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教育とスタートアップの国、フィンランドーEdTechの現状全部見せます! | フィンランドEdTech#1

この記事は株式会社BEILリサーチブログにて 2019/11/22 に公開した記事を移行したものです

日本で教育先進国として知られるフィンランドのEdTechについて紹介していきます。
この記事では教育とスタートアップの二つの側面から見ていきます。

今回取り上げる項目

・教育
 質の高い教育を国を挙げて実現、その戦略はICT教育に向きつつあり、要注目
・スタートアップ
 世界的なコミュニティイベントも生まれるスタートアップのホットスポット


質の高い公教育

世界水準の教育を堅持

フィンランドの教育の質の高さは世界的に知られていますが、その一つの理由がOECD加盟国学力調査PISAでもかなりの好成績を残しているからです。
2000年にPISAに参加して以降、今までの間に、一回を除いて全ての項目で世界10位以内の順位をキープしています。

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では、このように質の高い教育を実現している背景には、何があるのでしょうか? 

ここでは、3つの特徴をあげて説明してみます。

3つの特徴 

1. 国家戦略としての教育無償化
2. 高い質の教員を養成する制度
3. ICT教育ー近年はICT教育に力を入れた政策。しかし少し空回りしてる部分は日本と類似

1)国家戦略としての教育

1つ目に、フィンランドが国を挙げて教育に力を入れていることが挙げられます。
例えば、義務教育の無償化が実施されています。

フィンランドでは、産業革命と二次大戦の影響で、急激な産業化と階級格差の拡大が起こりました。 これらの課題への対応策として平等で無償の義務教育が目指されることになりました。

1919年のフィンランド憲法13条にも

”すべての国民は無償の義務教育を受ける権利を有する。・・・すべての国民が,義務教育だけではなく能力と必要に応じた教育を平等に受けられる機会を保障し,経済的状況を問わず自己を発展させる機会を保障しなければならない。”

と記されています。

現在では、幼児教育から大学まで公立私立関わらず、授業料は無料であることに加え、日本の小中学校にあたる課程では教科書や給食費、一部生徒対象にはパソコンまでも無料で配布されます。国家財政の視点から見ても、教育への支出がGDP全体に占める割合は5%を常に超えており(日本は4%前後)、教育への投資は十分になされてきたと言えます。

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無償化に加え、教育の地方分化も大きな特徴です。ソ連の崩壊に伴う深刻な経済不況により、現場でのコスト削減が必要になり、学校にも競争と効率が求められました。また時を同じくして、北欧では子ども中心主義と言われる、決まった知識のインプットよりも子どもが自分で知識を発見することを重視したカリキュラム観が生まれました。これらの流れを経て、国家政策として各教育機関が新しい教育の在り方を自由に探れるように、1994年にの国家カリキュラムが制定され、教育方法やカリキュラム、教員の採用について裁量が各教育機関に与えられています。

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上記の流れで教員の採用は各学校長に権限があります。しかし、それに加えてそもそも教員を志望することも簡単な道でないこともフィンランドの質の高い教育に繋がっています。

2)高い質の教員を養成する制度

フィンランドの教育の2つ目の特徴は教員の質の高さです。教員になるには、まず教育学部の教師養成学科あるいは教師養成学部で学部3年修士2年の5年間学ぶ必要があります。これらの学部・学科を持つ大学は比較的少なく、また各学校での定員数も少ないことも影響していますが、教員という職業は人気があり競争が激しいので、自然と優秀な人材が集まっているとされます。また理論の学習に加え、実践も重要視され、312時間の現場実習が義務付けられています(日本では幼・小・中学校で4週間、高等学校だと2週間あまり)。ちなみに、初等教育での教師の給料はその上限がOECD平均を下回っていることから、決して給与が高いわけではないことがわかります。日本で言う職としての安定よりも社会的ステータスが教師志望への重要動機と考えられます。

3)近年は教員を支えるICT活用を強く推進

教育をより質の高いものにするために、フィンランド政府はICT教育に力を入れています。

まず1995年から(Finland-Towards an information society、a national outline)として教育や学習にICTを取り入れることを国家戦略に盛り込みました。これは最低限のICT教育の環境を整えることに加え、各教育機関が自主的に計画、申請し、

1. 学習環境の発展・多様化
2. インフラ整備

の二種類のプロジェクトについて国家教育委員会が補助を行うものがメインでした。しかし、プロジェクトベースでのICT導入だけではその活用率は大きく向上しなかったため、2008~2010年にICTの教育への導入に向け国家単位の検証事業「ICTs in School’s Everyday Life Project」が開始されました。それを踏まえ、2011年にはフィンランド全国における教育分野のICT活用の指針を示した具体的な計画を策定し、2011年から2015年にかけて実行されましたが、これも十分に実現されたと言えない状況にあります。ただ、この計画の中で注目すべき点もあります。2014年教育文化省が官民連携・エストニアとの国際連携の下で 上記項目の多くにアプローチし、デ ジタル教材の流通や教員のノウハウ交換の場となるクラウドプラットフォーム (EduCloud)の構築を開始しました。このEduCloudは今では重要な機能を果たしつつあります。

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Finland EdTechの特徴

FinlandのEdtechはまだ数的規模として大きくないながら、粒ぞろいです。その秘訣は

・企業が教員とサービスを共同開発し、出来たサービスは国が支援して海外輸出
・熱量のあるイベントでStartupコミュニティが生まれ、EdTechがムーブメントに

1)企業が教員とサービスの共同開発/国がバックアップして教育の海外輸出

上記の国家戦略に加えて、教員がICTソリューションの開発に積極的に関わるように促す自治体も多いことはフィンランドの重要な特徴です。例えば北欧を代表するEdTechアクセラレータであるXEduでは参加企業が現役の教員とサービスの共同開発することがアクセラレータプログラムの重要なコンテンツになっています。下図を参照してください。

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加えて、公的機関による支援の下で

1. 民間企業の教育 ICT ソリューション開発を補助しその輸出を目指す取組
2. ICT教育に関係するアクター同士を繋げ、連携を促して他国への商談展開・広報を進める取組
3. 他国政府機関等と教育 ICT に係る共同研究を行う取組

も行われております。例えば国内で目立つ教育関連事業を海外に紹介するエージェントの役割を果たしているEducation Finlandは教育文化庁と 経済雇用省が財政的にサポートしています。

2)startup コミュニティ

国以外でも重要な役割を果たす機関が増えており、最初に紹介したXEduは年に2回数社アクセラレータするプログラムを運営しており海外と強いネットワークを持ちます。

また百人の教育専門家が選定することを特徴とする教育イノベーション事例紹介NPOのHunderED、Edtech特化のコンサルEdvisor Finlandや評価と認証制度のEducation Alliance Finland(旧称KOKOA Standard))などが挙げられます。
また、スタートアップコミュニティイベントとして最も名高いSLUSHの教育特化イベントXCitEDや北欧中のEdTech関係者が集まるDARE TOLEARN、上述のHunderEDが主催する国際フォーラムなど熱量の高いイベントが毎年開催されていることもEdTechの動きがここからさらに盛り上がるポテンシャルを示していると言えるでしょう。

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データで見た時、 EU全体でのVCによる投資額は2014年に約0.07B USDから2018年に0.449B USDへと増加を示していますが、アメリカは2014年時点に約1.2B USD 中国は約5.6B USDであることと比較すると、EU市場はまだ投資額で見て盛り上がり切れていないです。

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そのEUの中でもフィンランドへの投資額は2018年までの過去三年で約11-13.2Million USD)であり2017-18の一年でも投資額は約7.6Million USD)とEdTechへの投資額は必ずしもまだ盛り上がり切ってると言えないです。

しかし国内マーケットに留まらず海外で愛用されているサービスも多くあるのも事実です。

例えば、世界的に大ヒットしたスマホゲームのパイオニアであるAngry Birds はAngry Birds Playgroundとして教育コンテンツが幼児向けに創られ、原作同様に世界中で利用されています。Mightifierを展開するMighty Unitedは世界最大の児童向け出版教育企業Scholasticにクラスメイトへのポジティブなフィードバックを送れる自社アプリをライセンスしました。海外展開を自社で行っている例も多く、Seppoというゲーミフィケーションプラットフォームは14か国13000人の先生にも展開しており、ドバイ、ブラジルにも展開を開始しました。 教育成功事例の共有プラットフォームである Tiny Appはこのほど東南アジアに進出しましたし、フィンランド国内での評価も高い3DプリントとARの3D Bearはアメリカの22000学校、図書館と提携しました。幼児向けSTEAM教育用コンテンツ提供のKiDE SCIENCEもサービス提供開始から2年も経たずに14か国へと販売網を広げています。

10 monkeysは猿のキャラクターと一緒に算数の問題をゲーム学習アプリですが、世界100 カ国以上、450 万人が利用登録しています。 Mincraft EDUというMinecraftを学校での教育向けにカスタマイズ 40 カ国以上で利用されています。

Finland EdTechのトレンド

1)数学学習ゲーミフィケーション

ゲーミフィケーションは10Monkeys、Seppo、AngryBird Playgroundが2010年前半にローンチされたあたりからかなり強みを発揮していますが、その中でも数学学習にフォーカスしたものが目立ちます。上述の10Monkeysを始め、教師向けのPath to Math、小学生低学年向けのSmart Kid Mathが挙げられます。

2)職業訓練・学習記録

国柄、専門技術やスキルの獲得を支援する学校や制度が多いため、それをサポートするものが多く、国内で新たに登場したアプリのコンペティションであるeEemeli competitionで2018年優勝した Futural Skillsは職業スキル開発度確認アプリなどが挙げられます。上述のMightifier,世界一のオンライン学習プラットフォームのEDUTENをはじめ学習記録を踏まえたカリキュラム作成サービスは数多くあります。

3)VR・AR

最先端技術を用いた教育教材も日々開発されており、上述の3DBearをはじめ、AR歴史教材を扱うmemorandum、文化施設に行かずしてコンテンツが楽しめるMusemio、VR・ARでないが上述のLyftaは映像教育EdTechとして世界的成功を遂げており、今後VR/ARコンテンツ開発をすることも予想される。

今後の公教育とStartup

今後はICT教育をより浸透させれるように国としても力を入れるだけでなく、世界的に名が知れているフィンランド教育を輸出する動きが強まるとされ、その一翼としてEdTech企業のサービスが世界に羽ばたくことが大いに期待されます。それは教員と共同開発された質の高いサービスであることが世界で興るEdTechブームの中でも生き残れるだけの大きな武器を持っているためという事は言うまでもないでしょう。


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