エドガワハナコ

都内の小さな会社で事務をやっています。愛犬と小説、コーヒーを飲みながらドーナツやクッキ…

エドガワハナコ

都内の小さな会社で事務をやっています。愛犬と小説、コーヒーを飲みながらドーナツやクッキーを食べるのが好きです。定期的に小説を投稿してみたいと思っています。Twitter→https://twitter.com/edghnk

最近の記事

小説・うちの犬のきもち(14)・テレビについてのぼやき

うちのみんな、テレビに釘付けだ。 スコットランドでゴールデンレトリーバーの祭典というのがあるらしく、犬と飼い主たちが楽しく踊っているらしい。それから日本の女優さんが現地のブリーダーさんの家を訪れる。人懐っこいゴールデンレトリーバーが女優さんにおもちゃを見せびらかせにくる。そのおうちは、とてもステキなところで、広い庭と、牧場みたいに広い裏庭がある。家の中も、庭も、手入れが行き届いているんだそうだ。女優さんがブリーダーさんとお話する。ブリーダーさんは、必要以上に繁殖させないのだと

    • 小説・うちの犬のきもち(13)・努力

      旅行好きのおばあちゃんが、隣の駅の始発電車に乗りたいからと、早朝、パパンとママンと車で隣の駅まで送ることになった。駅でおばあちゃんを見送った後、パパンとママンとぼくは大きな公園まで車で行ってみることにした。 大きな公園は、早朝だからか、ほとんど人がいない。 今日は晴れる予報だけれど、空気はまだ湿っている。暖かくなりそうな予感がする。 桜は半分くらい葉が出ていて、地面には桜の花びらがじゅうたんみたいに積もっている。 ぼくはなんだか楽しくなってずんずん歩いた。 人が少ないから

      • 小説・小説・うちの犬のきもち(12)・桜の季節

        最近のママン、平日の帰りは遅いけど、土曜日と日曜日をちゃんと休んでいる。どういう事情があったのかは知らないけれど、そういうのって悪くないと思う。 だから、金曜の夜、寝る前に、ママンの横でじっと伏せをしてママンを見つめてみる。そうするとママンが「どうしたの、しーちゃん」と聞いて撫でてくれるのだ。撫でてもらったら、ころんとしてお腹を見せて、寝落ちするにまかせる。ママンがスマホをいじったり、文庫本を読んだりしながら撫でているときは、後ろ足でちょいちょいとママンに知らせる。 「ご

        • 小説・うちの犬のきもち(11)・冷戦

          パタンと静かにドアが閉まった。 ママンはひとりで一階に降りていった。 部屋に残ったパパンはひとりでiPadを見ている。 せっかくの土曜日なのに。 冷戦、というやつだ。 パパンとママンの。 きっかけは・・・遡ると、ママンの帰りがずっと遅いし休日出勤もする、ってところだと思う。 …そもそも、二年前からママンが玄関をリフォームしたい、扉も鍵も変えて、ついでに靴箱をもっと大きく使い勝手の良いものにしたいと言っていて、今年の正月に、今年の目標に玄関リフォームと宣言していた。それで

        小説・うちの犬のきもち(14)・テレビについてのぼやき

          小説・うちの犬のきもち(10)・生きていく上でのおおきな問題

          今日は降らない予報だとママンが言うけれど、空気はずいぶんしっとりしている。 「洗濯もの、どうしようかな」 ママンはぼくの後ろでぶつぶつ言っている。朝のお散歩に出る前に洗濯機をスタートさせ、帰ったら干す予定なのだ。 「外に干すべきか、室内に干すべきか・・・外か内か、それが問題だ、うーむ」 ママンにとってのおおきな問題みたいだ。 おおきな問題、っていうと、おおきな使命を背負った主人公みたいだ。解決しなければならない難しいこととか、うまく対処しなければならない重要なことを

          小説・うちの犬のきもち(10)・生きていく上でのおおきな問題

          小説・うちの犬のきもち(9)・もしも・・・

          きょうはひとりでお留守番。 天気が良いから、土手の方に散歩に行ってみることにする。 家の鍵をかけて、元気よく土手に向かう。横断歩道をてくてく歩く。 「あら、しーちゃん、こんにちは」山田さんちの前を通るとき、ちょうど庭の手入れをしていた山田さんに声をかけられた。 「あ、こんにちは。良い天気ですね」窓の内側に山田さんちの柴犬さんとチワワさんがいて、ふたりともスッと起き上がり姿勢を正した。 「ほんとねぇ。晴れて良かったわ。今日はひとりなの?」 「はい」 「そう、じゃあ気をつけて、お

          小説・うちの犬のきもち(9)・もしも・・・

          小説・うちの犬のきもち(8)・皇帝のこと

          すっかり春だと思ったら、寒い日に戻る。ぽつりぽつりと咲いた土手の菜の花の黄色は、まだ迷っている。そういうのがくり返されて春になるんだよ、とパパンは説明した。何度目かのすっかり春と思える日だった。夕方のお散歩。この時間は、のんびりした空気が流れている。土手を散歩しているのは、老人か、犬を連れた老人か、外国から働きに来ているらしい若い人たち。彼らは数人で連れだってママチャリに乗って楽しそうにおしゃべりし、グラウンドに勢いよく降りてサッカーをする。 ぶへえくっしゅ!  ぶへっくし

          小説・うちの犬のきもち(8)・皇帝のこと

          小説・うちの犬のきもち(6)・いつもの休日

          二月なのに生暖かい日で、テレビのニュースでは例年にない暖かさの各地の映像が流れていた。流氷は無くなり、桜が見頃になった。 お昼ご飯の後、近所の梅が見頃だからと、パパンの提案で、みんなで車で十分くらいのところの公園に行くことになった。めずらしくママンが運転した。ママンは例の休日出勤が続いていて、疲れているのに週一日の休みにはりきってしまうのだ。そういうのって、ちょっと周りの人を疲れさせるし、たいていはママン自身も夜になって急にお腹が痛くなったりしてぐったりする。ぼくは車酔いし

          小説・うちの犬のきもち(6)・いつもの休日

          小説・うちの犬のきもち(6)・写真とは

          ピンポーン。 ワンワンワォーン、ワンワォーン。 居間のインターフォンの音が鳴ると、ぼくは、自分で言うのもなんだけど、大きな美声を出せる。人間だったら美しいメゾソプラノかな。気持ちのよく通る響く声。 なのに、たいていは、おばあちゃんに無視されるか、ずいぶん低い声で「しーちゃん、静かに」とか言われるのだ。 今みたいに午前中の少し早めのピンポーンは、おとなりの田中さんか、その日の朝の散歩中に会った誰かだ。おとなりの田中さんは、本を貸してくれたり、うちの庭に田中さんちの木から

          小説・うちの犬のきもち(6)・写真とは

          小説・うちの犬のきもち(5)ぜったいの決意

          ぺっ、と吐き出した。 おやつのわんちゅーるに包まれていたのは、小さく刻まれた、すっごくマズい薬だった。 食べるもんか、ぜったい食べないぞ。ぼくは誓った。 「たべなさい」おばあちゃんは無理矢理ぼくの口に薬を入れてようとした。 ぼくはぎゅっと口を閉じた。「うー」と低い声を出した。力を集めて噛もうとしたらおばあちゃんは手を引っ込めた。おおきなため息をついて、ぼくの首のあたりを撫でた。両手でなでた。それからもうひとつ大きなため息。今度はとっても悲しげ。 悲しいのはぼくの方だ。 病院で

          小説・うちの犬のきもち(5)ぜったいの決意

          小説・うちの犬のきもち(4)・人間のご都合主義を考える

          ぼくが思うに、人間というのは、ご都合主義なのだ。欲しいものを分かってくれないし、フキゲンの理由も自分のよいように解釈する。 ぼくが生後二ヶ月のとき、ぼくはまだブリーダーさんのところにいた。パパンとママンはぼくを家族にすることに話がついていて、その日は約束の二時間も前に着いてしまって、あまりに早くては失礼だからと、近くのデニーズでモーニングを食べて時間を潰した。ママンは『室内犬の飼い方』という本を開いて、トイレトレーニングの話を熱心にしていた。 「犬がウンチ食べるのは、悪い

          小説・うちの犬のきもち(4)・人間のご都合主義を考える

          小説・うちの犬のきもち(3)・休日の不満

          ぼくは超絶フキゲン。 だって休日だと言うのに、ママンは出勤した。 前日から不穏な、つまり、ママンが休日出勤しそうな雰囲気を感じ取って、ぼくはママンに休日出勤をやめるよう、ママンにぴったりくっついて、ねえママン、明日は休みだから、こうやってなでなでしもらえるよね、しーちゃんはそうだと信じているよ、と伝え続けた。明日はママンのお散歩だからしーちゃんの行きたいところに気のすむまで行けるんだよね。お散歩から帰ってきて、ママンのお掃除とかお洗濯とか終わったら、ぴたりとくっついていられ

          小説・うちの犬のきもち(3)・休日の不満

          小説・うちの犬のきもち(2)ママンのしあわせのとき

          ぼくと散歩に出かけようと準備をするママン。ぼくはもういつでも準備オッケー。リードをつけてもらうだけですぐ出かけられます。なのにママンという人には準備に時間がかかる。上着を羽織ったり、靴下を履いたり、帽子を被ったり、お散歩バッグにバッグに水の入ったペットボトルや、ビニール袋や、トイレットペーパーを用意する。 ぼくは鼻の頭をママンの膝の裏にくっつける。 ママンは振り返ってにっこり笑う。 「ちょっと待ってね、おりこうちゃん」 ぼくの耳の端にそっと触れる。 そうしてもっと何か言いた

          小説・うちの犬のきもち(2)ママンのしあわせのとき

          小説・うちの犬のきもち(1)

          犬のぼくは、人間のおばあちゃんと、パパンとママンと暮らしている。 だから、ママンがいうには、ウチは4人家族だ。 家の中でいちばんエラいのはおばあちゃんで、その次がパパンで、その次がぼくで、最後がママンだ。 ママンという人は、ぼくの気持ちを一番分かってくれるけど、ときどき頼りない。 ・・・・・・ ときどきじゃない。ときどきよりもっと、多く、つまり、しばしば、ぼくのことを無視する。 ぼくは、優しい女の人と、優しい小さな男の子と、優しい小さな犬が好きだけれど、その他はみ

          小説・うちの犬のきもち(1)

          小説・「はたらきもの、の手」(6)

          「ピアノ習ってみたい」里香は純には、そんな子供じみた口調で話してしまう。 「あ、いいんじゃない?」 「習ってた?」 「うん。少しだけ。でもすごく嫌ですぐやめた」 「私は習ったことないんだけど、どうやって始めたら良いんだろう」 「教室に行くと面倒な手順があるから、ひとまず何かキーボードとか買ってみて練習するとか」 「それ楽しそう」 「家電屋さん行ってみる?」  家電屋には、電子ピアノのコーナーがあって、小さなキーボードからそれなりに大きなものもあった。子供がひとり、途絶えがち

          小説・「はたらきもの、の手」(6)

          小説・「はたらきもの、の手」(5)

           ペットショップで、ガラスにへばりついている幼い子供たちの後ろから、純と里香は子犬たちを眺めた。子供たちがひととおり見てしまうと、純は少しだけ前に進んでしゃがんでガラスに指を近づけ、さっと動かした。子犬の目線が純の指に従って動いた。 「あ、見てる」 「やってごらん。こっちが見えるはずだから」  里香も指をガラスの近くに持っていき、「こんにちは」と声をかけた。その犬はじっと里香を見て、純を見た。里香が指を動かすとちらりと目で追ったけれど、視線は純を見ていた。 「かわいい」 「う

          小説・「はたらきもの、の手」(5)