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#32 「 ピーちゃんお空に行ったよ(備忘録として) 」

今朝、4時8分に娘からメッセージが届いていた。
夜勤から帰宅した7時過ぎ、相方に「メッセージ見た?」と訊かれてから知った。
スマートフォンの通知を見てなかった。
でも、それで良かったのかもしれない。
現場で聞くよりも。
天気予報よりもずいぶんと遅いタイミングで冷たい雨が降りはじめた。

15年前に大阪から東京に転勤してきた。
現場畑から新規開拓の営業に配置換えされたぼくは、知らない土地で仕事に追われ家を空けることが多かった。
いや、16年間生活をしていた大阪でも夜勤などで家を空けることは多々あったのだけど、40才を過ぎてから知り合いのいない土地で生活をリセットすることに、相方は難しさを感じている様子だった。
半年ほど経ったころ「小鳥でも飼ってみようかな」という相方の提案に、ぼくと娘も賛同してお迎えすることになった。
門前仲町の専門店から連れ帰ったインコにピーちゃんというベタな名前を付けたのは相方だったか娘だったか。
ぼくのセンスではなかったと思いたい。
この4月で14才になるはずだった。
「人間に換算すると100才くらいですかね」
と、かかりつけの獣医さんが言ってたらしい。
「よく頑張ってくれたよね」
残された時間があまり多くはないことを薄々感じながら、ぼくたちはケージの中で静かにうずくまるピーちゃんを覗き込んでは、初めて家に来た時よりも小さく囁くようにその名前を何度も呼ぶようになった。

2日前から全く餌を食べなくなった。
ぼくたちの声にも反応が無い。
昨日の夜勤前に病院へ連れて行ったら、もって今週末だと言われた。
西船橋の現場で若いスタッフの技術試験みたいなことをしながら、ずっとピーちゃんのことを考えていた。
ぼくたちの寂しさよりもピーちゃんが静かに行くことを優先しようと決めたはずなのに、ひょっとすると家に帰ったら元気になっているかもしれない、なんて、淡い期待をどこかでしていた。
もう少し、こっちにいるのだろうと勝手に思っていた。
帰ったらあたたかく柔らかい羽根を撫でようと思っていた。

千疋屋のゼリーが入っていた箱の中で、ハンカチでくるんだ保冷材に両脇をかためられたピーちゃんが窮屈そうに眠っていた。
そのからだは、冷たかった。

「3時半くらいにね、バタバタって音がしてケージの中を見たら横になってた」
有休をとった娘は、そう言いながらペット専門の葬儀屋さんを手配する。
「そんなんあるんだねぇ」
ぼくはへんに感心しながらセブンで買ってきたソーセージエッグマフィンをビールで流し込んだ。
テレビはオータニさん関連のニュースばかりをやってる。
雨が激しくなってきた。
こたつの中で30分ほどまどろむ。
夢は、見なかったと思う。
最近寝不足気味だった娘は2時間近く爆睡していた。
相方は淡々とケージや周辺の片づけをしていた。

14時過ぎに葬儀屋さんが引き取りに来た。
ピーちゃんが眠ってる箱の写真を撮って見送る。
15時半ちょっと前に骨になったピーちゃんが帰ってきた。
「これは背骨」「あ、くちばしやん」「ちゃんと骨骨してるね」
などと言い合いながら、ピンセットを代わるがわるに使って小さな骨壺と小さなロケットにお骨を入れていく。
「ちゃんと骨骨」で笑った。
ちゃんと笑った。

ピーちゃん、ありがとね。
ずいぶんと救われたんだ。
ぼくたちの所に来てくれて、ありがとね。



<了>


最後までお読みいただきありがとうございます。
書くか迷ったのですが、ぼくなりに今日の情景を残しておきたくて書きました。
表題にも書きましたが備忘録的なものなので、勝手な言い草ではありますがこのままそっと閉じていただけるとありがたいです。


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