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房室ブロックを深堀する

問1 34歳男性。動悸精査のためのホルター心電図。就寝中の心電図。

正しい病名を一つ選べ。

  1. 1度房室ブロック

  2. ウェンケバッハ型ブロック

  3. モビッツⅡ型房室ブロック

  4. 高度房室ブロック

  5. 完全房室ブロック





~解答解説~

正解:2

QRSの脱落を認めます。ポイントは脱落がどう脱落しているのか、です。よく見ると脱落直前にP波があり、続くQRS波が脱落しています。洞不全症候群であればP波ごと脱落するので、P波があるのにQRS波がついてこれないということは房室ブロックをまずは疑います。次に見るべきはQRS波を伴わないP波は洞調律のP波なのかという点です。本症例はホルター心電図なので厳密に洞調律かはわかりませんが、洞調律に矛盾しないP波の極性だとした場合、PP間隔は一定であるため、このP波は洞性P波である可能性は高いです。洞調律なのにQRS波が1拍分脱落するのは2度の房室ブロックの所見です。2度の房室ブロックにはウェンケバッハ型とモビッツⅡ型房室ブロックがあります。この鑑別はQRS波が脱落する際にPQ延長を伴うかどうかです。徐々にPQ間隔が延長して最終的に脱落してしまうのであれば、ウェンケバッハ型、PQ延長を伴わずに突然のQRS波の脱落があるならばモビッツⅡ型の房室ブロックです。本症例は洞性P波にPQ延長を伴って脱落するQRS波を認めるため、ウェンケバッハ型房室ブロックと診断します。

 

~刺激伝導系と体表心電図

心臓を動かす電気の流れである刺激伝導系は洞結節、心房、房室結節、ヒス束、左右脚、プルキンエ線維、心室筋の順に伝導します。心筋に電気が流れ、細胞が興奮して収縮することを脱分極といいます。興奮した後にまた心筋が元に戻っていくことを再分極といいます。一方、体表心電図ではP波、QRS波、T波があります。P波が心房の興奮、QRS波が心室の脱分極、T波が心室の再分極に一致します。ここのポイントは洞結節や房室結節の興奮は局所的すぎて体表心電図では見えないという点、PQの間には房室結節、ヒス束、脚の興奮が隠れているという点です。つまり、洞不全症候群であれば心房の脱分極であるP波ごと消失することで洞不全を診断していきます。房室ブロックであれば房室結節の異常なのでPQ間に異常が出てきます。後の病態の理解にも重要なのでよく覚えておいてください。


~房室ブロック~

房室ブロックとは何らかの理由で房室結節が障害され、心房と心室が正常伝導できなくなっている疾患です。房室ブロックにはタイプがあり、それぞれ全然違う波形となります。皆さんは正しく房室ブロックを理解して診断することができますか。おそらく最も簡単でイメージしやすいのは、3度房室ブロックである完全房室ブロックなのではないでしょうか。これは言葉の通り、完全に心房と心室の伝導である房室伝導が完全に遮断されており、P波とQRS波が別々に興奮している状態です。一番大事なのは房室ブロック=PQの異常であることです。

房室ブロックの分類

房室ブロックの分類は一般的には3つです。しかし、本質的にはもっとたくさんあります。これを読んでいただいている方はぜひ今後のためにも房室ブロックを本質から理解して正しく診断できるようになってください。よく教科書に書いているのは

1度房室ブロック=PQ間隔が延長している

2度房室ブロック=たまに脈が脱落する

3度房室ブロック=心房と心室の興奮がバラバラになっている

こう覚えている人は要注意です。この覚え方は房室ブロックでなぜこうなるかがわかっていない人の覚え方です。

何度も言うように房室ブロックはPQ間にあるはずの房室結節の伝導障害です。なので、障害度が軽度だと伝導遅延するだけですが、高度になってくると伝導が途絶することが多くなり、最重症だと完全に伝導できなくなるというわけです。そして2度と3度のブロックの間にはさらにいくつか種類がありますので、まとめて覚えましょう。伝道の度合いで分類されているだけなので、難しいことはありません。


1度房室ブロック

1度房室ブロックだと房室の伝導遅延は起こしますが伝導はするため、QRS波の脱落はありません。PQ間隔が多少定義にばらつきはありますが、0.2秒以上であれば1度房室ブロックと診断します。

2度房室ブロック

2度房室ブロックにはウェンケバッハ型とモビッツⅡ型の房室ブロックがあります。違いはPQが徐々に延長するかどうかです。徐々にPQ延長とともにQRS波の脱落があればウェンケバッハ型、PQ延長を伴わず突然のQRS波の脱落があればモビッツⅡ型の房室ブロックと診断します。房室伝導できなくなったものが1拍だけ抜けるというのが2度房室ブロックです。ウェンケバッハ型房室ブロックは健常人でも出現することがありますので、症状がなければペースメーカの適応にはなりません。モビッツⅡ型の房室ブロックより重症な房室ブロックはペースメーカの適応となります。

洞性P波からのQRSの1拍脱落を見れば2度房室ブロックを疑います。そしてこの2つの鑑別の最も大きなポイントは「QRS波が脱落する直前後のP-QRS波のPQ間隔を比べること」です。ウェンケバッハ型房室ブロックであれば、最もPQが延長しているところと短縮しているところを確認できるので一目瞭然です。脱落したQRS波の前後のPQ間隔に変化がなければモビッツⅡ型房室ブロックを疑います。

2対1房室ブロック

言葉の通り、2回に1回QRSが出現する房室ブロックです。2回に1回つながらないとも言えますし、2回に1回伝導できるとも言えますので、少し特殊な状態です。どちらにしても2度以上のブロックということになりますので、ペースメーカの適応です。

高度房室ブロック

QRSが出現するP波よりも伝導が障害されてP波しかない波形の方が多い状態です。2拍以上連続してQRS波が脱落すれば高度以上の房室ブロックになります。逆に言うと一度でも房室伝導が確認できれば完全房室ブロックではなく、高度房室ブロックになります。発作性に房室ブロックが出現する場合もこれに当てはまります。場合によっては補充調律が全く出ず、失神の原因となりますし、完全房室ブロックより症状が強いこともあります。原則、ペースメーカの適応です。

3度房室ブロック(完全房室ブロック)

いわゆる完全房室ブロックです。これは言葉通り、完全に伝導が遮断されているため、心房と心室は完全に別々に興奮することになります。こちらも原則ペースメーカの適応です。



~モビッツⅠ型とⅡ型って何~

 2度房室ブロックはウェンケバッハ型とモビッツⅡ型があります。当書籍では実はずっとモビッツ型ではなく、モビッツⅡ型と一貫して書いています。実はモビッツⅠ型房室ブロックとはウェンケバッハ型房室ブロックのことを指します。なので、ウェンケバッハ型とモビッツⅡ型で分けています。

~ウェンケバッハ型房室ブロックでPQが延長する理由~

なぜウェンケバッハ型房室ブロックではPQが徐々に延長するのか、なぜ健常人でもウェンケバッハ型房室ブロックを起こすことがあるのか。ポイントは房室結節が減衰伝導という特性を持つということと自律神経の影響を受けるということです。減衰伝導特性とは短い間隔で心房から刺激が来ると、同じ速度で処理しきれずに興奮を心室に送るのに時間がかかってしまうという現象です。この現象は房室結節でしか起きません。つまりウェンケバッハ型房室ブロックは房室結節の異常です。そしてこれは自律神経の影響によって健常人でも起きます。ゆえにこれ自体は危険性が低く、直ちにペースメーカ植込の適応にはなりません。ちなみにウェンケバッハ型房室ブロックにおいて、脱落するまでのRR間隔は徐々に短くなっていきます。これはPQ間隔の延長によって次のQRS波にどんどん近づいていくためです。

一方、モビッツⅡ型房室ブロックは突然PQが脱落します。減衰伝導をしないということは房室結節よりさらに下位であるヒス束近傍でブロックが起きていることを示唆します。ヒス束以下での伝導障害は高度房室ブロックへの進行リスクが高く、普通は起き得ません。ゆえにモビッツⅡ型房室ブロック以上の高度の房室ブロックはペースメーカの適応となります。

~3枝ブロックからの完全房室ブロックは危険~

3枝ブロックは完全房室ブロックとは異なりますが、完全房室ブロックのリスクになります。しかも、3枝ブロック患者の完全房室ブロックの進行は危険です。なぜだかわかりますか。ヒントはどこから補充調律が出うるかということです。3枝房室ブロックがわかっているということは脚のレベルで伝導が途絶しているということであり、それ以下からしか補充調律が出せません。つまり、心室からの補充調律しかなく、循環動態が維持できないことが多いからです。ゆえに3枝ブロック患者では完全房室ブロックへの進行に注意が必要なのです。

~本当に完全房室ブロックのPPとRRは一定なのか~

以前、完全房室ブロックですがPP間隔とRR間隔が一定じゃないので違うのですか、と質問を受けました。完全房室ブロックの説明にPP間隔とRR間隔が一定の間隔かつ、別々に興奮するものである、と解説されているものも確かにあります。間違ってはいませんが、本質をとらえていない説明ですね。完全房室ブロックは房室結節の房室伝導、つまり上から下への順行伝導が完全になくなることにあります。’PQの関連性’がなくなったために心房(PP間隔)と心室(RR間隔)が別々に興奮しているいうことを理解してください。なのでP波がきちんと出ているにもかかわらず、QRS波が完全に追従できていないのであればそれは完全房室ブロックです。

実は完全房室ブロックでPP間隔やRR間隔が不整になることはよくあります。RR間隔に関しては下位調律になるほどに補充も不安定になり、RRがフッと延びたりします。怖いですね。PP間隔も一定ではないことがあります。これを心室相性洞不整脈(ventriculophasic sinus arrhythmia)といいます。これは心室収縮を挟むことによる心房内圧の上昇や血行動態の変化によって、QRS波を挟んだPP間隔はQRS波を挟まなかったPP間隔よりも短くなるという現象で、高度房室ブロックの40%程度に見られます。非常にレベルの高い用語なので、無視していただいても構いません。完全房室ブロックの診断においてPP間隔とRR間隔が一定であることは必ずしも必要条件ではないということをご理解ください。

 

~徐脈性不整脈のシンプル鑑別法~

徐脈性不整脈は主に洞不全症候群と房室ブロックです。最初の脈のスイッチがやられるか、途中の伝導のゲートがやられるかのどちらかです。どちらも脈が遅くなったり、突然QRS波が脱落したりしますが、P波ごと脱落するか、Pの後のQRS波が脱落しているか大きなポイントです。洞不全症候群ではP波ごとなくなり、RRの間のP波が減少します。房室ブロックではP波に続くQRS波のみが欠落し、RRの間のP波はQRS波より多くなります。気をつけないといけないのは非伝導性上室期外収縮です。一見するとP波に続くQRS波の脱落に見え、2度房室ブロックと勘違いします。きちんとPP間隔を測定して脱落時のP波が洞性P波であることを確認しましょう。



問2 88歳男性。ふらつきのため受診。

正しい病名を一つ選べ。

  1. 1度房室ブロック

  2. ウェンケバッハ型房室ブロック

  3. モビッツⅡ型房室ブロック

  4. 高度房室ブロック

  5. 完全房室ブロック

 



~解答解説~

正解:5

心拍数は約40bpmの徐脈です。QRS波の間にはいくつものP波を認めており、P波があるのに伝導できていない房室ブロックを疑います。さらに房室ブロックの中でもPQに関連性は認められず、全く伝導できていないことから完全房室ブロックと診断します。

~完全房室ブロックのペースメーカはいつ入れる?~

 完全房室ブロックは原則ペースメーカの適応です。ただし、その時の状態には個人差があります。刺激伝導系は会社や病院と同じで指示系統が上から順番に決まっています。そして上からの指示が何らかの異常により来なくなると現場は困ってしまうため、その場のトップが代行して指揮を執るようにプログラムされています。これを補充調律といいます。もし洞不全症候群で洞調律がなくなれば、房室結節などからの接合部補充調律や心室筋から心室補充調律が出現します。房室ブロックになった場合も、それより下位から調律が出るようになります。問題になるのはどこから出ているかという点です。より上位からの補充が出るほどナローQRS波であり、心拍数も保たれていることが多いです。接合部からの調律であれば比較的ナローQRSで心拍数も40-50bpm程度あり、循環動態も維持されていて何なら症状がない人もいます。このような人であれば完全房室ブロックとはいえ、夜中に緊急で恒久的ペースメーカ植込をせずとも翌朝人員を確保して安全に手技に臨んだ方がよさそうですよね。一方でより下位である心室からの調律である場合はワイドQRS波となり、心拍数も30-40bpm程度、循環動態が破綻して血圧低下や心不全になっていることもあります。このような場合であれば緊急で恒久的ペースメーカを植込むか、一時ペーシングで心不全を治療してから治療することも考慮します。心不全の状態でさらに負担をかけるもの危険ですし、心不全になっている時は心肥大を起こしているので、心不全が治ればリードの位置が変わってしまう可能性もあります。完全房室ブロックを見つけたら、診断だけでなくどこから補充調律が出ていて、循環動態が維持されているかどうかをまず確認しましょう。本症例では心拍数は30bpm程度しかありませんがナローQRS波のため、接合部あるいはそこからもう少し下位からの補充調律が疑われます。心室調律では基本的にワイドQRS波になります(左右の心室から同時に補充調律が出ればナローQRS波になることはあり得るかもしれませんが、それは考慮する必要がないほどの確率と考えますね)。


Dr. 藤澤
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