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借金取りだったいとこの話

 子どもの頃は、何かを感じたとしても、理解できないことがある。大人になって「あれはああだったんだな」とわかることがある。
 ぼくが小さいころ、長屋があった。国道近くの、かわら屋根がいまにも崩れそうな、細長い木造の住宅。風呂はなく、ぼっとん便所だった。そこに小学校の同級生が暮らしていた。
 その子の両親の姿を見たことがなかった。いつ遊びに行っても、おじいさんひとりがいるだけだ。服を洗っていないのか。銭湯に行っていないのか。その同級生の身体はいつもにおった。蓄膿だったのか。黄色い鼻水をいつも垂らしていた。
 あまり金持ちではなさそうなのに、なぜかスーパーファミコンのソフトが大量にあった。ゲームを目当てに遊びにいく子が多かった。ぼくもその一人だった。

 いま振り返ると、ネグレクトやったんやなあ、と思う。
 小学校を卒業するとき、その同級生は、みんなが通う公立中学校ではなく、特別支援学校に進んだ。だから、何か障害があったのかもしれない。勉強はまったくできず、ほとんどしゃべらなかった。その学校に通うために、引っ越していった。
 その同級生の消息はぜんぜん知らない。大人になって山本さほの漫画『岡崎に捧ぐ』を読んで、ようやく思い出したぐらいだ。
いつのまにか長屋は取り壊された。いまでは葬儀場になっている。

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