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ロイス・ディーツ症候群のまとめ

2023年7月20日初稿
絵はAIが描いた「人工血管」です。

ロイス・ディーツ症候群はマルファン症候群によく似た疾患であるが、マルファン症候群よりも大血管障害が起こりやすく、しかも若年発症が多いことが示されている。

大血管の動脈瘤や蛇行などのほか骨格の特徴も共通している一方、頭部や顔面、皮膚については独特ではある。

マルファン症候群がフィブリリン(FBN1)の異常によって起こるのに対し、ロイス・ディーツ症候群ではトランスフォーミング成長因子β(TGFβ)経路の異常によって起こることが知られている。


特徴

主な臨床的な特徴は血管所見であり、胸部や腹部の大動脈だけでなく脳動脈や末梢動脈にも動脈瘤が生じる。よって主な死亡原因は大動脈解離や大動脈瘤の破裂などである。

血管所見の他に、身体的な所見として、以下のものが挙げられる。
写真はこちらこちら

骨格症状:漏斗胸、鳩胸、側彎症、関節弛緩、クモ状指趾、先天性内反足、頚椎奇形・不安定

頭部・顔面:眼間解離、斜視、二分口蓋垂、口蓋裂、頭蓋骨早期癒合症

皮膚所見:ビロード状で透過性の高い皮膚、痣ができやすい、広範で萎縮性の瘢痕

産婦人科的所見:子宮破裂、周産期死亡など

・その他:喘息、湿疹、食物・環境への過敏反応、好酸球性食道炎、炎症性腸疾患など


遺伝学的検査

TGFBR1, TGFBR2, TGFB2, TGFB3, SMAD2, SMAD3

いずれもTGFβ受容体経路の分子であるが、最も多いのは最初に報告されたTGFBR1, TGFBR2である。TGFβ受容体はTβRIが二量体をなし、TβRIIも二量体をなし、これらが組み合わさって四量体を形成する。

多くの場合、受容体のチロシンキナーゼ部分の機能喪失型ミスセンス変異であるのだが、下流シグナルは活性化している、という逆説的な実験結果が得られている。



ロイス・ディーツ症候群の画像検査に関するエビデンス

下記いずれも確固たるエビデンスはないが推奨されている。

大動脈基部と上行大動脈の直径を決定するためにベースライン の心エコーで評価し、その後 6 か月後の大動脈の拡大進展速度を評価することが推奨される。安定している場合は、年に一度の監視となる。

ベースライン時に大動脈および/または動脈分枝が拡張または解離している患者では MRI または CT で毎年監視画像化することが推奨。

大動脈全体とその分枝の動脈瘤、解離、および蛇行を評価するために、頭から骨盤までのベースライン MRI または CT が推奨される。


一方、大動脈所見がないロイス・ディーツ症候群の患者である場合、胸部から骨盤までの MRI (または CT) による監視画像を 2 年ごとに行うこと、脳動脈の拡張が見られない患者では、2~3年ごとにMRIまたはCTによる脳動脈瘤の画像検査を定期的に行うのが合理的であるが、エビデンスクラスは低い。


ロイス・ディーツ症候群の薬物治療

ロイス・ディーツ症候群の患者では、可能な限り、最大耐用量でのβ遮断薬またはアンギオテンシンII受容体阻害薬(ARB)、またはその両方による治療が合理的と考えられている。

ロイス・ディーツ症候群での研究は多くないが、マルファン症候群の類縁疾患であることから、マルファン症候群の治療を参考に投薬される。


ロイス・ディーツ症候群の血管置換術に関するエビデンス

以前は大動脈基部の直径が 4.0 cm を超えるケースで手術を推奨されていた。「2010年 ACC/AHA ガイドライン」では、画像診断法に応じて、直径 4.2 cm から 4.6 cm までのケースで大動脈手術が推奨されていた。

ロイス・ディーツ症候群および大動脈拡張のある患者では、予防的大動脈起始部および上行大動脈置換術の手術閾値は、特定の遺伝的変異、大動脈径、大動脈の成長速度、大動脈外の特徴、家族歴、患者の年齢および性別によって決定されるべきである。


一方、強いエビデンスがあるわけではないのだが、TGFBR1、TGFBR2、またはSMAD3の病的バリアントに起因するロイス・ディーツ症候群の患者では、直径 4.5 cm 以上の大動脈弓、下行大動脈、または腹部大動脈について置換術が考慮される場合がある。患者の年齢、大動脈の進展率、家族歴、高リスクの特徴の存在に依存する。


A 型大動脈解離のような重篤な疾患の発生リスクに関して言えば、TGFBR1、TGFBR2、SMAD3変異に起因するA 型大動脈解離のような重篤な疾患の発生リスクに関して言えば、TGFBR1、TGFBR2、SMAD3変異に起因するロイス・ディーツ症候群はマルファン症候群よりも小さな大動脈径で発生する可能性がある。 SMAD3関連の変異の場合さまざまな直径で大動脈解離を引き起こす可能性がある。大動脈解離のリスクについて言えば、特定の血管以外の特徴を持つTGFBR2変異を持つ女性でより高い。

TGFB2とTGFB3変異の場合、 TGFBR1、TGFBR2、SMAD3変異よりも悪性度の低い大動脈疾患の表現型である可能性が示唆されている。

しかし、遺伝子変異を持つ家計であっても家族内でも顕著な個人差がある。


大動脈弓、下行大動脈、腹部大動脈、または大動脈分枝血管に未破裂動脈瘤がある場合の対応として、予防手術のサイズ閾値に関する情報はほとんどない。大動脈解離後は一般に進行性の動脈瘤拡張が起こり、複数回の手術介入が必要になることがしばしばある。


大動脈基部の拡張を有する患者は遠位上行大動脈、弓部、下行大動脈、腹部大動脈の動脈瘤が発生することもある。大動脈基部置換術の施行後に遠位上行大動脈瘤や解離が起こる可能性があるため、初回の手術で上行大動脈全体も置換されることも考慮される。大動脈解離のリスクが未破裂の大動脈弓、下行大動脈、または腹部大動脈の待機的手術を正当化する大動脈サイズの閾値に関する情報はない。共通見解としてバリアント、大動脈径、進展速度、年齢、性別、体の大きさなどを考慮する必要がある


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