【エイム・ザ・ヒューマニティ】#上

(((アイエエ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?)))マゴは悲鳴を押し殺し、失禁を堪える。

数百メートル先ではニンジャのイクサ、否、虐殺が繰り広げられていた。

……………………………

数分前、トリイ社戦車師団の行軍進路上に、謎の上半身裸ナイスミドルサラリマンが不敵に正座していた。否、謎ではない。男の正体は、脇に畳まれた武者鎧やサイバネ腕に刻まれた雷神紋から明らかだ。

装甲指揮者のハッチが開き、トリイ社の装甲師団長が尊大にお辞儀した。「ドーモ、年間休日矮小なる奴隷めいたオムラ社員=サン、我々はトリイ社です。我々の行軍進路上で何をしているのですか!?大人しく投降し、当社の企業裁判を受けなさい!さもなければこのまま轢き殺しますよ!?」

上半身裸ナイスミドルサラリマンは無表情のまま、冷淡なアイサツを返した。「ドーモ、年収矮小なるトリイ社の皆さん、栄光あるオムラ社の専務補佐、デモンズソウルです。ただ今、貴社を殲滅する段取りを考えていたところです」

直後、上半身裸ナイスミドルサラリマンを中心に、黄色い光の柱が天に立ち上った!そして光の中から歩みでた存在は!「GRRRRRRR!!」身長7m!はちきれんばかりにパンプアップされた肉体は深緑色のウロコと、同色のサイバネ装甲のパッチワークで有機的に鎧われている!振り乱した髪の奥からは、ヤギめいて曲がりくねった二本のツノが生え、瞳は邪悪かつ怜悧な知性に爛々と輝く!オ、オバケ!

「撃てーッ!撃て撃て撃て撃て撃て!社敵退散!」師団長から指示されるまでもなく、戦車や装甲車や歩兵が、機関銃や榴弾砲を撃ち込んだ。

BARATATATA!BARATATATA!KABOOM!KABOOM!KABOOM!大地がえぐれ、土埃が立ち込めた。誰もが勝利を確信し、そして絶望した。無傷。こんなに大きいのに。こんなに近くにいるのに。一発も当たっていない。

BARATATATA!BARATATATA!斉射第2波を掻い潜りながら、デモンズソウルは前進を開始した。熟練のカブキを思わせる、優美ですらある歩みであった。

「撃て!撃て!う、あ……」トリイ社師団長はデモンズソウルを仰ぎ見た。死が、自分を見下ろしていた。

「イヤーッ!」KRAAAAASH!暴走巨大クレーンめいた強烈なケリ・キックが指揮車を捉えた。サッカーボールめいて吹き飛んだ指揮車は後方の装甲車二輌を巻き込み爆発炎上!ナムアミダブツ!

「イヤーッ!」KRAAAAASH!「イヤーッ!」KABOOM!「イヤーッ!」「アババババーッ!」「イヤーッ!」「助けアバーッ!」

「アイエエエエ……」マゴは失禁を堪えつつ、デモンズソウルの激しくも優美なカラテを絶望的に見やった。7mもの巨体に関わらず、視界に収め続けることが困難なスピード!

パシュッ!パシュッ!パシュッ!戦闘ヘリ部隊がアンタイ・ニンジャミサイル発射!「イヤーッ!」デモンズソウルは流麗な連続側転で全弾回避!そして開脚ジャンプからのジャンプパンチ!落下しながらの踵落とし!更に戦車から引きちぎっていたキャタピラ投擲!ゴウランガ!戦闘ヘリ部隊全機墜落!

着地直後の隙を狙い、戦車隊が迫る!「イヤーッ!」デモンズソウルの両サイバネ腕の甲からワイヤーケーブルが飛び、戦車に次々と突き刺さる!そして、ZZZZZZZZZZ!「「アババババーッ!」」

ワイヤーから流された高圧電流が戦車を内から焼き焦がす!

KAKAKAKAKAKAKABOOOOOOOOOOOOM!回避したアンタイ・ニンジャミサイル、墜落した戦闘ヘリ部隊、電流に焼かれた戦車隊が同時に爆発!ニンジャのカラテにアクマの残忍さ、テックの冷酷さが加わり3倍、すなわち無敵。デモンズソウルは、爆炎に照らされつつ、己が蹂躙した戦場を眺めた。その口元がほんの僅かに歪んだ。

待っていた。その顔が見たかった。

デモンズソウルの巨体がピクリと揺れ、彼は不思議そうにマバタキした。

もう尿意を感じなかった。確かにニンジャは半神めいたカラテの化け物。一介のモータルに過ぎぬマゴには殺せぬ。だが、時にニンジャはヒトに戻る。怒った時、哀しんだ時、予想外の事態に動揺した時、勝利を確信した時。ヒトにはこの弾はかわせぬ。

栄光あるオムラ社の専務補佐はゆっくりと前へ三歩歩き、仰向けに倒れ、爆発四散した。

狙撃スコープ越しにデモンズソウルの爆発四散を見届けたマゴ・スズキは暫し黙祷した後、銃の側面に十字架を書き加えた。十字架は9つになった。

【エイム・ザ・ヒューマニティ】#上終わり 下に続く。



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