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新名一仁編著『図説 中世島津氏』の読みどころ

10月の新刊、新名一仁編著『図説 中世島津氏ー九州を席捲した名族のクロニクル』が刷り上がって参りました。10月26日以降、徐々に書店様に並び始める予定です。

 刊行に先駆けて、下記に本書の「序にかえて」をアップしました。編者の新名先生による島津氏の魅力や中世島津氏をめぐる研究状況、本書の執筆・編集方針等がまとめられていますので、ぜひご覧ください。

序にかえて

 島津氏は、鎌倉期から明治維新まで、九州南部の薩摩・大隅・日向が三ヶ国(鹿児島県・宮崎県)を、守護・戦国大名・藩主として統治した武家の名門として知られる。特に、近世においては加賀前田家にならぶ大藩であり、幕末には雄藩として国事に奔走し、最終的に長州藩とともに幕府を倒すに至ったことから、知名度も高く、しばしば大河ドラマでも取り上げられている。その一方で、中世島津氏の知名度は必ずしも高くない。大河ドラマの主人公になったことはなく、それどころか歴史小説で取り上げられることも、二十一世紀に入るまではほとんどなかった。国宝や重要文化財に指定されている「島津家文書」や『旧記雑録』(いずれも東京大学史料編纂所蔵)など、豊富な中世史料が存在しながら注目されなかったのは、ひとえに九州南部が〝辺境〟に位置していたため、中世史研究のなかで等閑視され、研究者そのものが育たなかったことに起因する。しかし、日本という枠組みでは〝辺境〟に位置しても、環東シナ海という視点に立てば、九州はその東側に位置し、九州南部は琉球・東南アジア、そして中国大陸から日本への航路の玄関口となり、その外交・交易上の重要性は計り知れない。二十一世紀に入り、そうした視点もふまえつつようやく研究も活性化しつつある。
 そうした機運と並行して、歴史小説や漫画・アニメでも戦国時代を中心に島津氏を取り上げるものが増えており、これらとのコラボによるイベントも鹿児島を中心に盛り上がりをみせている。地元住民や自治体がこうした動きに敏感であるとは必ずしも言えないが、コラボイベントに全国各地からファンの方々がはるばる集まってくる状況は、地域活性化という視点からも、〝島津氏を中心とする歴史〟のポテンシャルの高さを示している。
 その一方で、中世島津氏に関する良質な通史は数が少なく、近年の研究成果をふまえた、一般の歴史好きの方にもわかりやすい本が求められていた。本書はそうした需要に応えるべく、系図や地図、関連史跡・史料の写真をふんだんに使った中世島津氏のクロニクルとして編集された。島津氏の出自、
そしてどういう経緯で九州南部の島津荘と関係をもって名字としたか、南北朝内乱での数々の困難を乗り越えて薩隅日三ヶ国守護職を兼帯するに至った経緯、島津本宗家をめぐる一族間の抗争の果てに戦国島津氏が誕生し、島津四兄弟が九州を北上していく過程、そして豊臣秀吉に降伏してから豊臣大名として、そして関ヶ原の戦いで西軍につきながら生き残っていった背景を、この一冊で掴むことができるよう構成されている。
 鎌倉期は、鹿児島県で長年、学芸員そして『鹿児島県史料』の編纂担当として活躍している栗林文夫氏が、南北朝期から戦国期は編者の新名が、豊臣政権期から関ヶ原の戦いは、近年この時代の島津氏について精力的に研究を続けている久下沼譲氏が執筆を担当した。いずれも、近年の研究状況を熟知した研究者であり、読みやすくかつ良質な通史になったと自負している。本書をもとにより深く中世島津氏を学んでいただくもよし、掲載された関連史跡を訪ね歩くもよし、より多くの歴史好きの方々に島津氏そして九州南部の中世史に興味を持っていただき、残された史跡やその後の時代への影響、現在へのつながりを知っていただけたら幸いである。
  二〇二三年八月
                             新名一仁


 以上の「序にかえて」にもあるように、ありそうでなかった中世島津氏の通史として企画・編集いたしました。
 中世全般を対象としたため、とにかく島津氏だけでも登場人物が多いのですが、冒頭の全体系図をはじめ、本書の各所に系図を掲載し、本文を補完するようにしています。また、中世後期になると顕著になりますが、周辺の国人・国衆たちと複雑な姻戚関係を築くため、必要に応じてそれぞれの関係図を掲載しました。そして、南九州に縁のある方以外は地名や位置関係等はわかりづらいだろうと考え、地図や勢力図を充実させるように努めました。
 それら図版に加え、肖像画・文書・絵図・史跡写真をふんだんに掲載し、様々な側面から島津氏を照射できるように編集いたしました。地図や史跡写真も多数掲載(担当編集の趣味で特に墓が充実)しているため、本書を片手に現地を訪ね歩いてみるのも楽しいと思います。
 編集担当としましては、本書の刊行によって中世島津氏に興味を持ってくださる方が増えることを願ってやみません。
                             文責:丸山

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