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小説・うちの犬のきもち(2)ママンのしあわせのとき

ぼくと散歩に出かけようと準備をするママン。ぼくはもういつでも準備オッケー。リードをつけてもらうだけですぐ出かけられます。なのにママンという人には準備に時間がかかる。上着を羽織ったり、靴下を履いたり、帽子を被ったり、お散歩バッグにバッグに水の入ったペットボトルや、ビニール袋や、トイレットペーパーを用意する。

ぼくは鼻の頭をママンの膝の裏にくっつける。
ママンは振り返ってにっこり笑う。
「ちょっと待ってね、おりこうちゃん」
ぼくの耳の端にそっと触れる。
そうしてもっと何か言いたそうだけれど、急いで準備を再開する。
 
家の中で、ぼくはボールを追いかける。だれかが投げてくれたボールを追いかけたり、ボールの種類によってはボールがひとりでにぽんぽん飛んでいくこともある。急いで走っていて、ママンの足を踏んでしまうとき。ママンはにっこり笑う。
「ちょっと、しーちゃん、踏まないで」。

ソファに座るママンの前でお座りをしてママンをじっと見る。ママンが手を伸ばして、膝に乗せてくれる。ママンの左腕を枕にしてアゴを乗せる。
ふん、と鼻息を吐く。
ママンはそっとぼくの頭を撫でてくる。頭を撫でて、頭に顔を埋めて、すうーと息を吸っている。ママンの顔を見上げて鼻の頭をペロリとすると、ママンはにっこりする。ぼくはまたママンの左腕を枕にしてアゴを乗せる。

その体勢に飽きたら、ママンの腕からするりと抜けてママンの隣に座って、今度はアゴをママンの膝の上に乗せる。そうするとママンはまた背中とか足とかそっと撫でて、肉球をマッサージしてくれる。ママンの膝の上は、僕の鼻息で少ししめっとする。ママンは、それに気付いてにっこりする。

ママンが床にごろんとしているとき(休みの日によくある)ママンのお腹の上とか右腕と脇とか足の上とかに乗る。ママンの顔を見ると、にっこり笑っている。寝心地が悪くなるとぼくも床におりて、ママンの身体のどこかにほんの少しお尻がつく程度のところに行く。ママンは手が届く範囲ならそっと触れてきて、きっと顔はにっこりしている。

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