【朗読】紫式部日記61 斎院と中宮⑵

【朗読】紫式部日記61 斎院と中宮⑵

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「げにことわりなれど、わが方ざまのことをさしも言はば、斎院より出できたる歌の、すぐれてよしと見ゆるもことにはんべらず。ただいとをかしう、よしよししうはおはすべかめる所のやうなり。さぶらふ人を比べて挑まむには、この見たまふるわたりの人に、かならずしもかれはまさらじを。
つねに入り立ちて見る人もなし。をかしき夕月夜、ゆゑある有明、花のたより、ほととぎすのたづね所に参りたれば、院はいと御心のゆゑおはして、所のさまはいと世はなれ神さびたり。またまぎるることもなし。上に参う上らせたまふ、もしは、殿なむ参りたまふ、御宿直なるなど、ものさわがしき折もまじらず。もてつけ、おのづからしか好む所となりぬれば、艶なることどもを尽くさむ中に、何の奥なき言ひすぐしを交はしはべらむ。
かういと埋れ木を折り入れたる心ばせにて、かの院にまじらひはべらば、そこにて知らぬ男に出であひ、もの言ふとも、人の奥なき名を言ひおぼすべきならずなど、心ゆるがしておのづからなまめきならひはべりなむをや。まして若き人の容貌につけて、年齢に、つつましきことなきが、おのおの心に入りて懸想だち、ものをも言はむと好みだちたらむは、こよなう人に劣るもはべるまじ。」

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