100本のタバコ

タバコが100本あったから、1日2本吸っていた。
残りが50本になったから、1日1本吸っていた。
残りが20本になってから、2日に1本のペースになった。
残り10本になってから、3日に1本のペースになって、その煙をこれまで以上に味わうようになった。
とうとう残り3本になった時、無意識のうちにこれまでの人生を振り返っていた。
生まれてすぐに祖父母の家に預けられたこと。
両親の顔が分からないから保育園で家族の絵が描けなかったこと。
周りのみんなはヒーローごっこをしているのに、自分は鬼平犯科帳ごっこだったこと。
運動会の親子参加競技はじっちゃもばっちゃも無理だから、先生と走ったこと。
イジメがあったこと。
恐喝されてマッサージチェアを買ってあげようと貯めていた金を取られそうになって、我慢できずに相手をぶん殴ってしまったこと。
祖父と祖母が泣いたこと。
両親は交通事故で亡くなっていたこと。
それまで頭の片隅にあった「この世界のどこかで自分の事を待っているのではないか?」という考えが消え去ったこと。
自分の中に空っぽの空間ができたこと。
じっちゃが亡くなって、追うようにばっちゃも倒れてしまったこと。
肉体労働は自分には向いていなかったこと。
愛してくれたこと。
苦しかったこと。
何処へ行けばいいのか分からないこと。
最後のタバコの火が消えた今日のこと。

#詩
#小説
#ショートショート

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