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文化講座『愛媛俳句・文学講座』『俳句史講座』 講師:青木亮人

こんにちは。note更新担当のたぬ子です!

平成20年度から開講している当財団の人気事業!それが『文化講座』です!

この講座は、愛媛県県民文化会館に外部講師を招き、文学や歴史などに興味・関心のある方々に向けて、学びの場を提供しています。
また、当財団ならではの専門性の高い講座や地域の歴史・特性を生かした講座となっています。

今年度の『文化講座』は、対面講座:4講座+オンライン講座:2講座の合計6講座を開講しており、それぞれの講師にお話を伺っていきます!

今回、お話を伺ったのは
『愛媛俳句・文学講座』『俳句史講座』担当の青木亮人あおきまこと先生です!

あっても良いが、無くても良い俳句の”魅力”

ー俳句の魅力を教えてください。

 いくつかあるんですけど、17文字でいろんな情景や動作などを読者に想像させられるのが、おもしろいですね。
 しかも誰も使ったことのない言葉ではなく、普段使っている日常の言葉を詩にあてはめた時に、今までと全く違う風景が想像できてしまう。
 そういう言葉の使い方をするのが、魅力だと思います。

 また個人的には、”禅問答のように謎めいたところ”に惹かれますね。
 何を伝えたくて詠んだのか分からない作品が俳句史にはたくさんあるんですけど、その分からないところがいいんですよ。
 そんな作品を作ったところで、全くお金にならないだろうに、なんで一生懸命人生かけて謎を作ってるんだろうっていうのが、もう堪らないです(笑)

 その謎めいた世界感に惹かれて、俳句研究をやり始めたんです。

 それに俳句って、世の中にあってもいいけど無くてもいいですよね。
 趣味の世界といえば、趣味の世界。医学や建築のように、実社会に直接還元できるジャンルではなくて、無くても生活にあまり支障はきたさない。
 でも、俳句っていうフィルターを通すと、今まで当たり前と思っていた世界がガラッと変わったり、それとなくしか意識していなかった感情や出来事が輪郭を帯びて現れてくる…。
 人生が変わるほどの瞬間や体験を、俳句は私たちにもたらしてくれる
んです。
 そんな俳句を気合と時間と労力をかけて、「目の前にあるものを一生懸命形にしないといけない!」と思い込んでいる天才的な人たち。
 そんな俳人にすごく惹かれますね。

黙る俳句、語る川柳

ー日本の詩の形態に短歌、俳句、川柳とある中で、それぞれどんな違いがあるんですか。

 俳句と川柳は5・7・5のリズムで詩を詠むという点で、とても似ているんですが、実は俳句と川柳よりも、短歌と川柳の方が近いんですよ。

 俳句はできるだけ作者の感情を入れずに、映画のワンシーンのように黙って詠み、川柳や短歌は、自分の心情を軸にどんどん変化や屈折させたりして、読者に複雑な心情を感じてもらえるように詠む。
 読者に作者の心情や感情を委ねる俳句と、自分が何をどのように感じたかということそのものを言葉で表現する川柳や短歌で分けることができますね。

 感じたことをただ述べるのではなくて黙って描く。その”黙る”というところに、俳句の本質を感じます。
 そんな特性ゆえに、どうやって読んでいいのか分からない作品が発生しがちなジャンルにはなってしまうんですけどね。

ーでは、読者によって句の印象が違ってもいいんですか。

 読者を信じる作者もいますし、意味の受け取り違いを防いでどんな人にも同じような意味でとってほしい作者や、読者の混乱を楽しんで敢えて謎めいた作品を作る方もいます。
 その辺りは、どういう俳句を作るかっていう作者のスタンスで変わってきますね。
 でも結局、読者の印象をコントロールしようがないぐらい俳句は短いので、作者はある程度「どうとでもとってくれ!」と腹をくくるしかないなと思いますね。

 ただ、現代の俳句界で活躍されている方はずっと現代俳句の世界にいるので、読者になった時に作者の意図や方向性から季語の使い方、表現の微妙なさじ加減まで分かることが多いようです。
 作者として自分自身も日々汗をかいて、言葉や定型と取り組んでいる体験から、何をどう読み取ってほしいのか、ピンと来ることが多いのだと思います。
 プロスポーツ選手が、相手のちょっとした動作の変化で何をしようとして
るかパッと気付けるように、俳句の一字一句に込めた小さなサインを受け取ることができるみたいですね。

ー今まで、解説と合ってるか合っていないかで俳句を読んでました。

 解説が自分の受け取り方と合ってた、合ってなかったって考え方は10か0かって発想だと思うんですけど、そうじゃなくて解説と自分の受け取り方は9:1なのか7:3なのかって考えた方がいいと思います。

 解説は筋として合ってるだろうけど、10だとは限らない。

 「これ6:4で解説の方がやっぱり読めてるな」とか「解説は4で、こちらの方は6だけど、あの4には気づかなかったなあ」といった感じで、「どういう読み方をすると、この作品の可能性を1番引き出せるか」って考えた方がいいんじゃないかなと思います。

  映画や小説もそうだと思うんですけれど、答えが1つとは限らない作品が多いと思うんですよ。つまり、文脈や背景、読み取り方の角度や強調によって答えが複数存在している作品。
 だから1つの答えを想定して正解か不正解かって捉えるよりも、いろんな側面から作品を観るほうが、複雑さや多面性をより引き出せるような気がしますね。

対面講座とオンライン講座の違いは、余白

ー先生には愛媛俳句・文学講座と俳句史講座を担当していただいていますが、2つの講座の違いを教えてください。

 対面で行っている『愛媛俳句・文学講座』は、愛媛各所に関する文学を元に、土地の雰囲気や地方によって異なる文化を主にお伝えしています。
 一方の『俳句史講座(オンライン)』は、近代から現代にかけての俳句史上重要な人物を、時代ごとに取り上げて解説しています。

 あと講座の形式が対面とオンラインでは、進め方・やり方がだいぶ違いますね。
 対面とオンラインで同じ内容の講義をやっても、かなり違う形になるんじゃないかなと感じています。

ー具体的には、どんなところに違いがあるんですか。

 基本的なことはもちろん変わらないんですけど、時間の流れが違うんですよ。

 対面だと、その場の雰囲気や受講生の雰囲気を見ながら内容を調整・対応して、臨機応変に伝える情報を変更しているんですが、オンラインはそれがほぼできない。
 特に講義形式になると、こちらの一方通行で進んでしまうので、想定している情報のみを提示することになるんです。
 仮に、対面で生じる様々なその場の雰囲気を”余白”とすると、オンラインだとそれがほぼない状態になってしまう。
 その”余白”をどう生み出すかが、オンラインの工夫のしどころだと思います。

バラエティー豊かな愛媛の文化

ー愛媛は地方によって大きく文化が違うんですか。

 極端ですが、最東端の川之江は香川の文化に近く、最南端の愛南町は高知の文化に近いですね。
 まあ、そういう極端な例だけじゃなく小さいことも含めて地域によってだいぶ違いますし、東予・中予・南予の中でも地域によってかなり違います。

 中予だと、山間部の久万高原町や砥部町と沿岸部の北条。
 東予だと、藩があった西条市と住友家の銅山で栄えた新居浜市。行政区分上、今治市になっている伯方島と瓦が有名な菊間町。
 でも、伯方島と岩城島は行政区分が今治市と越智郡上島町で違うのに、文化はかなり近い。

 じゃあどうして同じ地域で違いがあったり、違う地域で似ているんだろうって考えた時に、重要になってくるのが交通網なんです。

 伯方島や岩城島は、船の交通網で瀬戸内独自の文化を発展させましたが、同じ船でも南予の八幡浜市は、九州との関係が濃かったので九州の文化がかなり入っています。
 もう1つ、自動車や飛行機が発達する前の徒歩や船の時代は、山や峠が大きなハードルだったんです。
 地図で観たらすごく近い距離でも越えるのが難しい山があると、文化はそこで断絶してしまう。逆に、歩いて行きやすいところは近い文化になりますね。

 そうやって1つずつ調べていくと、愛媛県って高知や山口、広島とかいろんなところから影響を受けていることが分かって、調べれば調べるほどおもしろいです。
 また俳句や文学には、愛媛各地を舞台にした作品や愛媛の雰囲気を描いた作品がかなりあるんです。しかも、著名な俳人や文学者などには愛媛出身者が多く、生まれ育った郷里について語っていたり、作品にも登場します。
 そういう愛媛ゆかりの作品や出身者について調べると、愛媛だけでも数多くの発見や研究ができますし、作品を楽しみながらフィールドワークもできる
 愛媛各地を描いた作品を読んだり、見たりしながら、舞台となった土地を実際に歩くのは何ともいえない贅沢なひとときです。

ー東予・中予・南予それぞれの中でも、文化の違いがあるんですね!

 そうですね。 
 更に言えば、東予・中予・南予って分け方をされますけど、江戸時代に伊予国いよのくにに8つの藩があったことから、伊予八藩という考え方もあって、藩の意識って今でも意外に残ってるんですよ。
 例えば大洲藩と新谷藩はとても近くにあって今では同じ大洲市ですが、新谷の方は今でも「大洲とは違う、新谷の人間だ」って意識をもってらっしゃる方が少なくない。

 他にも、松山藩は徳川系の親藩なんですけど、宇和島は外様大名とされた仙台出身の伊達家が治めていたところなので、宇和島は他の藩と全く違う文化をもっているんです。
 今では宇和島の文化になっていますけど八ツ鹿踊りや牛鬼は、東予や中予で見ない独自の文化ですよね。

 こういう、現在に至るまでの愛媛県の成り立ちが、県内文化のバラエティーの豊かさに繋がっているのかなという気がします。

自分の好きな世界を言葉で表現する

ーこれから俳句を始めようと思っている方へ、アドバイスをお願いします。 

 まずは気負わずに、自分が詠んでみたいことを言葉にしてみるのが、大事な第一歩かなと思います。

 慣れてきて、自分の俳句が他人にどう読まれるのか知りたいなと思ったら、インターネットのメール句会に参加したり、いろんなところへ投句するのもいいですね。あるいは、地元の句会に参加してみるとか。

 あと、俳句作品そのものに関心があるのなら、今までどういう人たちがどのような作品を詠んできたのか、図書館や本屋さん、インターネットで読んでみるといいですね。
 先人たちがいろんなタイプの句を詠んでいるので、自分が好きだなと思える作品にきっと出会えます。
 作品を知れば知るほど、「あ、こんな風に詠んでいいんだ」とか「自分はまさにこういう世界が好きだな」と、新たな気づきがどんどん増えていき、多くの作品に触れることで、自分の生きている世界や生活の見方・感じ方をよりきめ細やかに、豊かにするきっかけになるんですよ。


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