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フィットネスのプログラムをどうデザインするか(備忘録)

最近自分の中で迷走してきたので、ちょっと整理。
自分が見てる競技(ラグビーとアメリカンフットボール)についての話しかしてないので、それ以外の競技に当てはまるかは知らないです。


まず何から考えるか

トレーニングのモダリティについて

少なくともラグビーやアメフトではインターバルトレーニングがメインで良いか。長々走るのはあんまりしないし……
たまーにするけど、するにしてもオフシーズン初期の強度が上げづらい時くらい。

インターバルトレーニングの考え方については、HIIT Scienceが出しているHIIT weaponのコンセプトがすごく良い。
有酸素性機構の関与の有無、無酸素性機構の関与の有無、神経筋ストレスの有無などから考えようというやつ。

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ひとくちにインターバルトレーニングといっても色々な種類があるので(そもそもインターバルトレーニングじゃない選択肢だってありえる)、こういう指標があると良いかも。

例えば自分がかかわっている競技で言えばだいたいtype #4になるかなーといったところなので、おおよそ色々なモダリティが使えそう。
SITは当てはまらないというくらい?まあ競技特性的にもあまり使わないか。。

SITとRSTって何が違うの?

これもよくごっちゃになってしまうのでメモ(冷静に考えれば全然違うけども)。

RST(repeated sprint training; 反復スプリントトレーニング)は<10秒の全力スプリントと<60秒のインターバルを繰り返すトレーニング、
SIT(sprint interval training; スプリントインターバルトレーニング)は20~30秒とちょっと長めの「オールアウト」式のワークアウトと2~4分のインターバルを繰り返すトレーニング、らしい(Laursen & Buchheit, 2019)。

SITの「スプリント」は必ずしも走動作のスプリントと同義とは限らず、例えばエルゴメーターによる実施でも該当する。
ポイントは、いわゆるHIITよりも運動の強度が高く、VO2maxや最大パワーをもたらすペースよりも速い運動が行われるという点にあるのだろう(Atakan et al., 2021; Coates et al., 2023)。

ただしこの辺はコンセンサスが得られているわけではないので、文献によって差がありそう。なので文献を読むときは要注意か。


インターバルトレーニングの効果について

インターバルトレーニングは(少なくとも研究レベルでは)多くの恩恵をもたらしてくれる。この辺は多くの二次研究(systematic review & meta-analylsis)があるので、その全部はここでは紹介していない。

高強度インターバルトレーニング(HIIT)

例えば健常な成人を対象とした研究では、短期/長期的なHIITによる介入がVO2maxを有意に増加させ、さらに肥満/過体重の被検者ではいくつかの心血管疾患のリスク因子を低減させることが示されている(Batacan et al., 2017)。

また、肥満の被検者が多くプールされたメタ分析では(この研究での被検者のBMI値は25.4±2.4~38.2±7.9であり、2件を除いた全ての研究で肥満/過体重の患者が採用されていた)、HIITは総脂肪量および腹部脂肪・内臓脂肪を有意に低下させることが示されている(Maillard et al., 2018)。
このような体組成に関する効果は、少なくとも過体重や肥満の人に対しては中強度での持続的トレーニングとHIITで同程度の効果をもたらすことができるようである(Wewege et al., 2017)。

スプリントインターバルトレーニング(SIT)

上述したように、SITはHIITの一形態であるが、その強度の違いなどから運動中の生理的変化も異なる動態を示すようである(Wood et al., 2016)。

SITは健常な成人のVO2maxを向上させるのに有効な手法であるが(Sloth et al., 2013)、その効果はHIITと同程度である可能性がある(de Oliveira-Nunes et al., 2021)。

〇kmのランニングやサイクリングなどのタイムトライアルパフォーマンスに対しては、SITよりも特にロングインターバルトレーニングの方が効果的である可能性がある(Rosenblat et al., 2020)。

反復スプリントトレーニング(RST)

RSTは多くのスポーツで見られるような、間欠的な回復を含めながら繰り返し全力のスプリントを行う能力(すなわち反復スプリント能力(RSA))を向上させるのに有用であると考えられている(Bishop et al., 2011)。

Thurlowらのメタ分析では、このようなRSTが10/20m走やYo-Yo IR1の総走行距離、CMJ高、RSA、COD能力などに対してポジティブな影響を与えることが指摘されている(Thurlow et al., 2023)。


トレーニングプログラムを組み立てる

インターバルトレーニングのプログラムを組み立てる時に考えるべき変数は最大で9つあるとされる(Buchheit & Laursen, 2013)。

インターバルトレーニングで考慮すべき変数。
図はBuchheit & Laursen (2013)による。
  • ワークアウト(Work)の強度、持続時間、モダリティ(どのような運動を行うか)

  • インターバル(Rest)の時間と強度(activeかpassiveか)

  • 1シリーズ(セット)の持続時間(WorkとRestを何回繰り返すか)

  • 1セッションで行うシリーズ(セット)の数

  • シリーズ(セット)間の時間と運動強度(activeかpassiveか)

これらを適切に設定することで、上述したような様々な側面に特異的なインターバルトレーニングを実施することができるようになる。

これらの変数に関する具体的な考慮事項についてはこれまでに多く参照してきているBuchheitとLaursenによるレビューを参照されたい。

T@VO2maxのコンセプト

BuchheitとLaursenによるレビューおよび著書では、心血管系や末梢への適応を最大化するためにはVO2maxの90%以上に達する強度を可能な限り長く維持することが必要であることを強調しており、この強度での運動持続時間をT@VO2maxと定義している(Buchheit & Laursen, 2013①②; Laursen & Buchheit, 2019)。

VO2maxは主に有酸素性機構に関する生理学的指標であるが、無酸素性の高強度身体活動からの回復能力に有酸素性能力が関係している可能性や(Tomlin &Wenger, 2001)、反復スプリント時のピーク/平均パフォーマンスとの関連を示す研究結果を考慮すれば(Archiza et al., 2020)、無酸素性代謝機構が主になる競技アスリートであってもVO2maxを高めるという観点はある程度必要になる。

実際にいくつかの変数設定での予想されるT@VO2maxについてはBuchheitとLaursenによるレビューで解説されている(Buchheit & Laursen, 2013②)。
例えば、

  • 100~120%vVO2maxで≧15秒work

  • <15秒のpassiveなrecovery

  • ≧8分間W⇔Rを繰り返すのを1セットとして、2〜3セット

  • セット間を≧4~5分、≦60~70%vVO2maxのactive recovery

で実施すると、予測されるT@VO2maxは≧10分になる。

チームスポーツではT@VO2maxは5~7分あれば十分であるという指摘を考慮すれば(Buchheit &Laursen, 2013①)、理想的にはそのあたりになるように変数を調節する必要がある。

競技特異性とどう折り合いをつけるか

競技アスリートにとってはT@VO2maxを意識してVO2maxを向上させることはパフォーマンス向上のための一要素でしかなく、最終的には競技パフォーマンスを高めるためのコンディショニングとしてインターバルトレーニングを行う必要がある。

したがって、実際の競技における生理学的変数を考慮することは必要になるだろう。
例えばアメリカンフットボールであれば(当然変動はあるだろうが)、1プレーは約5秒であり定期的に25〜40秒の「ハドル」が入ることから(Hoffman, 2015)、多くはATP-PCr系が反復的なパフォーマンス発揮に寄与していると考えられる。

また、どの程度走行しているのかも考慮する必要があるだろう。例えば同じアメリカンフットボール選手であっても、試合中の高強度〜最大速度に近い速度での走行距離はOL(オフェンシブライン)では150m程度であるのに対して、WRでは1,000mにも上る(Wellman et al., 2016)。

>23km/hの強度での走行距離とイベントの回数(平均値)。数値はWellman et al. (2016)による。

このような情報があれば、それぞれの変数についてより競技特異的な設定をすることができるだろう。例えばWRではRSTが有効かもしれないが、OLではRSTの割合を少し減らして非ランニング系のショートインターバルを行う方が、生体への負荷という観点からも良いかもしれない。

アメリカンフットボールの競技特性についてのさらなる情報は↓の拙記事を参照されたい。


References

  • Archiza B, Andaku DK, Beltrame T, Libardi CA, Borghi-Silva A. The Relationship Between Repeated-Sprint Ability, Aerobic Capacity, and Oxygen Uptake Recovery Kinetics in Female Soccer Athletes. J Hum Kinet. 2020;75:115-126. Published 2020 Oct 31. doi:10.2478/hukin-2020-0042

  • Atakan MM, Li Y, Koşar ŞN, Turnagöl HH, Yan X. Evidence-Based Effects of High-Intensity Interval Training on Exercise Capacity and Health: A Review with Historical Perspective. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(13):7201. Published 2021 Jul 5. doi:10.3390/ijerph18137201

  • Batacan RB Jr, Duncan MJ, Dalbo VJ, Tucker PS, Fenning AS. Effects of high-intensity interval training on cardiometabolic health: a systematic review and meta-analysis of intervention studies. Br J Sports Med. 2017;51(6):494-503. doi:10.1136/bjsports-2015-095841

  • Bishop D, Girard O, Mendez-Villanueva A. Repeated-sprint ability - part II: recommendations for training. Sports Med. 2011;41(9):741-756. doi:10.2165/11590560-000000000-00000

  • Buchheit M, Laursen PB. High-intensity interval training, solutions to the programming puzzle: Part I: cardiopulmonary emphasis. Sports Med. 2013①;43(5):313-338. doi:10.1007/s40279-013-0029-x

  • Buchheit M, Laursen PB. High-intensity interval training, solutions to the programming puzzle. Part II: anaerobic energy, neuromuscular load and practical applications. Sports Med. 2013②;43(10):927-954. doi:10.1007/s40279-013-0066-5

  • Coates AM, Joyner MJ, Little JP, Jones AM, Gibala MJ. A Perspective on High-Intensity Interval Training for Performance and Health. Sports Med. 2023;53(Suppl 1):85-96. doi:10.1007/s40279-023-01938-6

  • de Oliveira-Nunes SG, Castro A, Sardeli AV, Cavaglieri CR, Chacon-Mikahil MPT. HIIT vs. SIT: What Is the Better to Improve V˙O2max? A Systematic Review and Meta-Analysis. Int J Environ Res Public Health. 2021;18(24):13120. Published 2021 Dec 12. doi:10.3390/ijerph182413120

  • Hoffman JR. Physiological Demands of American Football. Sports Science Exchange. 2015;28:1-6.

  • Laursen P, Buchheit M. Science and application of high-intensity interval training: solutions to the programming puzzle. 2019; Human Kinetics.

  • Maillard F, Pereira B, Boisseau N. Effect of High-Intensity Interval Training on Total, Abdominal and Visceral Fat Mass: A Meta-Analysis. Sports Med. 2018;48(2):269-288. doi:10.1007/s40279-017-0807-y

  • Rosenblat MA, Perrotta AS, Thomas SG. Effect of High-Intensity Interval Training Versus Sprint Interval Training on Time-Trial Performance: A Systematic Review and Meta-analysis. Sports Med. 2020;50(6):1145-1161. doi:10.1007/s40279-020-01264-1

  • Sloth M, Sloth D, Overgaard K, Dalgas U. Effects of sprint interval training on VO2max and aerobic exercise performance: A systematic review and meta-analysis. Scand J Med Sci Sports. 2013;23(6):e341-e352. doi:10.1111/sms.12092

  • Thurlow F, Huynh M, Townshend A, et al. The Effects of Repeated-Sprint Training on Physical Fitness and Physiological Adaptation in Athletes: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Med. Published online December 2, 2023. doi:10.1007/s40279-023-01959-1

  • Tomlin DL, Wenger HA. The relationship between aerobic fitness and recovery from high intensity intermittent exercise. Sports Med. 2001;31(1):1-11. doi:10.2165/00007256-200131010-00001

  • Wellman AD, Coad SC, Goulet GC, McLellan CP. Quantification of Competitive Game Demands of NCAA Division I College Football Players Using Global Positioning Systems. J Strength Cond Res. 2016;30(1):11-19. doi:10.1519/JSC.0000000000001206

  • Wewege M, van den Berg R, Ward RE, Keech A. The effects of high-intensity interval training vs. moderate-intensity continuous training on body composition in overweight and obese adults: a systematic review and meta-analysis. Obes Rev. 2017;18(6):635-646. doi:10.1111/obr.12532

  • Wood KM, Olive B, LaValle K, Thompson H, Greer K, Astorino TA. Dissimilar Physiological and Perceptual Responses Between Sprint Interval Training and High-Intensity Interval Training. J Strength Cond Res. 2016;30(1):244-250. doi:10.1519/JSC.0000000000001042


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