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オンライン・ライブ戦国時代 声優イベントの仕掛け人が「SPWN」を選んだ理由

新型コロナウイルス感染症が拡大する中、エンターテイメント業界は試練に直面している。人が集まるイベントは中止が相次ぎ、番組の収録は雪崩を打ってリモートへと移行した。これまで当たり前にできていたことが不可能になった今、コンテンツの企画・制作現場は生き残りをかけた変化を余儀なくされている。

そのような逆境にありながらも、イベントのオンライン化に活路を見出し、朗読劇のインターネット配信に挑む会社がある。トライリミテッドだ。今回は同社代表であり、百戦錬磨の声優イベント仕掛け人として活躍してきた荒井基雄氏にライブ配信の手応えや、配信先として国産プラットフォーム「SPWN」(スポーン)を選んだ理由、これから先の展望などを聞いた。

イベント運営者が求める配信プラットフォームの姿とは?

インターネット動画のライブ配信プラットフォームの歴史は古く、草分けとなった「Ustream」や「ニコニコ生放送」が始まったのが2007年のこと。その後も「YouTube」や「Facebook」といった海外大手が続々と参入し、現在は「Instagram」や「LINE」「FRESH LIVE」「SHOWROOM」「Pococha」「17Live」など国内外のプラットフォームが群雄割拠する状態だ。

こうして誰もが無料でライブ配信を始められるようになったことで多くのクリエイターが発表の場を得られた反面、プラットフォームの制約が活動の限界を決めてしまうことも少なくない。一例として、長年リアルイベントに取り組み、チケットやグッズ販売で収益を上げてきた企業クリエイターたちにとっては、投げ銭主体のオンライン配信では十分な利益が確保できないといった課題が生じている。

声優のラジオ番組やグッズのプロデュースなどを手がけてきたトライリミテッドの荒井氏は言う。

「インターネットにおけるライブ配信の収益化方法はいまだに確立されていません。1回の配信で何万という視聴者を集められるクリエイターは確かに存在しますが、あくまでも例外。リアルイベントがメインだった中堅や駆け出しのアーティストにとっては『生配信はPRの一手段、無料ファンサービスの一環』という状況が長らく続いていました。もちろん、有料配信にも取り組んではきましたが、ビジネスとして成立させるハードルは相当に高いと言わざるを得ません」

配信先の選択肢こそ増えてはいるものの、ライブハウスや劇場でファンと向き合ってきた作り手にとってはオンライン・イベントのみを事業の柱にすることは依然として困難であるようだ。

「新型コロナウイルスの影響でリアルに人が集まってイベントをしたり、収録をしたりすることが極端に難しくなりました。コロナの流行はいつか終わると思いますが、いつまた新しい感染症が襲ってくるとも限りません。また、コロナ禍以前からもオンラインへの移行は不可逆的な流れとして進んでいました。だから、私たちは『今こそポスト・コロナの時代になっても価値が失われないイベントをオンラインで作りあげよう』と考えたのです。そのためには、インターネット上でもリアルのイベントと同じようにチケットを買って参加してもらい、グッズ販売も楽しんでもらえるという環境を構築して、一元管理できる仕組みが必要でした。そこで、親交のあったバルス株式会社の林CEOに相談して、彼らが運営するSPWNというプラットフォームを使うことにしました」(荒井氏)

オンライン・イベント・プラットフォームSPWNの特徴と強み

SPWNはバルス株式会社が提供するオンライン・イベントの総合プラットフォームだ。リアルタイムの映像配信とコメント機能に加えて、ARコンテンツとの融合やチケットとグッズの販売、ファンクラブ運営などを一元管理できる。一般的なライブ・プラットフォームが映像配信とコメント機能、投げ銭などの機能を提供するだけにとどまる一方で、SPWNはリアルイベントと同様にチケットやグッズの販売、ファンクラブの運営、ユーザーデータの蓄積などをワンストップで行えることを強みとしている。

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これまで、ユーザーはオンライン・イベントに参加するとなると「チケットはこのサイトで買って、イベントの視聴はあそこのサイト、グッズ購入はこっちのECサイトで、ファンクラブに入りたければあちらへ」といった煩雑な手順を踏まなければならないことも少なくなかった。ところがSPWNであれば、ユーザーはひとつのアカウントでチケットを買って、イベントを見て、投げ銭で応援して、ショッピングを楽しむ、といった一連の行動がスムーズに行えるように設計されている。

またアーティストやイベント運営側にとっても、SPWNを使用することでチケット販売や配信のために複数のサービスを使い分けて管理する手間や費用を減らせるといったメリットがある。さらに、ユーザーのチケット購入頻度と購入グッズのデータを結びつけて分析するなどして、売り上げに直結するインサイト(気づきや発見)を得ることができる点も見逃せない。

これまで運営側が現場で掴んでいた「リピーターは何を求めているか?」「初めて来たような雰囲気のお客さんは何を買っているのか? 」といったリアルイベントでしか得られなかった知見が、SPWNを利用することでオンラインでも獲得・可視化できるのだ。

声優朗読劇のオンライン・イベント化に見るSPWN活用事例

荒井氏はバルスのSPWNを活用したオンライン・イベント運営の可能性に気付き、同時にこれまでラジオ番組やリアルイベントの企画運営に携わってきた実績を活かすことで声優事務所に“朗読劇のオンライン・イベント化”を提案した。新型コロナウイルスの影響があり、業界全体に「何か新しいことをやらなければ」という機運が高まっていたこともあり、トントン拍子で企画の実現にこぎつけられたという。

SPWNを通じて実際に朗読劇のオンライン・イベントを運営した印象はどうだったのか。

「これまでリアルやオフラインでやっていたイベントをネット上でやることのメリットは強く感じています。お客様からは『画質が良いね』『フルHDだから、間近でイベントを見ているような気分に浸れる』と好評でした。また、声優さんたちからは『演者どうしの掛け合いができるのが楽しい』と喜んでもらえています。オンライン・イベントの会場なら演者どうしの距離は確保できますし、来場者で会場が密になる心配もありません」(荒井氏)

また荒井氏は、「オンラインではバーチャル背景が使えるので、リアルイベントのように大道具を用意しなくて済む」とも話す。結果、リハーサルの時間を短縮でき、運営側に大きな効率化のメリットがもたらされるという。

「お客さんの満足度もリアルと比べて下がっていないという印象です。また、イベントの回数を重ねるごとにお客様のデータが蓄積されていくので、それをベースに今後の企画やグッズ展開を考えていくのがとても楽しみ。顧客属性が把握できると、番組の広告価値も明確になり企業への広告営業もしやすくなります」

始めたばかりの取り組みにも関わらず、朗読劇は平均の同時接続数で300人を超える視聴があるとのこと。さらに「SPWNではリアルタイムで特殊効果のデジタル処理がかけられるので、猫の役をやる声優さんの頭にネコミミのエフェクトをつけたことがあります。これまでのリアルイベントだと、事務所の方針で『ネコミミはNG』と言われてしまう状況がありました。けれども、オンラインの世界では事務所の方も柔軟に考えてくれるので、今までできなかったことが実現できましたよ」という“ケモい”エピソードも紹介してくれた。

※ケモい:動物をモチーフにしたキャラクターやそれに関連する作品などを指すサブカルチャー用語

「出演者の声優さんたちからは『劇が終わった後、すぐに見てくれた人のコメントを読みながらアフタートークができるのが楽しい』と好評です。これは大量のコメントを一気に受け付けられるネットの強みです」(荒井氏)

SPWNとオンライン・イベントの可能性

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朗読劇などのイベントを実施した経験をもとに荒井氏は「SPWN」がイベントの運営者に寄り添ったサービスであると感じており、細かい機能追加についても相談に乗ってもらえるクリエイター・ファーストなプラットフォームであることが魅力であると話す。

「インターネットならではの双方向性を活かしたコンテンツづくりはまだまだ進化の余地があります。だから、いままさにいろいろな企画を練り込んでいるところです。例えば、お客さんの投票によってシナリオが変化するといった仕掛けは面白そうですよね。リアルイベントだと、参加者の方も周りの目を気にして正直に手を上げづらい(笑)。だからと言って、投票用紙やシステムを使うほどの時間コストはかけられません。オンラインであれば他人の目を気にせず投票ができるので『ファンが本当に見たいシナリオ』が実現するかもしれません。こういったところは本当に実現が楽しみです」

一方で、「『生身で会う感覚に勝るものはない』という意見も真摯に受け止めている」と荒井氏。現在、アンダー・コロナの状況でオンライン・イベントが受け入れられていても、コロナ禍が去ればいずれリアルイベントが再開される。その際、「オンラインはやはりいらない」と言われてしまわぬよう、「オンラインでしかできないこと」を追求していきたいと話す。

「リアルが復活する前にオンラインの価値というものを明確にして、お客様も、出演者も、運営も全員が満足できるイベントを創り上げていきたいです」(荒井氏)

新型コロナウイルスの影響はエンターテイメント業界にとっての試練であることは間違いない。が、同時に新たな挑戦をスタートできるまたとない機会でもある。オンライン・イベントを軸とした新しいカルチャーがもたらす、エンターテイメントの未来に期待したい。


今回の取材先
荒井基雄氏:大学で音響設計を学んだ後、ブシロードやランティスで声優のラジオ番組やコンテンツのプロデュースを経験。2018年に株式会社トライリミテッドを創業。テレビやラジオ、インターネット番組の企画制作やグッズ販売、イベント企画を手がけ、アニメ・声優などのサブカルチャーに特化した配信プラットフォーム「PLATTO」の運営にも取り組んでいる。

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