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どんなサービスが主流なの?今後のトレンドとは? | フィンランドEdTech #3

この記事は株式会社BEILリサーチブログにて 2020/4/17 に公開した記事を移行したものです

一言で Edtechと言っても、対象者や内容によってサービスは様々です。この記事では、フィンランドのEdTechにおける7つの分野を紹介し、それぞれの傾向やサービスを紹介します。また、フィンランドEdTechの現状と今後のトレンドを解説します。

今回扱うトピック

・フィンランドEdTechの7つの分野
・フィンランドEdTechの現状と今後のトレンド

フィンランドEdTechの7つの分野

私たちは、フィンランドのEdTechサービスが以下の7つの分野に分かれると考えています。以下では、この7つの分野それぞれについて詳細を紹介していきます

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早期幼児教育

幼稚園に入学する前の幼児向けの早期教育サービスです。
幼児向けのサービスとして、童謡や絵本のアプリ、語学学習アプリなどが多くあります。また、幼稚園の先生と幼児の保護者のコミュニケーションツール、生徒情報を管理するためのアプリもあります。以下、具体的なサービスを事例として紹介していきます。

Moomin Language School

3-10歳の生徒向けの語学学習サービス。言語学者や早期教育の専門家により監修された、物語をベースにした語学学習アプリを提供しています。また、教育者向けに指導プランを提案するサービスもあります。幼稚園やプレスクール(小学校入学前に火曜一年間の教室)、小学校、言語センター、放課後の活動向けにサービス提供されています。

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K12教育

小学校~高校生までを対象に、主に学校の授業での活用を目的とした教育サービスです。多くは、これまで生徒のモチベーション維持が困難だった学習分野の領域にゲームの要素を加えたサービスを提供しています。

10 monkeys

小学生向けの数学学習アプリ。可愛い猿のキャラクターと共にゲーム形式で四則演算を学ぶことができ、生徒のモチベーションの維持に繋がります。難易度に応じ4つのアプリを活用できます。すでに英語、フランス語、ポルトガル語など12言語に対応しており、これまで100ヶ国1億人以上に利用されています。

Elias

AIとVUI(ボイスユーザーインターフェース)を用いたヒューマノイドロボットの言語学習サービスです。アプリには、経験豊富な現役の教師が作成した、歌やダンスを含む5つのエクササイズが入っています。英語、スペイン語、フィンランド語など20言語以上に対応しており、生徒はエクササイズを通じてロボットと会話しながら言語を習得することができます。学習の成果は分析され、学習方法をより効率化するためのフィードバックを得ることができます。

高等教育

高校生や大学生を対象とした、職業体験や、仕事に活かせるスキルを育成するサービスが多く見られます。また21世紀スキルの育成を重視するフィンランドでは、アントレプレナーシップ教育も近年流行傾向にあります。

Cesim

ビジネスの現場をバーチャルで体験することのできるサービス。リスクなく、インタラクティブに現実的なシチュエーションの中で経験を積むことができます。

Skiloon

自己理解や目標設定など、アントレプレナーシップの基礎的な要素を学習できるコースを提供するサービス。生徒はパーソナルフィードバックを受けることができ、先生は統計データを元にした生徒の成績を確認できる。

職業訓練

Fuzu

求職者がオンラインコースで学習し、キャリアアドバイスを得て、職を探すことのできるプラットフォーム。求人はキーワード、カテゴリー、場所などで絞り込み検索をすることができます。現在、ケニア、ソマリア、タンザニア、ウガンダでの求人を紹介しています。

また、ファイナンス、エンジニアリング、建設、農業など32のカテゴリーからコースを選び、仕事に必要なスキルを学習することができます。

プログラミング教育

2016年から導入されているナショナルコアカリキュラム(フィンランドの国が定めるカリキュラム)において定められた、7つのコンピテンシーのうちの1つに数えられるほどフィンランドではICTコンピテンシーが重要視されています。小学校1年生からプログラミングの授業が始まるため、低年齢向けのプログラミング学習サービスが大きな需要を背景にプレゼンスを発揮しています。

Code School Finland

基礎教育において、コーディング、ロボティクス、AIの学習をサポートするサービス。子供(7-15歳)向けのロボティクスのワークショップ、教師向けトレーニング、基礎教育および放課後学習のための学習教材の提供を行なっています。

STEAM教育

1970年頃より、フィンランドではSTEAM教育の重要性が認知されています。また学校では教師がそれぞれ独自にカリキュラムを組んでSTEAM教育を行うことから、STEAM教育を行うツールとしてのサービスや、カリキュラムそのものに対する需要が大きいのです。

Kide Science

幼少期(3-8歳)のうちに科学リテラシーを養うレッスンプランと、先生向けのトレーニングを提供するサービスです。フィンランドでの学術的な調査をベースとし、遊びを中心とした、子供達が楽しみながら学べるSTEAM教育のレッスンを用意しています。教育者向けのトレーニングは、①科学教育の基礎、②ストリーテリング・ドラマ教育、③Kide Scienceのアプローチを使った科学教育、の3つで構成されており、最後には修了証書をもらうこともできます。

教育者向けサービス

主に、学校運営やカリキュラムを管理するサービス、教育者間での授業教材共有プラットフォーム、宿題管理サービス、両親と教育者のコミュニケーションサービスなどが挙げられます。

Tiny App

幼稚園の先生向けのアプリ。園児一人一人の強み、興味、体調、学習の進捗などの情報や、幼稚園で撮った写真を管理できます。これにより、学習の成果を定量的に分析・把握し、生徒の評価を容易に行うことができます。また、これらの情報を園児の両親と共有することも可能です。

Seppo

教育者が様々な学習を簡単にゲーム化することのができるプラットフォームアプリ。ゲームを通した生徒の学習成果に対し、個別フィードバックをすることもできます。

現状と今後のトレンド

生徒の学習意欲向上を目的としたサービス

フィンランドの教育では、生徒中心の教育が重視されており、生徒の学習モチベーションを上げる工夫が多く施されています。例えば、学校ではクラスのサイズが小さく、先生の目が行き届きやすいことや、グループワークが多いことが挙げられるでしょう。

また、近年ではゲームを使い、生徒の学習意欲を上げる教育サービスが多く見られます。前回の記事でも取り上げたように、フィンランドでは教育以外の文脈でゲーム産業が発達してきました。有名な例としてはAngry Birdを生み出したRovio、Clash of Clansを生み出したSupercellなどのモバイルゲーム企業があります。そうした背景もあり、フィンランドの教育市場においても、ゲームを活用した学習サービスが発展しています。第1章で紹介した、ストーリーベースで言語学習ができるMoomin language Schoolや、数学の四則演算をキャラクターと共に冒険しながら学べる10Monkeysがその代表例です。また、Seppoは教育者自身がゲームを用いた教育サービスを作成するためのプラットフォームを提供しています。

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ゲームで楽しく学べる教育サービスの発展は、生徒の学習モチベーションを重視するフィンランドの教育方針と、ゲーム産業の発展という2つの要素が絡み合ってこそ実現した、フィンランドEdTechの特徴と言えるでしょう。

未来の働き方に備える教育サービス

社会に出た後、労働市場で活躍できるスキルを身につける機会を提供することも、教育の大きな目標の一つです。フィンランドは国際成人力調査(PIAAC)においてOECD参加国の24ヶ国中、成人(16-65歳)の「読解力」、「数的思考力」、「ITを活用した数的思考能力」の全てで2位を獲得しており、また若年層(16-24歳)はより高いスコアを示すなど、教育により学習者が社会生活において欠かせないスキルを身につけていることがわかります。

労働市場の産業構造やそれに伴う求められるスキルの変化に応じて、教育も変化しなければなりません。フィンランドで近年行われている、未来の働き方に備える教育サービスについて2点紹介します。

Entrepreneurship教育

世界経済フォーラムで示されたように、2022年には、記憶力などのスキルよりも創造力やイノベーションを起こす力が求められていきます。すでに起業やフリーランスといった働き方が若い世代にとって身近な選択肢になっているフィンランドでは、アントレプレナーシップ教育への需要が増加しています。変化に対応する力や、イノベーションを生み出す力を学べる機会を提供する学校も増えています。そんな中、第1章で紹介したSkiloonなど、アントレプレナーシップのマインドセットを学習できるサービスが提供されています。

AIとロボティゼーション

世界経済フォーラムでは、今後新たに需要が増す仕事の第2位に、AIとマシーンラーニングの専門家が選ばれています。

ナショナルカリキュラムによってすでにコーディングは全土で1年生から導入されています。しかしそれにとどまらず、フィンランドでは授業計画において学校や教員の裁量が大きいため、すでにAIやロボティゼーションについて教える学校も少なくありません。

また、学校に通っている就学者だけでなく、すでに就業している人など誰に対してもAIについて学ぶ機会を提供しています。例えば、ヘルシンキ大学とReaktorという企業が協力し、EU市民を対象としたAIについての講座をオンラインで開講しています。これはAIをはじめとする新しい技術の議論に遅れを取っていると感じている市民を対象にしたプログラムであり、教育の平等性を重視するフィンランドの特徴がよく現れているとも言えます。

今後も労働市場は変化し続け、それに応じて求められるスキルも変化します。未来の働き方を見据えたアントレプレナーシップ教育や、AIとロボティゼーションに関するサービスは今後も需要が期待されます。

生涯学習のサービス

日本と同様、高齢化が進行するフィンランドでは、生涯学習や企業における学習の重要性が高まっています。またオープンデータ化の流れも進行しており、成人向けに、オンラインでの教材共有やオンラインコースの開講が行われています。もともと成人が大学に戻ることが一般的なフィンランドでは生涯学習が定着しており、今後成人層の人口に占める割合が拡大傾向にあるため、サービスの需要は伸びるでしょう。また、国内市場が小さいフィンランドEdTech企業は積極的に海外市場(特にEU市場)に進出しており、経験や知見も豊富なため、今後高齢化が進む他の先進国への輸出のチャンスも得られるかもしれません。


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