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#006 人口50万超の地方都市は、人口7万未満の市町村の先行事例から学べるか?

 人口50万超の地方都市のDMO(観光地域づくり法人)で仕事をしていると、「人口7万未満の市町村の先行事例から学べるか?同規模の都市からでないと学べないのでは?」と地元の方から言われることがある。本当にそうだろうか。少し考えてみたい。


50万都市と7万未満の市町村の違い

 政府統計ポータルサイト「e-Stat」によると、2020年度ベースで日本の全1,718市町村のうち、人口50万以上が27市、50万未満7万以上が348市、7万未満が1,343市町村(うち1万に未満が531町村)となっている。規模の小さい7万未満の市町村が最も多い。また、数が多いので、観光の成功事例も生まれやすいと思われる。

人口7万未満の市町村

 DMO(観光地域づくり法人)は、地域の多様な関係者が観光で稼ぐための地域全体の方針について、地域内で合意形成を図ることが重要である。その際、都市規模が小さいと地域内のステークホルダー(関係者)の数が少ないため、比較的合意形成を行いやすい面がある。
 さらに、ステークホルダーが少ないことは、当事者意識を持った、主体的に行動できる人が生まれやすい環境でもある。要するに「他の誰かがやってくれるだろう。」ではなく、「自分がやるしかない。」である。
 また、観光等で地域経済の活性化に取り組む場合は、地域内での危機意識の共有が重要である。7万未満の規模の都市の場合は、特に、人口減少による個人消費の減少や災害等の影響を大きく受けるため、地域内での危機意識を共有しやすいと思う。宮城県気仙沼市が良い例だろう。昨年8月に、初めて現地を訪れたが、東日本大震災の爪痕が至る所に残る中、地元の方が同じ方向を向き、観光を中心に地域一丸となって取り組まれている様子が印象的であった。

50万超の地方都市

 一方、50万超の地方都市は、観光関係のステークホルダーが多いため、地域内の合意形成には、一定の時間を要する。さらに、「自分がやらなくても、他の誰かがやってくれるだろう。」と当事者意識を持ちづらい面がある。
 また、ある程度の都市規模があるので、人口減少するといっても、7万未満の市町村に比べ、影響がゆるやかである。都市が消滅するわけではないので、地域活性化を進めるために重要な危機意識の共有は比較的難しい。

人口50万超の地方都市は、人口7万未満の都市の先行事例から学べるか?

 私は50万超の地方都市も、7万未満の市町村の先進事例から学べると思う。2つ理由がある。
 1つ目は、50万超の地方都市も、通常、複数のエリアの集合体である。1つのエリアに絞れば、規模の小さい市町村の事例も大いに役に立つ。例えば、九州の南に位置する鹿児島市は、人口約3,600人の活火山・桜島を有する。桜島は高齢化が進み、人口減少が著しい。アクティビティなどのキャッシュポイント不足が課題となっている。和歌山県の田辺市熊野ツーリズムビューローが手掛ける体験プログラム等を参考に桜島でのプログラムの充実につなげられるかもしれない。さらに、エリアを絞れば、危機意識の共有も行いやすい。
 2つ目は、先進地の成功事例の中に50万都市に汎用可能な要素を見つけることができれば、役立てることができると思う。例えば、「売上の80%は、20%の顧客から生じる。」という「パレートの法則」の活用がある。先に触れた人口約6万人の宮城県気仙沼市の(一社)気仙沼地域戦略は、地域DMOとして、観光客のCLTV(顧客生涯価値)の最大化を図る観光CRMを活用した地域マーケティングを推進している。その中で、気仙沼地域戦略は、街の売上を支えるやる気がある地元の事業者向けの勉強会やコンサルティングを実施するなど、さらなる売上増に向けた支援をしている。50万都市でも街の売上を支える、やる気がある地元のホテルや飲食店、体験事業者等を重点的に支援することで、効率的に観光消費額を上げることができるかもしれない。

 人口50万超の地方都市もエリアを絞ったり、先進事例を抽象化し、汎用可能な要素を見つけることで、十分に規模が小さい市町村の事例も役立てることができると思う。私達DMOで働くスタッフの思考力が問われる。


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