します。
この時に仙腸関節に痛みが出現すれば陽性。
変形性股関節症と鑑別するために、患側骨盤を固定した場合、
固定しなかった場合の2パターンを行います。
固定しなかった場合に痛みが出現すれば、仙腸関節障害の疑いがあると
考えます。

4.触診


 ・梨状筋の触察を行い、筋緊張と圧痛の確認。
 ・ヴァレーの圧痛点の確認。



図 ヴァレーの圧痛点


 

5.参考文献


(1)Brandon L. Hicks; Jason C. Lam; Matthew Varacallo. Piriformis Syndrome. StatPearls. September 4, 2022.
(2)Chang A, Ly N, Varacallo M. StatPearls. StatPearls Publishing; Treasure Island (FL): Sep 4, 2022.
(3) Carro LP, Hernando MF, Cerezal L, Navarro IS, Fernandez AA, Castillo AO. Deep gluteal space problems: piriformis syndrome, ischiofemoral impingement and sciatic nerve release. Muscles Ligaments Tendons J. 2016 Dec 21;6(3):384-396. doi: 10.11138/mltj/2016.6.3.384.

6.鍼灸施術


鍼灸施術の目的は

①梨状筋の筋緊張緩和 
②坐骨神経の循環促進、疼痛閾値の上昇

です。

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