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新春、映画まんがまつり!「邦キチ 対 木根真知子」


・はじめに


さて、新春である。このまんが感想文noteでもなにか企画をやらかさないと、もともと誰も見に来ない記事がさらに寂れてしまう。新春第一弾は元旦発売という正気の沙汰ではない(※単に毎月1日配信なだけ)大傑作の「解体屋ゲン 88巻」の記事となったが、少し真面目な文を書くとなにかしらボンクラ魂あふれる文も書きたくなるものである。

新春……冬休みといえば、我々の世代にとっては「東映まんがまつり」「東宝チャンピオンまつり」なのである。

「東映まんがまつり」といえば「マジンガーZ対デビルマン」、「マジンガーZvs暗黒大将軍(日本映画最高傑作)」、「グレートマジンガー対ゲッターロボ」……そうか、ならば映画紹介漫画の頂上対決が一番か!(いや、まだまだ色々あるが、映画紹介漫画)


というワケで

「邦画プレゼン女子高生 邦キチ映子さん」(服部昇大・集英社)

vs

「木根さんの1人でキネマ」(アサイ・白泉社)

新春、映画まんがまつり!「邦キチ 対 木根真知子」

を、はじめます。


・DATA SHEET



・あらすじ


「邦画プレゼン女子高生 邦キチ映子さん」

「映画について語る若人の部」などというけったいな部活を始めた小谷洋一の元にやってきたアカデミックなあすなろ邦吉映子。基本的にヒット作しか見ないうすらサブカル男の洋一に映子が最初にプレゼンしたのは「〇〇の〇〇〇(ネタバレのため自粛)」だった。アレ、大ヒットだし普通?

いや、映子が語ったのは実写版「〇〇の〇〇〇」なのである。

そのプレゼンを聞き「こいつは〇〇〇〇だ!」(出版コードのため自重)と解ってしまった洋一は映子をこう呼んだ。「邦キチ」

その後もややこしいアジア人で中国・韓国・インド・その他な映画のマニアであるヤンヤン、男子アイドル映画好きの石破マリア、「特撮作品について熱く語り合う部」などと出会い、さらなるコアな邦画プレゼンを展開していくのだ!」


「木根さんの1人でキネマ」

美人OLの木根真知子の趣味は映画観賞。しかし、真知子のそれは趣味の範疇では収まらないレベルのものであった。彼女は映画館やネット配信で観た映画の感想を匿名で行う自分のブログ「1人でキネマ」に投稿して毎夜、フォロワーと論争バトルをくり広げているのだ。

そんな木根さんのところに旦那をNTRされた同僚の水樹サン(離婚後佐藤に)がやって来て、奇妙な同居生活が始まる。映画バカ一代の木根さんと映画映画趣味が無かったややメンヘラな佐藤さん。2人の生活はどうなるのか?

……まあ、趣味の範疇では収まらないレベルの人間がどうなるワケもなく、会社では化粧と外ヅラの良さとスターウォーズの仮面で仕事の出来るいい人の仮面をつけ、仲間内ではどうしようもない痴態をさらして映画道を進むのである。真知子、マチちゃん、いやオタラーは!」


・特色


「邦画プレゼン女子高生 邦キチ映子さん」

邦キチは自分の好きな邦画をプレゼンしているだけであるが、普通の人間(だと思っている読者)が聞くと、ニッチでワケわからない、または一般的には駄作とか失敗作といわれる映画について「ホメ殺し」を語っているようにしか思えないものなのである。

ただし、邦キチの作者は六代目「日ペンの美子ちゃん」の作者である、服部昇大先生。国や政府や企業やなんやらの危ないネタをギリギリのセンスで扱って、全共闘生まれの17歳を大復活させた天才である。

まさにギリギリのラインで案件ギャグマンガを成立させるプロ中のプロ。そんな作者の描く邦キチのホメ殺しなプレゼンは、聞いているとなんだかとても魅力的な映画に思えなくもない……いやいや、そんなバカな……いやいや。


「木根さんの1人でキネマ」

木根さんは、普通に映画オタクとして、美人で敏腕な管理職として生きていけたハズ、いや生きているハズなのである。ちょっとブログで調子に乗って息巻いて、相手を論破するだけで、それをひっそりやっていれば良かったのである。

ただし、世の中はオタクに厳しい。なおかつ悪いコトに木根さんはマルチジャンルの人なので普通の人の話に出て来る映画もほとんど見ている。だから論破したくなって墓穴を掘るのである。人間には優越・達成・顕示・保身などの欲求があって、それがまとまっちゃうと論破欲になり、木根さんはアサイ先生の美しい絵で悲しいかな相手を論破したいだけウーマンになってしまうのだ。

そしてそれを引き起こすのは同居人や友達、ボンクラな同僚たちの、なんてコトな……くもない論破欲からのひと言だったり、娘の将来を憂いる母親の激怒だったりなのである。そんな中にも愛はあるのだが……悲しいね。


・傑作回


「邦画プレゼン女子高生 邦キチ映子さん」

どの回もあたりハズレなんかないんだけれど、ここはあえてコレを推そう。

単行本1巻、13本目「KING OF PRISM -PRIDE the HERO-」

応援上映をネタにした回に邦キチがプレゼンしたのがこの「キンプラ」である。キンプリやらプリリズやらプリパラやらなんだかワカランが、応援上映が大人気だと聞いたコトはある女児・女子に大人気のアニメ。

ハリウッドとか電車とか星座とか謎のパワーワードが並ぶ後にはじまるそのあらすじは、理解とかの範疇を超えるすさまじいものであるが、多分、応援上映に行っているこの映画を観に行っている人たちにはそれが良くて、誰にどうこう言われたって木根さんじゃないから論破しようなんて思わないに違いない。

そして、自分は……一回くらい見てもいいんじゃなかろうか?などと思ってしまってはいるのだ。


「木根さんの1人でキネマ」

どの回もあたりハズレなんかないんだけれど、ここはあえてコレを推そう。

単行本4巻、22本目「トイ・ストーリー」

実家に兄親子が住むことになり、木根さんの部屋を姪が使うため、実家に置きっぱなしになっていたDVDとテープの山を木根さんの自宅に送りつけるコトとなった。そんな中で、久々にご主人(木根さん)と同居出来ると喜び動き出したDVD(の入ったパッケージ)たちのファンタジー回。普段は木根さんの日常?だけど、扱う題材が題材だからコレでいいのだ。

そして喜ぶ彼らを待っていたのは……彼らは木根さんが高校生だった頃までの品。ここまで言えば解ると思うが、技術の進歩というのは彼らに優しくはなかったのだ。

実家では眼鏡の美少女高校生だった木根さん。逆境の嵐を耐え世界の理を破り、ついに憧れのご主人と会うDVDたち。とんでもないメタ表現の中で、木根さんが彼らにかける言葉とは……大感動?ファンタジー!!


・シン・エヴァンゲリオン劇場版


まんがまつりといえば「〇〇対△△」ってタイトルだけど、中盤からは共闘して別の敵と戦うものである。もちろんこの「映画まんがまつり」でも2つのマンガに戦う相手を用意しよう。

その相手とはどちらのマンガも「逃げちゃだめだ」な「シン・エヴァンゲリオン劇場版」である。


「邦画プレゼン女子高生 邦キチ映子さん」

不審者のように部室に現れた科学の教師、江波。彼は昔この学校のこの部室を使っていたエヴァンゲリオン研究部、通称「エヴァ研」のOBだったのである。

江波は洋一に言う「あっと言う間にお前もこうだからな!」。江波は美少女ヤンキー中峠先輩と2人で「エヴァ研」をやっていたのだ。しかしエヴァの波に飲まれた江波は中峠先輩と何もなく中年になった。江波は洋一も邦キチたちと疎遠になる、俺のようになると言うのである。

そんな中で邦キチは大好きだと言う「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」のプレゼンを開始する……。

そんな話からついにいつものメンバーは「シン・エヴァンゲリオン劇場版」を観に行く。エヴァと、ついでにふたりで見に行くコトとなった江波と中峠先輩を生暖かい目で見守るために。

エヴァに、カラーに人生をメチャクチャにされた(ただの自爆)、江波と中峠先輩の運命は?そして「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の感想とは?


「木根さんの1人でキネマ」

以前、TVアニメを映画の二軍とバカにした木根さんは、友人のキョーコの策略によりエヴァを見せられて虜となっていた……論破も出来ず。

※ この回も大傑作である。(3巻17本目)

旦那と子供が野球で留守のキョーコ宅で「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の感想戦が行われる。軽快に司会をするキョーコだが、皆のテンションは低い。

そして、木根さんから衝撃の、だが納得の意見が飛び出す(コレは自分も同じセリフを友人に言ってしまった)。そして木根さんはキョーコの心を開く。そうキョーコは上のDATA SHEETに書いた属性持ち……。キョーコの運命は!

果たして、木根さんはそんな友を前にして連載史上最高の笑顔に!!!


・おわりに


「邦画プレゼン女子高生 邦キチ映子さん」は邦キチの洋一に対するプッシュが強くなっている。ストーカー並みに家には来るし、ビキニも用意して見せつけるし、6巻表紙のジト目なぞ完全ロックオンの状態である。恋愛系はどーでもいい邦キチが何を考えてるのか、どんな伏線を張っているのかはまるでワカランけれど、まあ、これからもホメ殺しプレゼンが続くように期待したい。


「木根さんの1人でキネマ」、「シン・エヴァンゲリオン劇場版」についてはよくぞココまでって感じであるが、あの連載史上最高のヤバすぎる笑顔を超えるものが出せるのかが心配……まあ、アサイ先生なら大丈夫だと思うけど。いや、いざとなればハリポタ編のようにNEXT GENERATION化すればいいのだ……いいのか?


なんにしろ映画と言う産業がある限り、映画紹介マンガは続けられるのだ。元ネタがなんであろうと、作者の魂が消えない限りは問題ないのだ。これからまだまだ両作品がギリギリをちょっと超えた表現で続いてくれるコトを祈る、2022年の正月である!

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