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おくちのなかのぎんが

障害のある長女は、二カ月に1回、歯医者さんに歯のお掃除に行っています。
知的障害があると、歯磨きがうまくできなかったり、習慣化するのが難しいので、歯科衛生士さんの勧めで、通うことになり、もう数年。
すっかり、クリニックにも、歯科衛生士さんにも慣れて、今は通院を楽しみにしています。

さて、昨日、2カ月ぶりの歯医者さん。
朝から緊張しています。
予約は午後だというのに、前の晩から、かばんを用意し、お財布を用意し、帰りにコンビニによるための、千円札を用意し、繰り返し、繰り返し確認しています。

長い長い午前が過ぎ、やっと歯医者さんの時間になりました。
名前を呼ばれ、診察室へ入りました。
もう、顔なじみなので、長女のことはスタッフの方々に任せておけば大丈夫です。
そんな安心感からか、私はつい、うとうとしてしまいました。


ぎんがが、ぎんがが。
大きな声で、目が覚めました。歯のお掃除が終わって、長女が診察室から出てきたのです。

おくちのなかに、ぎんがが、おっこったの。
興奮した長女が、目を丸くして、話しています。

私の頭の中には、「パラダイス銀河」のメロディが流れ始め、
ローラースケートをはいた光GENJIが、駆け回りだし、
「お口の中の銀河ってなんだろう?」
頭の中は、? でいっぱい。

そして次の瞬間「メン・イン・ブラック1」のラストシーン、猫の首輪にかかった、球体のイメージがうかび、
「まさか、あの宇宙が詰まった球体が、落ちてきたのだろうか?」

すると少し落ち着いた長女が言うことには、
「おくちのなかのぎんがみがとれたけど、おねえさんがひろってくれて、
はめてくれたの。」
「のみこまないでよかった。」
ということでした。

少しして、歯科衛生士さんが、待合室に出てきて、お話してくれたのは、
「最後に、フロスをかけたところ、右奥のかぶせ物がはずれてしまったので、歯科医が、確認して、きっちりはめなおしました。」
とのこと。

なんてことない、銀河でも、銀紙でもなく、金属のかぶせ物が外れたので、治してもらったということでした。
そして、歯科衛生士さんは、
「緊張が強いのでしょうね。舌にあとがついていますよ。」
と言いました。
そうなのです。
ほほの内側にも、たくさんあとがついているのです。
いかに、普段の生活が緊張を強いられるものなのか、口の中をみるとわかるのです。

そして帰り道、コンビニ向かう途中で、
「しばらくは、たべちゃいけないんだって。」
長女はまじめな顔で、言います。
きちんと、先生のお話を聞いてきたのだな、感心、感心。
「あめはたべません。おせんべいもたべません。」
「ばんごはんは、はがとれないものをたべます。」
と自分なりに、考えて話しています。

コンビニでは、大好きなキスマイの表紙の雑誌を買いました。
「よかったね。はいしゃさんがおわって。」
と、同じことを、何回も何回も繰り返しました。

それにしても、ありがたいことです。
障害のある人に理解がある医療機関に通えるってことは。
もちろん、神経内科、内科、耳鼻科、皮膚科、眼科、整形外科、それぞれ、通院先が決まるまでには苦労しました。
でも、今は、かかりつけ医がそれぞれ決まっているので、本当に助かります。
どれくらい助かっているかと言うと、長女が診察室に入っている間、待合室で、母親がうとうと居眠りできるくらい。
安心してお任せできるくらい。
神経内科では、長女が脳波検査している間、母親もうとうとしています。

ありがたいとか、助かるとか、思ってしまうけど。
本当は、当たり前のことなのではないでしょうか。
(居眠りはしなくてもいいですが)
障害のある人と、家族が安心して気持ちよく受診できる医療機関が、増えていきますように。

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