四月の嘘

政府は人為的に海底火山を噴火させ島を作り、国土面積を広げようと考えた。
場所の選定に時間はかからなかった。コンクリートの塊で島ではないと批判されることがあった沖ノ鳥島と、韓国が実効支配する竹島の二点に絞られた。その付近で噴火させ、溶岩が島を飲み込むようにするのが狙いだった。これなら莫大な費用をかけてコンクリートで補強する必要もなく、韓国軍と戦う必要もない。
計画は秘密裏に行う必要があったし、前もって説明してしまうと仮に避難が必要になった時に自然災害ではなくなってしまい、桁違いの補償額を用意しなければならない。だから、国民に対しての説明は一切なかった。
しかし、秘密裏にといっても議会の承認は不可欠だった。そこで政府はこの案件の閣議決定と衆参両院の議会の審議を4月1日に行うことにした。1つの法律をわずか1日で可決することなんてあり得ないが、出席している議員も記者クラブも国民もエイプリルフールのネタだと信じ込んでしまった。
そんな中、常に政府に批判的な論調で有名な新聞が地震学者に尋ねた。当初、この新聞社の記者たちも懐疑的ではあったものの、万が一を考えてインタビューしたのだった。
その結果驚くことが判明した。
「人為的に海底火山を噴火させるですって? 信じられません!そんなことしてはいけないっ!」
「どういうことですか?」
「先日、最新の衛星画像とGPSの観測地点と宇宙線を用いた測量で、沖ノ鳥島と竹島のマグマだまりはわずかではありますが繋がっていることが分かったのです」
「それがどう関係してるのですか?」
「中間に何がありますか?」
「富士山…?」
「そうです。海底火山を噴火させるほどの圧力が加わった場合、逃げ場を失った圧力は確実に富士山に向かいます!」
記者たちの首の後ろがあわだった。
時を同じくして、米軍基地建設が進む沖縄で、土砂を積んだトラックの群れに見慣れない車両が混じっていた。政府はこの時のために、核の密約を結んだ際に建設したシェルターに1発の水爆を残しておいた。何十年かぶりに目覚めて、時計の針を進めていた。

記者たちは直ちに記事をリリースしたが、壮大な嘘として全く信じてもらえなかった。そこで事実である事の証拠として、社長の名前を記載して記事を再送した。しかしそれは日頃からこの新聞社を良く思っていない、政権支持者たちの怒りを買った。
「言っていい嘘と悪い嘘がある!」と、ネット上ではこの新聞社に対するバッシングが秒単位で膨れ上がった。また、インタビューに応じた地震学者に対する殺害予告まで送られるようになってしまい、官房長官は笑みを噛み殺しながらも騒動の自制を促した。
情報を消費して遊び疲れた人々が眠ったあと、陸を離れた水爆は真実となった。
#小説
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