プロジェクト進行とアグリーメントの整理

ツイッターなどではクリエイターが"仲介やクライアントからこんなことを言われた/された"というたれ込みが時たま見られます。

一時期これに対して"うちも大変なんだぞ"と、クライアントや仲介業者「の末端」がカウンター漫画を投稿した事が話題になりました。

どちらも大変ということが周知されたのは良かったのですが、"誰が偉いのか、誰が悪いのか"、という議題は下記の3項目が混ざり合い、整理される事無く終わってしまいました。

・契約問題
・SLA(サービスレベルアグリーメント)
・PJM(プロジェクトマネジメント)

今回は、この問題の整理と、どうなるのがお互い幸せなのかについて、主にPJMやSLAの立場から考えてみます。

PJMは契約とは無縁の考え方ですし、SLAはやたらとコストが掛かります。そこを紳士協定で今まで省略していた部分に、不満が蓄積していたといったところです。

契約問題

契約は基本的に2者間での取り決めであり、責任もその2者間で完結します。

そのため、

そのクリエイター、仲介、クライアントを選んだ自己責任

という話題を持ち出すのは、基本的にナンセンスです(強いて言えば、選択は経営の話に該当し、契約は締結する/しないでしかありません)

例えば今回の例で言えば

クリエイターが仲介に期日通りに提出
仲介がクライアントに期日通りに提出

これはそれぞれ2者間ごとの契約となるため、遅れるかどうかは基本それぞれの2者間でのみ考えます。

すなわち、

仲介が指示する期日に間に合わなければ仲介はクリエイターに契約違反請求
クライアントは期日に間に合わないならクライアントは仲介に契約違反請求

が成り立ちます。(請求したり交渉したりするコストも馬鹿にならないので、現実にはある程度延期や吸収がされる場合もあるでしょう)

一方で、クライアントからクリエイターに対して責任を追及する事は、上気契約上できません。

さらに言えば、法的に「悪い」と言えるのはここまでが限界です。これ以上の事を「誰が悪い」というのは感情で話しているにすぎません。

しかしその感情は本物であり、そこにはSLAを満たせてないこととPJMの理論が入っていない、あるいは逆に契約の効力と同等と見誤っている問題はあります。

SLAという概念

SLA:サービスレベルアグリーメントは、契約書に問題発生時の対処や責任範囲・責任定義も明記し、合意を取るとするものです。
(特にシステムサービスにおいて、運用における問題対処も含んでいる事が特徴です)

主にITIL=「IT業の業務円滑化に対する成功事例およびそのノウハウ集」において、他社との関係上中核となる要素です。

SLAを完全に定義することが出来たなら、遅延が起きたときにどう責任を取るのか、SNSで成果物を垂れ流したときの罰則(NDA)はどうなるのか、なども全て定義されていることになります。

その定義に当てはまるなら責任を取る事になりますし、範囲外ならとやかく言われる筋合いは無くなります。
SLAには「一般/業界の常識」や「暗黙の了解」なんてものは存在しません。 理論上全て「決められているかどうか」に収束します。

実際には通例や紳士協定でやった方が楽であるため、SLAは無視されがちです。

しかし、こうして問題が表面化するようであれば、今後は変わっていくでしょう。

PJMという理論における問題

PJ(プロジェクト)管理という概念では、遅れる事そのものを致命的な問題とは見なしません。それは上で述べたとおり、経営、経理、法務、契約、責任問題が行うべき範疇となるでしょう。

そのため、何故遅れているかの究明と、どうすれば解決するか、実際に解決のために調整する事が最優先となります。

基本的に各々の出来る範囲は100%やるべきという考えです。

クリエイター側でなんとかすべき範囲ならそちらでやるべきでしょう。

しかし、クライアントや仲介が決定しないと進まない部分は、それ以外の人にはどうしようもありません。 (依頼主はそれを決定できる権利と、決定しなければいけない義務がPJM上発生します)

仲介側の都合で遅れる場合は、仲介側の責任範囲で調整する必要があります。それ以外にPJMにおいて仲介に責任はありませんが、そこはサービス内容次第でしょう。

いずれもPJM理論における話であり、実際に誰がどう行動すべきかは契約内容にもかかってきます。
SLAは、それを全て定義すべきとしています。つまり、どちら側であっても、SLAで合意した相手に要求していないことは後から文句を言ってもごねてるとしか見られないということです。(もちろん、100%完全なSLAは無理なので、理想論です)

成り立ち論からのまとめ

上記の通り、"責任"といっても3種類の責任があり、意味合いが全く異なってきます。

[1]契約書における責任(法的責任)
[2]SLAで定義すべき責任(発生を想定した問題は全て書かれている前提)
[3]PJMにおける責任(PJを完遂させる上での責任。[1][2]の責任とは無関係)

これを3者それぞれの本来の立場とセットで整理してみます。([1]と[2]は近いですが、整理のため敢えて分けています)

"成り立ち"は言い換えると、"相手に何を期待されているか"、と言う意味です。成り立ちを無視すれば、もはや誰にも必要とされなくなってしまいます。

なお、営業を妨害する行為など、SLA/PJMと無関係な問題は今回省略しています。(キリがないため)

クリエイター

成り立ち:(期日までに)成果物を納品する
契約:期日を守る責任
SLA:無理な事は無理とSLAにて定義するべし(期日、報酬、問題発生時の対処)。作業における諸費用や準備などは、どちらが持つのかも決める。NDAなども範囲を決定
PJM:遅れそうなら報告し、解決策を執るべし※1

※1:クリエイターの権限で届かない範囲は、仲介/クライアントが決定・調整する必要があります

成り立ちで期日を括弧に入れたのは、依頼者次第という意味です。依頼者が定義していない場合もあります。

基本的に役割は納品です。ボトルネックを円滑にするのが(クリエイターという事業者としての)PJM、問題発生時にどうするのか決めておくのがSLAです。

仲介

成り立ち:クリエイター⇔クライアントの橋渡し※2

契約(対クライアント):期日を守って納品
SLA(対クライアント):責任範囲や、可能不可能について合意
 →SLA未定義要素を後から追及しても/されても、法的に問題がなければ"悪"ではありません。ただし、紳士協定を誰かが破れば、全体のコストが増大します

契約(対クリエイター):契約を締結した以上、互いに同意していることが前提です※3
SLA(対クリエイター):考え得る問題発生時/問題行動発生時に、お互いどう対処するのかを決定

※2:クライアントに強く出られないクリエイター、最適なクリエイターに依頼したいクライアント双方の結合と円滑なやりとりが期待される業務です。 それを放棄している仲介は、末端に言い分があろうとも不満に思われるでしょう。

※3:クリエイターが暴れ馬だとして、クライアントがそのケツを持つ責任は基本なく、仲介が吸収する事になります。 仲介の末端は権限をもたないため、問題があっても鞍替えもできず、苦しんでいるのが仲介末端不満漫画の一因でしょう。

どのクリエイターでも問題が出ているならともかく、SLAが成立するかは相性問題もあるでしょう。

SLAが成り立つのであれば、クリエイターの生活までマネジメントする事例もあるかも知れません。 現実では相性はやってみるまで分からない部分も多く、3者間はそれを織り込み済みで進行していくことがほとんどでしょう。

PJM:仲介で調整すべきボトルネックを排除する。クライアントやクリエイターにやって貰わないと進まない要素は、それぞれに対して迅速に依頼をしていく。

クリエイターの進行管理については仲介が出来る範囲で基本OKと考えられますが、これも契約内容次第です。

管理しないのであれば、どこまでやったらNGかはSLAとして定義が理想です。

契約については、契約素人のクリエイターにどこまで説明すべきかというのはSLA相性問題に入ってきます。

マッチングしないということは、SLAが全くできていない契約をするよりもマシかも知れません。

クライアント

成り立ち:報酬を支払う事です
契約:報酬を支払う責任があります
SLA:どういうときにどう支払いが変化するか、違反時にどう請求するかを定義する必要があります。※4
PJM:的確なタイミングでの決定・説明の責任があります。お任せしておいて、後から難癖付けるのは、PJMにおいても完全に悪手です。

※4:契約内容をあまり理解しないクリエイター、契約内容を詳しく説明しないクライアント、どちらが悪いかは私には判断付きかねます。 結局は請求できるパワーと度胸なのが現実です。 SLAが不完全で、互いに歩み寄れなければ今後も問題は発生するでしょう。

なぜ不満問題が出るのか(私見)

最後に、なぜ不満が噴出するのかをまとめ、今後どうなっていくかについて私見をまとめます。

明確な契約違反は別として、3者間(主に末端同士)で「正当に請求できていない」ことによる不満が原因とみています。

[1]クリエイター:正当な報酬を要求出来ない。無理難題を拒否できない
[2]仲介(の末端):遅延対処や問題発生時に基本現場が吸収
 →現場の権限では変更などが出来ない
[3]クライアント(の末端):上司との板挟み。現場で吸収

いずれも不満を無くすため、SLAの定義で決定した方が良い要素もあるでしょう。

PJMから見ても、互いに要求・定義をした方が円滑に回り、進行コストが下がります。

しかし、裁量/権限が無く、契約にも書いていない範囲であれば現場が吸収するしか無い…というのが現実です(主に依頼主が偉く、受託側が低いみたいな幻想がありますが、PJMでは互いに対等と考えた方が円滑に回ります)。
言い返せない人は、あとで陰口を言うしか出来ることがありません。 相手の末端の事情も知らないため、たれ込みを客観的・総括的に描くことはどんな人でも不可能です。

契約書に書かれていない以上法的に追及する事も難しいでしょう。

SLAを隅々まで決定するのは、お互いコストが増大して利点も薄くなります。

しかし、紳士協定で片方・両方に不満がある以上、健全な製造は難しいと言えます。

SLAはあくまで「後から問題になるとコストが増えるので防ぐ」という意味合いであるため、別にクリエイターだけを救ってくれるわけではありません。
紳士協定で円滑に進めるのが困難であれば、ある程度決めてしまうのがお互いのコストを下げることに繋がるということです。

3者は本来対等です。
対等であると言う事は、要求する事が権利であり重要な活動でもあると私は思います。 ただ口を開けていれば十分得られるかという話は、アニメーターの話などを見るに存在しないのではないかなと感じました。

まあ度胸が要るので難しいんですけどね。

おしまい。

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