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脚ブロックを攻略する 

問1 88歳男性。高血圧にて近医かかりつけ。たまにふらつくとのことで受診。

正しい病名を一つ選べ。

  1. 異所性調律

  2. 左右付け間違え

  3. 左軸偏位

  4. 右脚ブロック

  5. 異常Q波





~解答・解説~

正解:4

 

 V1でrsR’、V6でS波のスラーがあることから右脚ブロックと考えます。P波はⅠ、Ⅱ誘導で陽性であることから洞調律と考えます。異常Q波とは幅1mm以上で深さがRの1/4以上あるQ波のことです。ここではそのようなQ波は見られません。他については一つずつ後述します。

~軸偏位~

 まずは軸偏位についてです。意外とピンと来なくて苦手という人もいるようです。特定の疾患を鑑別できるわけではなく、極論知らなくても臨床的に困ることはないので、どうしても勉強の優先度が低くなりがちです。しかし、ベクトルを理解すれば、3秒で軸偏位は判断可能です。あまり、注目されないところだからこそびしっと判断して周りに教えてあげましょう。軸とは心室の興奮の方向をベクトルで示したものになります。

→を0度、↑が-90°、↓が+90°です。軸偏位を見るにはまずQRS波の振幅の総和で判断します。R波は陽性成分、Q波とS波は陰性成分として計算します。つどQ波と、R波と、S波を足すのではなく、最大陽性成分と最大陰性成分を足してください。足したものが0より多ければ陽性、0より少なければ陰性です。振幅の計算方法がわかったところでⅠ、aVfを確認します。Ⅰ誘導は右から左に横に陽性、aVf誘導は上から下に縦に陽性です。ⅠとaVfが陰性であれば北西軸と言って、正常とは真逆の方向になります。通常はあり得ないベクトルであり、何らかの心疾患の存在を疑います。Ⅰ誘導が陰性で、aVf
が陽性で合った場合は右軸偏位と診断します。若年であれば正常でもなりえますし、何らかの右心系の病気があれば右軸偏位になることもあります。Ⅰ陽性、aVf陽性であれば正常範囲です。

 左軸偏位に関しては少し複雑です。左軸偏位は図を見ればわかるように、実は左軸偏位は軸が左にずれることではなく、上にずれているということになります。これは通常ではありえません。なぜなら心臓が(電気的に)逆立ちしていることになってしまうからです。Ⅰ誘導で陽性、aVfで陰性であれば左軸偏位なのは間違いありませんが、その中に正常範囲と言えるものも含まれてしまいます。完全に十字で分けられれば判断しやすいのですが、この0~-30°が曲者になっています。心臓が立体で移動するものであるため、ある基準で見れば左軸偏位でも別の基準で見れば左軸偏位ではないなど微妙な判定が出ることはどうしてもあります。鑑別方法としてわかりやすいものから3つ解説します。


①これは一番簡単です。

Ⅰ誘導のQRS波の総和が陽性、Ⅱ誘導のQRS波の総和が陰性を示す領域がこの下図の赤の領域になります。これはⅡ誘導がこの‐30°の線に直行するような向きになるためです。これを知っていれば一瞬ですね。

②はⅠと-ⅢのQRS波の波高値を比較します。その分だけベクトルを伸ばして、そこからベクトルの垂線をぶつかるように引いていき、ぶつかったところが心臓のベクトルになります。Ⅲの陰性成分がⅠ誘導よりも大きい場合、‐30°よりも左軸に左軸に振れていきます。

③は少し計算が必要です。30°を含む直角2等辺三角形を想定すると、横(Ⅰの振幅総和)は縦(-aVfの振幅総和)の√3倍(=約1.5倍)の長さであることになります。なのでaVfの振幅の総和×1.5がⅠよりも大きければ左軸に振れているということになります。

~脚ブロック~

 脚は刺激伝導系の一部であり、His束を通った興奮が心室に伝わる際に通る伝導路です。さて脚は何本あるか知っていますか。右脚・左脚の2本と習った人がいるかもしれません。でも、ぜひこれを読んでいる皆さんは脚は3本あると理解してください。脚は右脚、左脚前枝、左脚後枝の3本があります。それぞれがブロックされれば右脚ブロック、左脚前枝ブロック、左脚後枝ブロックの1枝ブロックとなります。さらにその組み合わせにより、2枝、3枝ブロックというものも存在します。

右脚ブロック(1枝ブロック)

まず1枝ブロックから説明します。右脚ブロックは右脚の伝導障害です。右脚は右室に向かう伝導路であり、これによって右室の興奮は左脚を通ってきた伝導が回り込んできて右室を興奮させます。回り込んでくる電位は刺激伝導系を通っていないので、時間がかかってしまいます。結果右脚ブロックは前半部分は正常伝導なのでナロー、後半部分がワイドなQRS波になります。全体としてQRS幅が120ミリ秒を超えれば完全右脚ブロック、120ミリ秒を超えずに、右脚ブロック波形を呈すれば不完全右脚ブロックといいます。V1から見ると右脚ブロックは最後に大きく左脚から向かってくるので、後半部分にR’が確認できます。逆にV6から見ると大きく離れていくので、S波のスラーとして確認できます。

左脚前枝ブロック(1枝ブロック)

左脚前枝ブロックは左脚前枝の伝導障害です。特徴としては3つあります。


①左脚前枝が障害されることで後枝から遅れて興奮が伝わるために、高度の左軸偏位になります。-45度以上を見る軸偏位の計算方法はⅠとaVfを確認します。それぞれのQRS波の最大振幅と最小振幅を足したものがその誘導のベクトルになります。Ⅰ誘導の振幅の総和の陽性成分とよりもaVf誘導の振幅の総和の陰性成分の方が大きかった場合、強い左軸偏位になります。


 ②③に関しては前半部分は正常伝導のため、中隔部分の興奮が最初に小さく見えます。つまり下壁心筋梗塞などによってⅡ、Ⅲ、aVfで異常Q波が見えていない場合は、総和が陰性で強い左軸偏位の領域になっても左脚前枝ブロックとは言いません。あくまでこれは心筋梗塞による異常Q波による軸偏位という扱いになります。

左脚後枝ブロック(1枝ブロック)

左脚後枝ブロックは左脚後枝の伝導障害です。特徴としては3つあります。前枝と逆に近いイメージです。

 ①左脚後枝が障害されることで前枝から遅れて興奮が伝わるために、高度の右軸偏位になります。軸偏位の計算方法は先ほどと同様にⅠとaVfを確認します。Ⅰ誘導の振幅総和が陰性、aVf誘導の振幅総和が陽性であれば右軸偏位と診断します。

②③に関しても先ほどの前枝ブロック同様の考え方で前半部分は正常伝導のため、中隔部分の興奮が最初に小さく見えます。波形は逆になりますので、覚えにくいと思うかもしれませんが、前枝ブロック=左軸偏位、後枝ブロック=右軸を覚えておけばrSなのかqRなのかはその軸偏位をきたす方に振幅が触れていると考えればわかりやすいでしょう。前枝ブロックは左軸偏位なので下壁誘導でrS、後枝ブロックは右軸偏位なので側壁誘導でrSです。

 判定が難しいところはあるのですが、一応高度右軸偏位の鑑別の仕方をお伝えします。

 ①Ⅲは+120°の誘導であり、-aVlは+150°の誘導となります。aVlの陰性成分の方がⅢの陽性成分よりも大きい場合、より右軸に振れているということになります。また、Ⅲの陽性成分が一番大きければ近辺にベクトルがあるということになりますがaVfと-aVlを比較してaVlの陰性成分の方が大きければ+120°よりも右軸に振れていると考えます。

②は少し雑ではありますが、臨床では十分に応用できます。シンプルにⅠの振幅の総和(陰性)とaVfの振幅の総和(陽性)を比べて-Ⅰの方が大きければ少なくとも+135°以上に右軸に振れているということになります。

左脚ブロック

まず左脚ブロックが1枝ブロックだと思っていた人は認識を改めましょう。左脚は分岐して前枝と後枝があります。分岐前に障害されているか、2枝が両方別々に障害されているかのパターンがありますので、左脚ブロックを2枝ブロックと呼ぶかどうかは議論があります。どちらにせよ左脚ブロックは左脚の2枝の伝導が障害されているために起きます。この障害によって左室の興奮は、右脚を通ってきた伝導が回り込んできて左室を興奮させます。回り込んでくる電位は刺激伝導系を通っていないので、時間がかかってしまいます。結果左脚ブロックは右脚ブロックと同様に、前半部分は正常伝導なのでナロー、後半部分がワイドなQRS波になります。左脚ブロックにおいてはQRS幅が120ミリ秒未満の不完全左脚ブロックとは言いません。120ミリ秒を超えたもののみ完全左脚ブロックとして表現します。V1から見ると左脚ブロックは最後に大きく右脚から離れていくので、後半部分に深いS波が確認できます。逆にV6から見ると大きく向かってくるので、2峰性のRとして確認できます。

 

~脚ブロックは対称の波形である~

 脚ブロックを覚えられないという人に朗報です。どちらかだけ覚えれば何となくの形はわかります。なぜなら脚ブロックの伝導は対になっており、V1とV6も逆から見たものと考えれば、逆の逆は似たような波形になっているからです。つまり、右脚ブロックのV1と左脚ブロックのV6では後半に高いR、右脚ブロックのV6と左脚ブロックのV1では深いS波が見られます。

~非特異的心室内伝導障害~

 上記のようにV1とV6で典型的な波形を認めれば右脚、あるいは左脚ブロックと診断します。そしてどちらの条件も満たさないにも関わらず、ワイドQRS波を呈している場合を非特異的心室内伝導障害といいます。例えばV1では右脚ブロック様のrsR’なのに、V6では左脚ブロック様の2峰性のR波を呈しているなどが当てはまります。

2枝ブロック

前述の通り、左脚ブロックは広い意味で2枝ブロックと考えるほうがまとまりやすいですが、一般的に2枝ブロックというと右脚+左脚前枝ブロックと右脚+左脚後枝ブロックのことを指します。条件は両者を合わせたものです。つまり右脚+左脚前枝ブロックだと完全右脚ブロック+左軸偏位、右脚+左脚後枝ブロックだと完全右脚ブロック+右軸偏位になります。

3枝ブロック

 最後に3枝ブロックです。これの最も紛らわしいポイントは言葉にあります。脚が3つともブロックされて伝導されなかったとしたら、これは完全房室ブロックになります。ところが3枝ブロック=完全房室ブロックではありません。これを勘違いしている人が多いです。3枝ブロックとは前述の2枝ブロックに200ミリ秒以上のPQ延長を伴った状態を指します。つまりこれは2枝がブロックされていて、1枝が伝導遅延を起こしながらもぎりぎりでつながっている状態なのです(2.5枝ブロックみたいな感じです。逆にわかりにくいですかね)。ただし、これも結局は最後の1枝の伝導が途絶すれば完全房室ブロックになるため、リスクが高い状態であることには変わりがありません。なのでみかけたら定期的な心電図フォロー、失神などの徐脈を疑うような症状がないかを確認する必要があります。

~まとめ~

 右脚ブロックは一般的には経過観察でいいと教わったと思います。でも説明したほうに軸偏位などがあると複数の脚ブロックからの房室ブロックのリスクが隠れていることがありますので、注意が必要です。自動測定でも見落とされることもありますので、右脚ブロックをみたらほっといていい、ではなく軸偏位やPQ間隔を確認するようにしましょう。


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Dr. 藤澤
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