『文章講座植物園』試し読み 武太郎吉「星降りの松」
武太郎吉「星降りの松」より抜粋。
いなくなるなんて思わなかった。時計の針は動かないのに毎日は淡々と過ぎていく。
※ モリノ凛による朗読版をこちらからお聴きいただけます。
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「日本の冬は黒すぎるのよ。気の利いた色が欲しいわ」
そう言った彼女が着ているのは、Aラインシルエットのステンカラーコートで、色は鮮やかなオーシャンブルー。フラップポケットが、胸と腰あたり、上下に二つずつ、合わせて四つも付いていて何だか洒落ている。彼女が大きく伸びをすると、コートの裾がひらりと