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読書感想文【窓ぎわのトットちゃん】


1981年 黒柳徹子

著者はちひろ美術館館の館長も勤めているらしい



その題名は勿論、いわさきちひろの表紙も知っていたし、机バンバン!か〜ら〜の〜小学校退学!のエピソードも覚えがあった。
恐らく小学校あたりの授業で多少は取り扱っていたのだろうが、そういえば一冊きちんと読んだことがないなと思って手に取ってみた。
12月公開予定の映画『窓ぎわのトットちゃん』予告がそもそものきっかけであることは言うまでもない。

『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎)を読んだときにも思ったが、自分自身があまり義務教育に良い印象がないためか、最初はどうも身構えてしまう。
どうせ「枠にはまらない教育を」とか「個性を伸ばそう!」とか、そういう話なんでしょ、と。
ぶっちゃけて、率直に、言ってしまえばその感想も間違いではないだろう。

間違いではないが、しかし最後まで読んで、そういった説教がましい本ではないと分かった。
そもそも作者の黒柳徹子は教育者というわけではないし、今の教育は駄目だからみんなトモエ学園のようにしましょう、などと言っているわけでもない。ただ自分の幼少期を振り返って、嬉しかったことも悲しかったことも、結構な失敗もあっけらかんと、しかし優しく語っているだけである。
そんなトットちゃんの視線が大人になっても失われていないのはとても稀有なことだなぁと感心する。

更には当時においては革新的であり(今も?)同時に懐疑的にも思われていたであろう、トモエ学園の設立者、小林宗作氏の心情がにじむ描写も巧みで暖かく、作者の同氏に対する信頼と敬愛の念がとても良く伝わった。
もともとそうした心根の人なのだろうとも思うが、それこそトモエ学園において育まれたものだとしたら非常に羨ましいな、と学校嫌い先生嫌いの捻くれ者は思う。

「君は、ほんとうはいい子なんだよ」

これから良いようにも悪いようにもなる、まっさらで自由で未熟な子どもの心に与えられた大人からの信頼の言葉がどれほどの影響を及ぼしたのか、想像に難くない。

その子のありのままを受け止める、個性を認めて伸ばす…。
美しい理想の言葉だが、それを実践することの困難さもまた理解出来る。
少子化時代の教師受難、現場の苦労はますます増えるだろうが、一人でも多くの子どもがトットちゃんのように「学校が大好き!」と言えるよう、どうか先生たちには頑張ってほしい。
同時に子どもたちを見守るのは、なにも教師に限った話ではない、とも思う。トットちゃんのパパやママ、周囲で見守った大人たちのように。

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