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想像力の先を養う

以前友人から面白いよ、と教えられたドラマが配信されているのを見つけたので、とりあえず一話だけ観てみた。

ジャンルは医療サスペンス、でいいだろうか。変死体の死因を突き止める法医解剖を主軸に、架空の研究組織で登場人物たちが不自然死に対する死因究明に奔走する。
放送は2018年1月から。

一話だけ観てみてびっくりした。
ある男性が不審死を遂げ、遺族がその原因を突き止めてほしいと自腹を切って主人公たちに解剖を依頼する。主人公たちが少ない情報をかき集め、知恵を絞ってなんとか特定した死因。それが死亡した男性が出張先の中東から持ち込んだMERSコロナウイルスだと判明して、世間はパニックに陥る。
当初ニュースではA、と報道されていた男性はあっという間に特定され、拡散され、遺族たちは容赦ない非難にさらされる……。
まるっきり新型コロナウイルスが流行したときの様子ではないか。

新型コロナウイルスは2019年の終わりに初めて中国の武漢で感染が報告されて、日本では翌年の1月に最初の感染者が確認されている。
もう4年も前のことだと考えると時の流れは早い。だがまだ忘れるにも早すぎる。当時の混乱ぶりは、ドラマで描かれていた様子と大差ない。特に感染者に対する攻撃性はかなり類似していると思う。
感染力と死亡率の高さに日本中が恐れおののき封じ込めに躍起になったが、人の流れを止めながら経済活動を行う備えが足りなかった。
感染速度の緩やかだった地方では他府県ナンバーの車両を見つけては非難し、誰が感染源だったのかと驚異的な速さで特定と晒しあげが繰り返される。マスク警察・帰省警察なんて言葉まで横行した。

ドラマはもちろんフィクションで、特に法医解剖の抱える問題を描くという点に注力しているためか、ウイルス拡散の原因や社会の混乱についてはあっさりとしたものである。しかしながらこうした状況における国民の心理、パニック状況については非常に正鵠を射たものだった。
制作者には予知能力が!? なんてほどではない。
誰にでも、とまでは言わずとも、すこし想像力があればこれくらいは予想できる、ということではなかろうか。

国中がパニックに陥り、誰もが荒んで攻撃的になる。現代のネット社会、情報化社会においてその攻撃性はどのように発露するのか。
そうした想像は出来ただろうに、それから先を想像した人が、あの時はいなかった。

もちろん未知のウイルスに対する有効な対応手段がなかなか見つからず、長期戦になってしまったことも要因の一つだろう。現時点でもただ慣れた、麻痺しただけという気もするが、これはまた別の話。
ただ「単なるフィクション」とほとんど同じ轍を踏んでしまった、という自分たちの愚かさに恥じ入るばかりである。

計算力、情報量という点において、人間はAIに遅れを取る。様々な面で台頭してくるAIに生身の人間はどこに勝機を見出すか? そう聞かれて想像力や発想力を挙げるひとは少なくないだろう。
ドラマ一つとってもこの有り様では、幸先は良くない。すべては一個人の感想に過ぎないのだが、なかなかに危機感を覚えた本日である。



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