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先天性QT延長症候群・メモ(2023年版)ver2.1

江花有亮
東京医科歯科大学病院遺伝子診療科
2021年5月5日初稿
2023年5月2日第2稿
2023年5月15日微修正


―目次―
0.はじめに
1.QTとは何か
2.QT延長の意味とは
3.用語集
4.心イベント、および致死性不整脈とは
5.先天性QT延長症候群の疫学
6.QT延長の原因となる薬剤
7.QT延長症候群の診断・リスク評価
8.心臓の動き(活動電位)
9.心筋細胞レベルで起こっていること
10.       先天性QT延長症候群の生活指導と治療
11.       先天性QT延長症候群の原因遺伝子
12.       個々の遺伝子型
13.       結果の解釈について
14.       実際の症例
15.       複雑な遺伝病と多遺伝子リスクスコアについて
16.       遺伝カウンセリング
17.       性腺モザイク
18.       De novo 変異
19.       細胞・動物実験



0.       はじめに

先天性QT延長症候群は心臓に構造的な異常を認められないにもかかわらず突然死のリスクが高い遺伝性不整脈の一つです。QTが延長する原因は様々ですが、一つ一つの心筋細胞の収縮や弛緩の過程で認められる、「脱分極」や「再分極」という現象の調整に関与するイオンチャネルというタンパク質をコードしているいくつかの遺伝子の変異に起因しております。QT延長症候群の患者さんの症状は無症状から突然死まで幅広く見られます。一般的に、小学校あるいは中学校健診の心電図で指摘を受けることが多いですが、まれに突然死が初発の症状であることもあり、早期診断のうえ生活管理や適切な治療が非常に重要です。
本書では2018年に改訂された日本循環器学会「遺伝性不整脈の診療に関するガイドライン」や2013年に米国・欧州・アジア不整脈学会(HRS/EHRA/APHRS)から出版されたHRS/EHRA/APHRS Expert Consensus Statement on the Diagnosis and Management of Patients with Inherited Primary Arrhythmia Syndromeをベースとして解説し、またこれらガイドライン出版後に示されたエビデンスをもとにまとめております。
本書が想定している読者は先天性QT延長症候群に関わる人たちです。

2023年版では、特に原因遺伝子の再評価に関する情報が追記され、これまで17の原因遺伝子とされていたものから、3つの確定的な原因遺伝子、QT延長以外の特徴を持つ確定的な原因遺伝子、確定的とは言えない遺伝子について分類されました。またモザイク変異や新規変異についても新しい情報を追加されました。

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