【ウィズ・カタナ・スシ・アンド・ヒダル】#3

「タ、タイショー……、ヤッテル……?」「エエ、ヤッテマスヨ!」板前と寿司屋入店プロトコルアイサツを交わしつつノレンをくぐったのはムトー・タケミツ。装束は泥で汚れ、頬はこけ、目は落ち窪み、別人のような、ビンボガミめいた有様だ。

無理もない。もう5日も碌な食事を取っていないのだ。

「イクサには食糧が要る」平安時代の哲人剣士、ミヤモト・マサシのリベリオンハイクもある。

「オススメはウニ・グンカンですよ」板前が後ろを向いたまま声をかける。「じゃあそれで…」タケミツはカウンタァの椅子の一つに腰掛けた。カウンタァに醤油汚れがこびりついている。

ドクン。ニンジャ第六感が危機を告げる。「イヤーッ!」タケミツは椅子に座ったまま、後ろに倒れこんだ。

ニンジャアドレナリンが過剰分泌され、視界がゆっくりと地面に対し垂直になっていく。鼻先すれすれを柿色の飛沫が飛び去っていく。倒れこんでいなければまともに顔にかかっていただろう。

タケミツは更に倒れこむ勢いを利用し、3連続バック転で背後にある座敷席の畳の上に飛び乗った。ワザマエ!そしてアイサツ!「ドーモ、ムトー・タケミツです。…なんの真似だ、コイツァ!?」

「チッ、よくぞ見破った!」板前がアイサツを返す。「ドーモ、ムトー・タケミツ=サン、ポイズンハンド=です」いつのまにか割烹着は脱ぎ捨てられ、邪悪な黒ニンジャ装束が露わだ。装束から覗く両腕はケバケバしい柿色。致命的なドク・ジツ使いであることは明白!

「貴様!この店の板前は!?」タケミツが吠える!ポイズンハンドは顎で床を指した。柿色の泡だらけの割烹着が落ちている。ナムアミダブツ、それが答えだ。両者の殺気がぶつかり合い、張り詰めたカラテで空気がひび割れる。

「イヤーッ!」先手を取ったのはポイズンハンド!右腕をしならせて振る!腕から生成された柿色の致命ドク飛沫が散弾めいてタケミツを襲う!

「イヤーッ!」タケミツは畳を叩いた。バン!バン!バン!畳が独りでに持ち上がり、盾めいて致命ドク飛沫を防いだ。ゴウランガ!これぞ秘技、タタミガエシだ!

「それで防いだつもりか!イヤーッ!イヤーッ!」ポイズンハンドは更に右腕を振り、致命ドク飛沫を乱射!Shhhhhh!盾畳から煙が上がる!溶かされているのだ!徐々に不利!

「イヤーッ!」シャウトとともに盾畳の陰から斜め上に影が飛んだ!「トッタリ!イヤーッ!」ポイズンハンドは温存していた左腕でポイズンカラテストレートを放つ!拳大の致命ドク飛沫が…「何ッ!?」影はタケミツに非ず!アミガサのみ!

「イヤーッ!」アミガサとは別の側から盾畳を飛び出したタケミツがワキザシを投擲!「グワーッ!」顔面を…断ち割る…!

否、浅い!致命傷には至らず!しかし、タケミツは「イヤーッ!」ポイズンハンドが怯む隙に一挙に間合いを詰め、必殺の横一文字抜き付け!

ポイズンハンドは…、海老反りでこれを回避!「トッタリ!イヤーッ!」ワキザシが食い込んだまま、悪鬼の形相でタケミツに摑みかかる!柿色の掌が不穏に泡立つ!

「イヤーッ!」「アバーッ!」絶叫を上げたのは…ポイズンハンド!ゴウランガ!タケミツは横一文字抜き付けが回避された直後、即座に左手で握った鞘でポイズンハンドの顔面を、顔のワキザシを突いたのだ!顔面に食い込んだワキザシが更に深く食い込み、顔面完全両断!「俳句……は無理か……」

「サ、サヨナラ…!」爆発四散!タケミツは暫しの残心ののち、床に落ちた泡だらけの割烹着に手を合わせた。……またしてもスシ獲得ならず。

………………………

翌日、カタナを杖にして山道を蹌踉めき歩くニンジャあり。タケミツだ。頬は更にこけ、肌の色は青黒く、目ばかりが血走る。重篤なスシ欠乏症だ!

目の前をウサギが通り過ぎた。タケミツはワキザシを抜き、投擲姿勢を取ろうとし……、そのままうつ伏せに倒れた。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?