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医師/医学博士/総合内科専門医/循環器専門医/臨床遺伝専門医/日本心臓病学会上田賞受賞…

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医師/医学博士/総合内科専門医/循環器専門医/臨床遺伝専門医/日本心臓病学会上田賞受賞 Twitter @ebnysk1 遺伝や倫理、循環器領域について勉強したことを書いています。

最近の記事

不整脈原生心筋症(ACM)の遺伝的背景について

イタリアの大学からの報告です。 診断基準を満たす446人について、右室型、左室型、両室型に分類して、それぞれの致死性不整脈、心不全、心筋障害エピソード、突然死の割合について調べたもの。 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0735109723083092#tbl1 致死性不整脈を起こしやすいのは右室を含むものであるとか、心不全は左室型のほうが多いなどの新しい知見が示されています。 遺伝的背景に関しては、我

    • 肥大型心筋症患者さんは激しい運動をしてよいか?

       肥大型心筋症は心臓の壁が厚くなる、比較的よく見られる遺伝性の心臓病です。その病気による影響が患者さんお一人お一人で大きく違うという特徴があり、人によっては生涯にわたって何の症状も感じることがない方もいらっしゃれば、若くして突然亡くなってしまう方もいます。特に、若くして突然亡くなってしまうような方については、どのような特徴があるのか、また予防する方法があるのかを知っておく必要があると思い、このメモを作成しました  スポーツ大会中に突然死してしまったアスリートが実は肥大型心筋

      • 肥大型心筋症と妊娠

        心血管イベントのまとめ HCMと診断された女性の、1624件の妊娠に関するレヴュー(18論文)によると、妊産婦死亡の発生率は0.2%、以下、持続性心室頻拍1%(0~1%)、非持続性を含む心室頻拍6%(4~8%)、心房細動4%(2~6%)、心不全5% (3 ~ 8%)、失神 9% (3 ~ 14%)であった。妊娠関連イベントとして、産後出血2% (1 ~ 4%)、子癇前症/子癇4% (2 ~ 6%)、帝王切開 43% (32 ~ 54%)であった。 新生児死亡は0.2%、合

        • 肥大型心筋症の遺伝子検査・MYBPC3について

          肥大型心筋症の原因遺伝子の中でも頻度の高いMYBPC3についてまとめています。1971年にウサギの骨格筋から抽出されたタンパク質に似た、心臓特有のファミリーとして研究されてきました。 分子構造などの基礎研究の結果はこちらが詳しいです↓ https://febs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/1873-3468.14301 以下の記事の元ネタはこちらです↓ MYBPC3遺伝子の構造や働きについて MYBPC3はこの遺伝子は、心筋

        不整脈原生心筋症(ACM)の遺伝的背景について

          書籍「倫理審査スルッと」ー事前審査編

          「俺はちょっと調べたいだけなんだ」 なのに、、、 審査申請が必要だとか指針に適合していないとか倫理的におかしいとかインフォームド・コンセントが必要だとかイチイチうるせえ…と思っている人が読む本です。研究計画書を書く理由もわからんし、で書いたら色々言ってくるし、しかも言ってる意味が分からんし、こっちの話も通じんし、、、いろいろあるでしょうが、それ案外簡単に解決するようなことかもしれません。 この本を必要とされる読者としては医師・歯科医師・医療従事者の方々で、研究をされてい

          有料
          1,000

          書籍「倫理審査スルッと」ー事前審査編

          大動脈二尖弁と大動脈拡張について

          以下は、大動脈二尖弁患者における大動脈拡張のメカニズムに関する最先端のレビューから覚えておくべき重要なポイントです。 絵はAIがかいてくれた「二尖弁と大動脈拡張」です。 大動脈二尖弁の疫学とリスク因子 大動脈二尖弁一般的な先天性心臓異常で、有病率は一般人口の 0.7 ~ 1.4%と言われています。男女比は2 ~ 3:1 で男性が優位です。大動脈二尖弁があると、大動脈基部から大動脈弓までのすべての大動脈セグメントが拡張するリスクがあります。大動脈瘤の年齢調整リスクは一般集団

          大動脈二尖弁と大動脈拡張について

          ロイス・ディーツ症候群のまとめ

          2023年7月20日初稿 絵はAIが描いた「人工血管」です。 ロイス・ディーツ症候群はマルファン症候群によく似た疾患であるが、マルファン症候群よりも大血管障害が起こりやすく、しかも若年発症が多いことが示されている。 大血管の動脈瘤や蛇行などのほか骨格の特徴も共通している一方、頭部や顔面、皮膚については独特ではある。 マルファン症候群がフィブリリン(FBN1)の異常によって起こるのに対し、ロイス・ディーツ症候群ではトランスフォーミング成長因子β(TGFβ)経路の異常によっ

          ロイス・ディーツ症候群のまとめ

          コレステロールの分解ルートってないよな・・・

          コレステロールとはそもそも何ぞや? コレステロールが高いと動脈硬化になりやすいなど、悪者扱いされやすいコレステロール。 では、コレステロールは身体の中でどのような使われ方をしているのかといえば、主なものは「細胞膜の構成物」、それから「ビタミンやホルモンの基本骨格」の2つである。卵、肉、魚なんかには多く含まれているといわれているけど、それぞれの食べ物の細胞膜の成分でコレステロールの量が決まっていると思っていい。 特に卵はコレステロール含有食物の代表格とみなされていて、可食部分

          コレステロールの分解ルートってないよな・・・

          ACMGガイドラインへの味付け(LDLR編)

          2023年7月13日初版 家族性高コレステロール血症の原因遺伝子LDLRアップデート家族性高コレステロール血症の話が続きます。 絵は「家族成功コレステロール血症患者の角膜輪を描いて」とAIにお願いしてできた作品です。 主に肝臓の表面に出ているLDL受容体をコードする遺伝子(LDLR)について、バリアント解釈の方針が示されました。LDLRは早い段階から同定された遺伝子でエビデンスも豊富です。 バリアントの解釈 バリアントの解釈はACMG/AMPガイドラインに準拠して行わ

          ACMGガイドラインへの味付け(LDLR編)

          遺伝子バリアントの解釈について ー近年の状況ー

          上はAIが書いてくれた「DNAの解釈」という絵です。 遺伝学的検査は何らかの遺伝性疾患が疑われた際に、臨床上のスコアリングをもとに、確定診断を行う目的で実施される。多くの場合はその対象疾患の原因となりうる遺伝子を集めたパネルについて調べることになる。そのパネルに含まれる遺伝子にバリアントを認めない場合に、エキソーム解析などの網羅的な手法を取る。いずれの方法であるにせよ、シークエンス解析によって遺伝子配列が決定されたあと、見つかった変異がその遺伝性疾患の原因となりうるかどうか

          遺伝子バリアントの解釈について ー近年の状況ー

          家族性高コレステロール血症の基本

          初版 2023年7月11日 修正 2023年7月12日(最新) 脂質代謝の基本もっとも大事なのはLDLコレステロールの値 健康診断にある「脂質代謝異常症」の項目のうち最も大切な数字がLDLコレステロール値である。日本循環器学会のガイドラインでも、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の主要なリスク因子として、高血圧とともに挙げられている。 https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_fujiy

          家族性高コレステロール血症の基本

          腹部大動脈瘤のリスク因子と遺伝子研究の最前線

          腹部大動脈瘤、通称AAA(スリーエー)のまとめです。 例によって、絵はAIが描いてくれた「AAA」です(意味不明です)。 はじめに 腹部大動脈瘤(AAA)によって、毎年世界中で約 170,000 人が亡くなっている。一般的なガイドラインでは、 1.無症候性の軽症のAAA(女性では 30 ~ 50 mm、男性では 30 ~ 55 mm)→画像検査でモニタリング 2.無症候性だが重症のAAA、症候性AAA、瘤破裂を来したAAA  →外科的修復を推奨 AAA修復術は進歩している

          腹部大動脈瘤のリスク因子と遺伝子研究の最前線

          遺伝子検査による新たな証拠で有罪判決から一転赦免

          絵はAIが描いてくれました。「赦免された女性」というタイトルです。 2003年に4人の幼い子供の死について、有罪判決を受けたオーストラリア女性が一転無罪となり赦免されました。 亡くなった子供たちの遺伝的証拠から、カルモデュリンという遺伝子に変異が認められ、子供たちの死が遺伝性疾患によるものである可能性が出てきたためです。 カルモデュリンはタンパク質はCaM、その遺伝子はCALM2と表現されます。心臓や神経の細胞の中のカルシウムと一緒に働き、心臓の筋肉を動かしたり、神経が伝わ

          遺伝子検査による新たな証拠で有罪判決から一転赦免

          抗精神薬がQT延長に及ぼす影響・メモ

          抗精神病薬はQT延長の多い薬剤である。種類も多く多彩であるため注意が必要である。ADHDなどで投薬を受けているケースは注意深く病歴を取ることが重要である。近年ではアリピプラゾール(エビリファイ®)、ブレクスピプラゾール(レキサルティ®)などQT延長作用の小さい薬剤が開発され、選択されるようになっている。これら副作用の少ない薬剤の登場により、ピモジドなどの薬剤は販売中止となっている。 以下、まとめ QTへの影響の報告なし:アリピプラゾール、ルラシドン、ブレクスピプラゾール

          抗精神薬がQT延長に及ぼす影響・メモ

          乳がんと肥満

          「乳癌を持つ太った人の絵を描いて」とAIに頼んだらこれを描いてくれました。 がんと肥満 これまでの情報によると、多くのがん(以後は、癌)は肥満と関連していることが示されています。具体的には体格比(Body-Mass Index; BMI)といって、体重を身長(メートル換算)の二乗で割った数字が増えると癌になりやすいと言われています。様々な国のデータで28万人を含む研究では、女性であれば子宮体癌はBMIが5ポイント増えるごとに、リスクが1.5倍になると言われています。その同じ

          乳がんと肥満

          がんゲノム…ではないけど、乳癌とアルコールの関係について

          はじめに 遺伝や、ホルモン、行動的要因が乳がんの発症に寄与します。そのうちアルコール摂取という行為は、乳がんのリスク増加に関連する修正可能な行動と言えるもので、ホルモン依存性の乳がんの発症や、内分泌治療後の疾患の進行や再発と関連しています。 絵は「乳がんとアルコール」というテーマで頼んだらAIが書いてくれました。 https://ascopubs.org/doi/full/10.1200/JCO.2017.76.1155?role=tab アルコールと乳癌 欧米の研究

          がんゲノム…ではないけど、乳癌とアルコールの関係について