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映画感想文【リバー・ランズ・スルー・イット】

1992年 製作
監督:ロバート・レッドフォード
出演:クレイグ・シェイファー、ブラッド・ピット

<あらすじ>
第一次世界大戦の頃。モンタナ州の田舎町に住む兄弟、ノーマンとポールは、牧師を勤める父から勉強とフライ・フィッシングを学ぶ。
やがて真面目な兄はダートマスへ進学、弟は地元の大学を卒業後、新聞記者に。帰郷した兄は弟の奔放さに戸惑うが、身に染み付いたフライ・フィッシングが再び兄弟の心をつなぐ。


午前十時の映画祭にて鑑賞。
カナダとの国境に位置するモンタナ州の美しい自然がたっぷりと堪能できる2時間だった。そして美しいブラット・ピットも。

真面目な牧師の父に育てられた真面目な文学青年・兄のノーマンと、弟のポールはそれほど対照的ではない。
同じような教育を受け、フライ・フィッシングを愛する気持ちも同じ。小さい頃の兄の夢はボクサーで、おそらく大学でもボクシングを齧っていたのだろう、闘争心に希薄というわけでもなさそうだ。未来の大学教授と新聞記者では多少の違いはあろうが、伝えようという意思を持って文章を書くという点ではさほど隔絶した職業でもない。

ごく普通、ありふれた兄弟である。
喧嘩をしても思い合う気持ちに嘘はない。
シカゴ大学の教授の職をつかもうとする優秀な兄との会話に滲む、祝福と嫉妬と寂しさ。入り混じった感情もごく普通で当然のものだ。
そのままそれぞれ歳を重ね、離れた土地で家庭を築き、けれど時には一緒に酒を飲みタバコを吹かしなんということのない会話をして、そして川へ釣りに出かける。きっと仲の良い爺さん兄弟になったはずだ。

ただ不幸なボタンの掛け違いに過ぎなかったのだろう。
弟ポールは危険な賭けポーカーに嵌り、そのいざこざで暴行を受け死んでしまう。子どものまま、大人になりきれないポールを見守っていた兄たち家族の視線が哀しくも、深い愛情を伝えてくる。

若きブラット・ピットのアンバランスさ故の美しさと、兄のおおらかな微笑み、その兄弟を育んだモンタナの自然。
ラスト、父と兄弟の釣りのシーンは見ものである。
かかった大物を逃がすまいとして、激しい川の流れに揉まれるポール。見事釣り上げた晴れ晴れしい笑顔。
優美なフライ・フィッシングの切り取りも合わせ、さすがのアカデミー賞撮影賞といえよう。
大自然に溶け込んだポールの美しさに、それゆえ神に愛されて早く召されたのだという不条理な物語のような説得力をもたらしている。

映画館で観ることが出来て良かった。
きっと小さなモニタでは味わえなかっただろう。


余談だがHPに記載された撮影のこぼれ話が良い。
もしもう一人の候補者、リバー・フェニックスが弟ポールを演じていたら。
1993年に薬物の過剰摂取で命を落としたリバー・フェニックス。もっと際どく鋭いポールがいたかもしれない。


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