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ジョゼと虎と魚たち 韓国版

ジョゼと虎と魚たち
韓国版 2020年 キム・ジョン・グアン監督

「ジョゼ虎」は田辺聖子さんの短編小説で、2003年に日本で実写化され、2020年にアニメ化もされている。
韓国版の「ジョゼ虎」は、とても静かで、淡々とした映画だが、見終わったときに、力強さを感じる映画である。

俯瞰カメラからとらえる、ジョゼとヨンソクの出会い。
道路に倒れているジョゼを助けようとリヤカーを借りに行くヨンソク。
リヤカーにジョゼと車イスを積んで家に戻ってくると、そこには廃品回収のおばあさんがいた。
韓国版のジョゼは、箱車でなくて、車いすを使用している。電動車いすはモーターとタイヤが壊れて機能していない。

ジョゼは、フランソワーズサガンにあこがれているので、勝手にジョゼと名乗っている。
家まで送ってくれたお礼に、ご飯を食べていくように勧められたヨンソクは、その後も何回かジョゼの家で、ご飯をごちそうになる。
ジョゼは料理が上手なのだ。
でも福祉関係の人は、おばあさんが料理を作ってくれてると思ってる。

捨て子だったジョゼは養護施設を脱走して(足が不自由なのでどうやって脱走したかは不明)廃品回収のおばあさんの家で引きこもっていた。
どこにも行ったことはないけれど、拾ってきた本を読み、拾ってきたウイスキーのボトルのにおいをかぎ、世界中を旅しているのだと言う。
自分はブタペスト生まれだとか、ジョゼは嘘ばかり言っているが、本人は想像の中で暮らしているのだろう。
意地悪もいうし、ヨンソクを困らせてばかりいる。
でも、普段は静かで大声も出さない。

ヨンソクのクラスメイトの勧めで、福祉の利用で住宅改修ができるという話が出る。
でも、ジョゼは障害者登録をしていないし、住民登録すら抹消されているらしいので、障害者サービスではなく、おばあさんの高齢者枠だけのリフォームをすることになる。

ジョゼの家(おばあさんの家)は隙間風だらけ、ボロボロの家だが、たくさんの本が積まれ、ボトルが並び、その中で本を読んでいる姿は、なんだかうらやましい。
韓国版には、虎の映像は出てこない。
ただ、壁の割れ目に虎の気配がするだけだ。
そしてとても寒い家なのだ。

ヨンソクとジョゼは二人であちこちに行く。
スマホのグーグルで世界を旅する。
ヨンソクと一緒に水族館に行ったり、観覧車に乗ったりするジョゼ。
車イスを押すのは、ヨンソク。
おんぶするのはヨンソク。
ヨンソクは大学卒業を控え、就職活動を始める。

そして5年後。
おばあさんは死に、一人暮らしになったジョゼは、自分で車を運転して、おばあさんの納骨をするため墓地に行く。
運転しているということは、ジョゼは障害者登録をして、車を障害者使用に改善し、運転免許を取ったということだ。
出かけるときは、だれかに連れて行ってもらうばかりだったジョゼは、今では自分で自分の車のハンドルを握る。
一人でどこへでも行ける。

ジョゼは、自分の人生の舵を、自分自身で取り始めたのだ。
それを自立と言うのだと思う。

婚約者の運転する車の助手席に座るヨンソクは、隣の車を走る車が、ジョゼの運転する車だと気が付くだろうか。
ヨンソクの乗った車とジョゼの車が並ぶ。
ジョゼとヨンソクの頭の高さは、今は同じだ。

車イスで出かけるときは、ヨンソクが高い位置で、ジョゼは低い位置にいた。
車の座席で移動するなら、二人の目の高さは同じになる。
同じ景色を見ることができる。
でも二人の人生は全く違うものだ。

自分で自分の人生のハンドルを握るジョゼの姿は、力強く新鮮である。
このラストシーンは韓国版ならではの結末だ。
韓国映画の女性たち、障害者たちはたくましい。
自分の人生を、静かに自分で切り開いていく。

水族館のジョゼとヨンソク

水族館の魚は、不自由だと思うでしょう。
でも、魚は、人間のほうが不自由だと思っているかもしれないよ。


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