本は生まれ、そして返る。

作家の心に生まれた物語は、本となって読者の心に届き、それがいつか作家の心へと帰る…………とかいうイイ話ではないです。書籍流通の話です。イメージのほうに簡単な図を上げましたので、そちらをご参照くださいませ。こちらでは、ちょっと補足を書いておきます。

本もひとつの商品なわけですが、他の商品と違うのはどんなところか。大きな違いのひとつは『委託制度』だと思います。本の多くは、基本『書店さんにお預けしますね。売れなかったら、返していいですよ』というものなのです。このへんは、本好きさんなら結構ご存じかも。ただし、中には返せない本もあります。最初から『買切商品』となってるもの。また、原則的に『客注』(お客様からの要望で、書店さんが取りよせた本)も返せません。原則では。返せない本を、黙って返すとどうなるか。逆送されます。つまり、また戻ってきます。逆送伝票がついて……。

とはいえ、多くの場合は返品可能です。一般的に新刊の場合、105日以内ならば返品できます。逆にいうと、105日すぎたら返品ダメよ、なのです。たまに作家さんのツイートで「新刊で、早いうちに買って欲しい」的な呟きがあったりしますが、それは「返品されてしまうから」という要因もあるわけです。好きな作家さんの本は、できれば「しばらく読めないからあとで買おう」ではなく、「どうせ読むんだし、買っておいてあげよう」にすると、その作家さんはとても喜びます。とてもとても。

新刊の場合はそうなっていますが、ほかにも長期委託、常備、延勘など、いろいろなパターンがあって、ちょっとややこしいです。そういったややこしい精算関係をどこがやっているのかというと、取次会社です。取次は出版社から本を仕入れ、書店さんに配本するという業務と一緒に、精算窓口という役割もしているわけですね。だって、3500社以上ある出版社と、14000店を超える書店が直接精算するのって、あまりにも大変だから……。(直販というスタイルで、それをやっている会社もあるのですが、営業スタイルがちょっと違います)

さて新刊が並び、飛ぶように売れれば、書店さんは追加注文をしてくれます。これがたくさんあると、私が一番好きな言葉であるところの『重版』になるわけです。出版社がもっと印刷してくれるのです。だがしかし。残念ながら売れ残り、返品されたらどうなるか。まず、返品本だけ詰めた箱は、取次の返品センターへ送られ、そこで出版社別に仕分けされます。そして出版社に戻り、「ごめん……俺、売れなかった……」と項垂れて(想像)倉庫に入ります。返品された数は、取次がデータとして残します。ああ怖い(涙)。もちろん出版社も、自分のとこの本の返品率はわかっています。ああ怖い(二度目)。作家の立場で言いますと、この返品率は次の本の刷り部数と深く関わるので、とても怖いのです。初版部数が落ちた場合「あ、前の本の返品率が高かったんだな……」と解釈できます。

倉庫に入った本は、客注が入った時、フェアなどでセットを組むとき、などで再び流通ルートに乗ります。行ったり来たりするので、汚れるときもあります。カバーを変えたり、小口研磨(人の名前ではない)されたりします。「ごめん……売れない俺なのに、手数かけちまって……」(想像。なぜか本はちょっと気怠い男子)「いいんだよ、今度こそ売れてこいよ。俺が綺麗にしてやるから……!」(倉庫担当の逞しいお兄さん)。まあ、そんなこんなで最終的に売れればいいのですが、何年も経つと在庫整理のときに、とうとう居場所がなくなります。出版社にとっては在庫も資産なので、売れないなら処分してしまわないと、税金ばかりかかっちゃうし……(書いててツライ。涙)

なんだか悲しい話になってしまいましたが、書籍流通と返品の話は切っても切れないので、商業作家を目指す方は、このへんは心得ていたほうがよろしいかと思います。そんなリスク高い人生は目指していない!という方は、聞き流してくださって結構です(笑)


#小説 #本