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みちのく一人旅 part 2 〜常磐線舞台芸術祭 2023 夏〜

人の温かさ、文化の香り、豊かな緑にふれ、東北はやっぱりいいなぁと心満たされた気仙沼、仙台の旅。

それから一月後、私にはもう一つとっておきの予定がありました。

小社刊行の『ラプサンスーチョンと島とねこ』にすてきな詩をお寄せ下さった管啓次郎さんは、東日本大震災の翌年からこれまで、宮沢賢治の不朽の名作『銀河鉄道の夜』を小説家の古川日出男さんが朗読劇として書き下ろしたお芝居を、東北を中心とする各地でお仲間とともに上演してこられました。

公演ごとに新たなオリジナル脚本を生み出す古川さんの手により、今年は音声のみのラジオ朗読劇ができあがり、三夜連続で放送されると聞いて、私はねこの剣之助を傍らに、夜の訪れを心待ちにして楽しみました。
聴き終えてすぐの感動を、SNSにこんな風に書きつけていましたっけ。

大震災をきっかけにスタートした素晴らしいプロジェクト。
いくつもの変化形で、その場(土地)の、その顔ぶれのみのもつエネルギーを得た、生きものとしての朗読劇。
賢治の言わずと知れた代表作の、こんな味わい方があるのだなぁと新鮮な感動を覚えています。

今回は、後藤さんがDJを務める劇中のラジオ番組が伝える「事件」に、リスナーが巻き込まれていくという、ワクワクの設定。
いつも以上にジョバンニの気持ちになって(自分はいつも、子どもじみたジョバンニに感情移入)
たまらなく切ない星月夜の旅を体感した気分になりました。美しい星空の臨場感が音で存分に表現されていることが素晴らしい。さそりが赤く燃えているところなんて、思わず涙がこぼれました。

小湊鐵道の無人駅で録音が行われたことも、懐かしいような不思議な温かさを醸し出しているのでしょう。
また、ラストでの詩の朗読からの静かな語りには自然と、東北の海の、波打ち際が脳裏に浮かぶようでした。

哀しみをたたえたカムパネルラはもちろんのこと、演者の皆さんスゴくうまくて引き込まれます。
ケイタニーさんのリポーターの小気味よさ。聴いていてニコニコしてしまいました♡

ごく個人的には、スナフキン(ちょっとカムパネルラ的)がこの世を去ってのち、時に音楽や映画、小説などにまさり、詩の言葉や朗読劇という芸術が傷ついた心にこれほど優しく沁み渡るものなのかと驚くほどで、穏やかな塗り薬のように、日々の一部になっているのを感じています。

すてきな作品に感謝。
期間中、何度も聴いて深く味わいたいと思います。

こうして一旦は音のみの世界に移った朗読劇が、今度は舞台版となって生まれ変わる。それも、常磐線の全線開通が象徴するように、人びとをつなぐ、心をつなぐ、常磐線舞台芸術祭で。
その知らせを目にして、すぐにカレンダーに予定を書き込んでしまいました。
今年初めての試みである芸術祭。コンセプトからして素晴らしいので、是非こちらをご覧下さい。

夜に何となくこだわりたくて、初日 8月1日 夜の部を予約しました。
今回も、愛車のライノくんで出発です。

出発してほどなく、那須高原SAで焼きあゆのお昼ごはん。

常磐線と言うと、震災の数年後、原と東京から遠野へ行った際に、いわきに1泊して海沿いを長く走ったことを思い出します。
東北道に戻る途中、立ち入り禁止区域の手前まで行きました。

福島県に入り、智恵子の安達太良山を行く手に眺めながら
その時と同じように緑濃く、海があって、山があって……この美しい土地を私たちはグレーですっかり塗りつぶしてしまいかねなかったのだと切なく思いました。
物理的に、現実に環境に放たれた汚染だけではなく、外からの過剰なまなざしが人びとの暮らしを、温かいつながりを断ってきたことを思わずにはいられません。
すぐ南隣の栃木にふるさとがありながら、(群馬も茨城もそういう意味では似ていますが)近いからこそ訪ねることは稀で、今でも知らないことだらけの福島の魅力に迫ってみたいという思いがありました。

福島市内から相馬道へ入り、東へ1時間ほど走ったでしょうか。会場の 新地町文化交流センター 観海ホールに無事到着です。

慣れ親しんだようないわゆる海辺の景色は、防潮堤などで宿の窓から見えなくなっていますが
夕方、生暖かい潮風がそよぎ、薄暮の中の駅舎を目にして、やっぱり夜にしてよかったなと思いました。

会場では芸術祭のスタッフさんがすぐに親しく声をかけ案内して下さり、ほっとします。

記念に芸術祭のTシャツを求めて、舞台正面の列の端に、原と一緒に腰を下ろしました。



期待以上に素晴らしい舞台に、すっかり魅了されてしまいました。

ラジオで聴いた時から印象的だった「銀河ラジオ」オープニングの Twin Peaksを思わせるような美しく不穏で何かの始まりを予感させる響き。
演者の皆さんの語りの見事さは言うまでもありませんが、特筆すべきは、今回はアジカンの後藤さんも加わって、ケイタニーさんとの研ぎ澄まされた音づくりで銀河の世界をこの上ない臨場感で包んでいたことです。
ケイタニーさんの「フォークソング」の調べ。何という美声でしょう!
躍動することばたち、魅惑の歌声。やはり生音は最高です。

これまでのいくつかのヴァージョンもそれぞれに味わいがありすてきなのですが、哀しく美しい賢治のはるかな物語を、ポップな要素も加え疾走するように小気味よく語り尽くすこのラジオ朗読劇が、私はほんとうに好きになりました。

お別れではなく、”誰かのさいわいのために” 大きな生命の環に還って行ったカムパネルラ。そして列車に乗り合わせた人たち……
生命の銀河がどんなものか。その壮大さ、崇高さ、そしてそこに身を置くことの温かさを感じられた気がしました。
先にも書いたように常にジョバンニの気持ちになってしまう自分は、ずっと磯野と中島のようだった原との幸せな歳月を愛おしく思わずにはいられませんでした。
ふと見ると同じ列のお姉さんは、もっともっと、隠しもせず号泣していました。亡くなったたいせつな人を想っているのは明らかで、私もさらに泣けてしまいました。

上演後すぐのカムパネルラと。

一昨年の暮れ以来の再会が嬉しかったのと、セルフィ撮ろうよと言って下さったことに感激して、アシスティブタッチを何度も押してスクショを撮っていました(先生ごめんなさーい!笑)

2夜だけではもったいない。この素晴らしい体験を、少しでも多くの人と分かち合いたいです。

胸アツのまま宿に戻り、早速温泉に浸かって、地元の海の幸で一杯。至福の時間。

不案内で道順はすっかりナビ任せだったのですが、往路、福島市内を通ったことを思い出しました。
飯坂温泉のお友だちに連絡してみようかな?

原の闘病をきっかけに、全国あちこちでつながった温かい仲間。
その一人である彼女は、今も多忙な家業の傍ら、ピア(病気の経験者)サポーターとして、福島県を中心に、がんと向き合い支え合うための多岐にわたる活動を続けています。

世話好きお母さんなのをいいことに、お言葉に甘えて翌朝押しかけ。
SNSではよく目にしているあったかなご家庭や、周りの方たちとの支え合いの現場につかの間まぜていただき
福島自慢の桃をたくさん(たーくさん!)求めてきました。
「まどか」という可愛らしい名前の小ぶりの桃は、家の中を今も甘い香りで包み、皮ごと丸かじりすると、みずみずしさがたまらないおいしさです。

1泊だけの短い旅なのに、多くのものを受け取った気がして、今回も胸いっぱいで帰路につきました。

Coldplayを大音量で聴きながら、肌寒い時のためにと助手席に掛けてある原のパーカーに何気なく手をやると、ゴムの袖口がきゅっと握り返してきたような気がしました。

また毎度の、たくましい妄想(笑)なのかも知れません。
それでも、「ずっと乗ってるんだから、二人旅でしょ?」と笑う顔が見えました。

終わり。

……のその前に、お願いです。
常磐線舞台芸術祭は、8月14日までクラウドファンディングを行っています。

柳美里さんをはじめとする皆さんの本気のメッセージをお汲み取りいただき、開催を未来につなげることができますよう、どうぞお心をお寄せ下さい。


長々とお読み下さり、今回もありがとうございました!

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